問題児達
2022年、最初の投稿です。
退屈だ、こんなつまらねぇセカイにしたのは誰だ? 今すぐぶっ殺してやるから出て来いよ!
俺を退屈させなかったのは、カリスト様とエレクラ様、それにタカギだけだ。そのカリスト様がぶっ殺されたって聞いた時は、すげぇ驚いた。信じらんなかった。
だってよ、支配者ですらぶっ殺せる人だったからな。セカイがそう言ってだんだから、間違いねぇだろ。
死んだ理由は、優しさって奴だ。そうじゃ無ければタカギに殺される筈がねぇ、どんな英雄にも負けはしねぇ。カリスト様は優しかったからな。俺達みたいな孤児を助けてくれた位だしな。
だから、タカギを助けようとしちまったんだ。カリスト様を馬鹿だと思わない。寧ろすげぇと思う。自分の命を狙ってる相手を助けようなんて、誰が考えるんだ? 例え思った所で、体が言う事を聞かねぇよ。
タカギが悪いとも思えねぇ。セカイの支配者に操られてただけなんだしな。
俺が退屈なのは、そんなつまんねぇ事じゃねぇんだ! わかるか? 人は変わらねぇんだ! 強くなろうとも思ってねぇ! 仕方ねぇけどな、そう作られて無いんだからよ!
でも違うだろ? 競い合うもんだろ?
イゴーリとパナケラが喧嘩する様に、あの姉妹がソウマに負けまいと頑張る様に、ヨルンが俺に挑む様に、俺がリミローラに挑む様にな。
独りで黙々と体を鍛えた先に何が有る? それで満たされた気分になるのか? 心を鍛えたつもりでいるのか?
馬鹿じゃねぇのか! てめぇが弱い事を認めるから強くなれるんだよ! 比べる相手が居なければ、てめぇの貧弱さがわからねぇだろ!
最強だと思っていたカリスト様にも弱点が有った。誰もがそんなのを抱えてるんだ。どんなに強くなってもな。ただのガキなら尚更だろうが!
最初は楽しかった。軍の奴等は、どいつもこいつも俺より強かったからな。でもな、直ぐにつまらなくなった。
それは、俺が一番になったからじゃねぇ。奴等の強さには心が無い。薄汚ぇ暴力でしか無かったからだ。
今の俺を楽しませてくれるのは、仲間達だけだ。でも、そんな退屈は終わりに出来そうだ。何せエレクラ様が来て下さったんだからよ。
☆ ☆ ☆
魔法研究所を後にした私は、軍本部へと向かっていた。そして私は少し躊躇していた。
恐らくあの子は、訓練場で私が来るのを待っている。そして私を見つけると『エレクラ様ぁ〜! 喧嘩しようぜ、今度は負けねぇからよぉ!』って言うに決まってる。
せめてソウマに、リミローラの同行許可を得れば良かった。あの子が居れば、喧嘩する気が無くなると思うのに。
カリストが居なくなって、あの子は寂しそうにしてたし。構ってあげたいんだけど、しつこいからね。今日中にみんなと会っておきたいんだけど、諦めるしかないのかな?
「う〜ん、どうしよっかな」
「どうもこうも、手足の骨を全部折ってやれば良いんすよ」
「え?」
「どうもっす。シルビアさん」
「いつから居たの?」
「ずっとっすよ。本物かどうか見張ってたっす」
「リミローラ、貴女……」
「凄いっすか? 褒めてくれてもいいっす」
「うん……凄いね。でも」
「大丈夫っすよ。シルビアさんには結界を張っているんで」
「それを私が気が付かなかったと?」
「そうっす。私にかかれば、朝飯前の体操前のお布団の中っす」
「意味がわかんないよ」
「そうっすか? ソウマにも言われるんす」
私は呆気に取られていた。リミローラは今の今まで私の近くにいて、私はそれに気が付かなかった。そんな事が有り得るの?
それが本当から、私やカーマどころかカリストをも超え、クロア様に至る程の可能性を秘めている。
だけど、こんな能力を持っている子を、アレが放っておくの? 今までは無事でも、これからも同じとは限らない。
「あ〜、それも大丈夫っすよ。多分、私の才能っす」
「それって?」
「隠れる、覗く、欺くみたいなのが得意っす。あ〜、よく考えると私って駄目な奴?」
「いや、そんな事ないよ」
「そうっすか? それなら、あの姉妹みたいに抱き締めてくれるっすね」
「うん。でも、ここだとちょっと」
「わかってるっす。楽しみにしてるっす。取り敢えず、ヘレイをぶっ飛ばしに行くっす」
私はリミローラの言葉を聞いて、昔の事を思い出していた。誰が言ったのか忘れたけれど『リミローラが隠れたら、誰にも探せない』と聞いて遊び半分に試した事が有る。
やろうと言い出したカリストは疎か、魔法なしでは私も探す事は出来なかった。
虚構と擬態は、貴女とソウマにはピッタリの魔法だったようね。いつも冗談交じりでイマイチ掴みきれないけど、貴方はそうやってみんなを守って来たのね。ソウマが近くにおいていたのは、そういう事か。よく頑張ったね。
「ありがとう、リミローラ」
「うひょ〜、お褒めの言葉を頂いたっす。もう死んでも良い位っす」
「いや、お願いだから死なないで」
「大丈夫っす。カナちゃんの手料理を食べるまで死ねないっす」
「もしかして、家まで見に来た?」
「そうっす。二人共すっごく可愛かったっす」
☆ ☆ ☆
「所でシルビアさん」
「どうしたの?」
「訓練場で待ってるのが、ヘレイだけだと思います?」
「ヨルンも一緒なの?」
「そうだったら、今日中に全員と会えますね」
「喧嘩してたら、貴女が止めるのよ」
「あれれ? もしかして少し前までおばあちゃんだったから、喧嘩が弱くなったとか?」
「そうよ。千年以上も生きてるんだから労ってよね」
「後で肩を揉みますね」
「期待しないでおくね」
リミローラの言葉に一抹の不安を感じつつも、取り留めの無い話をしていると、直ぐに時間が過ぎ去ってしまう。
また、往々にして嫌な予感は、想像した通りじゃなくて斜め上を超えてくる。
訓練場を訪れた私達の目に飛び込んで来たのは、練習用の剣を激しくぶつけ合う二人の男であった。
「いやまぁ。そりゃあさ、音でわかってたけどさ」
「汗がここまで飛んで来そうっすね」
「変な事を言わないでよ」
「それにしても予想外っすね」
「何が? リミローラの言った通りじゃない」
「いやぁ。私は『男二人に迫られる老婆』を想像したんすよ」
「そんなの想像しないで」
「こっちに気が付かないとか、修行が足りてないっすね」
「それより、あの子達を止めてよ!」
「私も混ざるっす」
「はぁ? だから、あの子達を止めてよ!」
「嫌っす。三対一の勝負っすよ」
リミローラは一瞬で数メートルの距離を縮めると、目にも止まらぬ速さで振り下ろされた二つの剣を掴む。
そこまでは良い。良く成長したと褒めてあげる。問題はそこからだ。
リミローラを中心に、三人はゴニョゴニョと話し始めた。そして一斉に私の方を向いた。その目は、子供の様にキラキラしてるとは言い難く、喧嘩が大好きな戦闘狂の目をしていた。
「はぁっはぁっはっはぁ! シルビアとやら! お前の強さを確かめてやる!」
何を言ってんの? ヘレイは、相変わらず馬鹿なのか?
「ふっ、違うなヘレイ。俺がお前達を下して最強になる」
そうか、ヨルンも子供のままか。それに比べてパナケラの安心感ったらないね。
「三人でかかれば、倒せるかも知れないっすよ」
リミローラは調子に乗ってるね。たかだか十年や二十年程度鍛えた所で、私に勝てると思うなよ、悪がき共め!
そうして、私と三人の模擬戦ならぬ喧嘩が始まった。いや、本当は始めるつもりなんて無かったよ。面倒だしね。
皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
次回もお楽しみに!




