ハルディンホテル
それは今世紀の逸脱者の話。
魑魅魍魎なる不幸の次元より生まれ落ちたコヨーテが目指したのは"新天地"と呼ばれる窒素呼吸生物の空。
東洋の北星から電波を通し歯車を買い、ユーラシア大陸の東縁の賢人と話す。
「白く巨大な無の夢を映す高潔な空は如実の街への扉となる」
これが皆の口癖だった。
可哀想なコヨーテ。
誰にもなれない。
地上ではマイナーと呼ばれる、くじで抜擢されては清廉な雨に打たれ錆ては放棄される。
不幸の次元より遥かに美しく聳え立つ空に向かうには神々しい巨大な金の門を開く必要がある。
その為には賢者を飢餓に晒さなければならない。
持たぬ者は己の力を遠くから得る。
実学から城を立てんとするが代償とし映される姿は異質の存在として捉えられる。
門を通り異臭を放ち迫り来る者は四肢を無くしてでも得ようと這いずる。
持たぬ者には媚びもせず笑い飛ばす。
錯視の霧に阻まれ行く宛ての無い者はインターネットで人工惑星から国家に帰還。
不幸訛りが普通のコヨーテは羨望の的となり、行く先々で取り囲まれる。
可哀想なコヨーテ。
晩年に、虚無の地を涙で濡らし祈りのポーズで言葉を吐いた。
「存在の意味を知りたい」
可哀想なコヨーテ。
誰にもなれない。