力試し
新キャラいっぱいです。
私はゆっくりと歩みを進めて、三人の様子を見た。ヘレイとヨルンは、剣を構えて私の動きを確かめている。そして、リミローラは姿を消した。
実に単純な作戦だね、リミローラが撹乱して隙を作らせ、二人で一気に攻めるんでしょ?
この作戦で褒め所が有るなら、リミローラかな。私に気付かせ無かったのは、姿を消す魔法だろうし。
リミローラが姿を消したのは、恐らく魔法を二つ組み合わせている。一つは自分の周りと別の空間を入れ替える魔法。これを使えば、一瞬にして距離を詰める事が出来る。
消えていると思わせたのは、この魔法を連続して使っているから。但し、これだけでは私の目を欺けない。虚構と擬態を応用して、魔法を使っていないと誤認させたんでしょう。
その結果、あたかも存在していない様にみせかる。
一つ目の魔法はカリストが得意だったから、見様見真似で使える様になったのかな? それはそれで凄いけどね、一度は私も騙されたし。でも、二度目が有ると思うなよ。
これは一見、完璧な潜伏に見えるけど、弱点も存在している。私は彼女の近くに居て、力の根源は把握した。それを探すだけで、隠れている場所がわかる。
私は意識を訓練場全体に広げて、リミローラの力を探る。紛らわそうとしているのか、訓練場のあちこちから魔法の痕跡を感じる。
そんな小手先の技が、私に通用すると思ったのかな? それは悪手だよ。返って居場所が特定し易くなる。だって、魔法の痕跡が有る場所に、リミローラは隠れて無いんだし。
「ほら簡単。みつけた」
私の言葉に動揺しなかったのは褒めてあげる。少しでも空間が揺らいだら、隠れてる場所がバレ易くなるしね。まぁ、どう頑張っても遅いんだけど。
それに比べて、慌てて剣を振りかざす二人は残念かな。どちらか一人でもリミローラを探すのを邪魔していたら、もう少し試合は続いただろうね。
私は空間を入れ替える。二人の剣が私の残像を切る。地面から三メートルほど上の辺りまで飛び上がり、リミローラの腕を掴んで二人へ投げつける。
二人は素早く後ろに飛び、それを躱す。リミローラは空中で体勢を立て直して着地した。
「くそっ! 失敗じゃねぇか!」
「うわぁ、一瞬で見つかったっすね。流石っす」
「やれやれ。本気でやらないと、届きもしない様だね」
「わかった? 連係を工夫しないとね」
「こうなったら、一対一で勝負しろや!」
「ヘレイ。言われたばかりだろ? 連係だよ」
「うるせぇな、わかってるよ」
「だったら、協力するっすよ。ヘレイとヨルンは休まず攻撃、必ずどっちか後ろを取る事!」
「おう! やってやるぜ!」
「任せなよ。今日を記念日にしてやろう」
「止めは私に任せるっす」
作戦が私に聞こえてるのは置いとくとしても、未だわかって無い様ね。
せっかくリミローラの撹乱が通用しない所を見せてあげたのにな。それに、あれ位なら私にも出来るんだよ。まぁ、良いけどね。
「頭を使わないと勝てないよ、ガキ共!」
「負けるかよ! 行くぞ、ヨルン」
「足を引っ張るなよ、ヘレイ」
作戦通りなのか、先ずはリミローラが姿を消す。そしてヘレイが私の正面から、ヨルンは私の後ろに回り込んで剣を振り下ろす。だから、それは悪手なんだよ。
私は剣を避けずに、体に届くギリギリまで待つ。そして、背後のヨルンと場所を入れ替える。剣を止める事は出来ず、二人は互いを斬りつける。
大した痛みは無いだろう、しかし隙は出来た。少し慌てたのか、リミローラが私の背後に現れる。
残念だけど、それも悪手だよ。繰り出したリミローラの拳は、ヘレイの顎を捉える。何故なら、寸前に場所を入れ替えたから。
ヘレイは膝から崩れる様にして倒れる。私はすかさず、ヨルンの腹部を蹴って吹き飛ばした後、体を回転させながらリミローラを蹴り上げた。
いずれも意識を失い倒れ付している。私は皆を見渡して溜息をついた。
ヘレイの動きは悪く無かった。ヨルンもそうだ。かなり強くはなっている。しかし人の域は超えていない。タカギと稽古させても、同じ結果になっただろう。
リミローラの才能は脅威だが、実戦が足りていない。だから動きが単調でわかりやすい。ヘレイとヨルンには通用しただろうが、それで満足して貰っては困る。
戦いの中で能力を発揮すれば、前線に立つであろうヘレイとヨルンが活きてくる。
今回は、リミローラ有りきの作戦だったけど、ヘレイとヨルンを主軸にした作戦であれば、もう少しは戦えたかも知れない。
全員これから。まぁ、千年以上もかけて培った事を、簡単に超えられても困るんだけど。
「う〜、いてて」
「目が覚めた?」
「あ〜、なんか調子に乗ってたっす」
「そうよ。反省なさい」
「はい」
隠れてエレクラ様を観察して、バレなかったんだよ。もう少しやれると思ったんだけどな〜、エレクラ様は強いね。
それに、お手本まで見せて貰っちゃったよ。でも、あんなんじゃ無いんだよね、もっと出来るって事だよね。いや〜、悔しいね。凄く悔しいね。
本当はね、褒めて欲しかったんじゃないんですよ。安心して貰いたかったです。
私はね、楽しかったんです、嬉しかったんです。色々と悩む事も、全部ほっぽりだして遊ぶ事も、あのままでは出来なかったんですよ。
十年でも二十年でも、例え百年でも、エレクラ様の過ごした年月に比べれば極わずか。そんなのはわかってるんですよ。
隣に立てるとは思っていない。せめてタカギ程には、エレクラ様を不安にさせない存在で有りたいと思ったんです。
ホント、悔しいな。『我々は未だ足りない。どんなに努力しても、我々はエレクラ様のお力になれない、足を引っ張るだけだ。だからこそ我々は礎になる。魔窟をいつでも崩壊させられる様に、楔を打つんだ』なんて、言いたい事はわかるんですよ。でもね、もう少し出来ると思うじゃないですか。結局はソウマが一番の正解だったんすね。
「ねぇリミローラ。これから嫌ってほど実戦の機会が有るからね。付き合って貰えるかな?」
「お、おお? 見限られたのかと」
「まさか! 期待してるわよ」
「はい! 頑張ります! いやその、頑張るっす!」
☆ ☆ ☆
ヘレイと喧嘩してぶちのめされた後に悔しいと思える。イゴーリとパナケラの頭脳と魔法を羨ましく感じる。リミローラの才能に追い付きたいと頑張る。ソウマの統率力が凄いと感じる。
仲間達が常に刺激を与えてくれる。その度に幸せなんだと実感する。エレクラ様に救われなければ、俺はその幸せを感じる事が出来なかった。
仲間達はそれぞれ思う所が有って、自分が出きる事で恩返ししようと頑張った。俺には何も無いけれど、頑張ろうと思った。
仲間達についていくのは大変だった。それでも少しずつ自分が成長してると実感してた。幸せだって感じてた。それも脳天気な程に。
エレクラ様が首都に来たとわかった時は、とても嬉しかった。だから驚かせようと思った。俺の成長を見てもらいたかった。
でも、現実は違った。俺は最後まで何も出来なかった。あぁ、俺は今まで何をして来たんだろう。何を成し遂げたつもりでいたんだろう。何も出来てさえいなかったのに。
って痛っ、痛たっ、誰か俺を蹴ってるのか? リミローラか? いや、ヘレイか? 全く、静かにしてられないのか?
「もう目が覚めてんだろ! いつまで悩んだフリしてやがんだ! エレクラ様に挨拶しろや!」
「何だよヘレイ。干渉に浸らせてくれよ」
「いいから挨拶だ!」
「すみませんエレクラ様。お久しぶりです」
「違う! シルビアさんだ!」
「うるさいのはヘレイっすよ。すみませんシルビアさん」
「リミローラ! てめぇ、母親面するんじゃねぇ!」
「はいはい、喧嘩は終わりね」
「それでシルビアさん。稽古は?」
「今日は終わり。次はソウマと相談してからね」
「おい! 話が違ってねぇか?」
「大丈夫よ。みっちり鍛えてあげるから」
ヘレイとヨルンは、もう少し時間をかけて鍛えないといけない。それに、自分自身でも思う所が有るだろう。
私も他人のことをとやかく言えない。だいぶ鈍ってる様だし、稽古の中で感を取り戻さないと。
それにしても、今日は予定外の事ばかりで疲れた。でも、みんなの様子を確認出来て良かった。
さぁ、国盗りの始まりだ。慎重に、確実に、そして絶対に。
本作は人物描写は極力省いてます。
そんな訳で次回もお楽しみに!




