マーガレット
ハリスの城までは、風の精霊の力を借りれば、二日ほどでたどり着く。今は絨毯の上で風の精霊の力を借りながら、くもの近くをのんびりと過ごしている。そのため、モンスターにも合わずに過ごせる。
「ナナ、天候が崩れそうだ。今日は、この辺りで休もう」
サードの言葉にうなずくと、私たちはゆっくりと地上に降り立つ。
ハリスの城に続く山の手前にある小さな村で、一晩過ごすことにした。
村には、一軒だけあった宿屋に泊まることにする。宿の部屋に入ると、雨が振りだした。
「サードの天気を読むのは、昔からすごいね」
振りだした雨粒を見ながら、私が呟くと、サードは、少しいたずらっこのような表情をして、
「誰かさんが、雨に打たれると風邪を引くからね。その看病をしないですむようにさ」と言う。
「‥たしかに、そう‥かも‥」
水の精霊の祝福を受けているので、水のなかでも息ができるとか水魔法も使えたりするのだが、雨に打たれると必ず風邪を引いてしまい、その看病をサードが寝ずにしてくれることとなってしまうので、サードは雨に関しての天気を読む力はすごいのである。
「‥っ。」
私とサードは、扉に警戒する。
何かの気配がするが、こちらへの敵意を感じない。
サードが、剣を片手に、勢いよく扉を開けると、扉に耳を近づけていたものが、ころんと倒れこんだ。
「お前か‥」
サードが、ため息をつきながら、剣をおさめる。
「久しぶりね、マーガレット。」
私は倒れたまま、うずくまっている白い猫耳の少女に声をかける。
「やっぱり、ナナだ!」
私の声を聞き、勢いよく抱きついてくる。
彼女は、獣人のマーガレット。7歳くらいで、シャルルを城へ送る途中で出会った。
出会った時の彼女は、すべてのものを忌み嫌い、触れたものを切り刻む残酷さも持ち合わせていたが、心は孤独に蝕まれ、体からも血が溢れ、息も絶え絶えだった。
あの日も、雨が降りそうで、宿へと急いでいた。ふと、森の木の影から気配を感じ、覗き込むとマーガレットが、血を流して倒れていた。息も絶え絶えで、呼吸も浅かった。私は、聖なる力を使おうと彼女に手を伸ばした。彼女は、私の手のひらに、爪でひっかいた。
「貴様!」
サードが、凄まじい殺気を放ち、マーガレットを斬ろうと剣を構えた。
「兄さん、私は大丈夫だよ」
私がサードを、笑顔で見つめると、サードは、剣をおさめてくれた。
私は彼女をみながら、「ビックリさせてごめんなさい。私はナナ。その傷を治させてもらってもいい?」と聞くと、彼女は、私の瞳を見つめ、はぁっと、深い息をはいた。そして、彼女は、決心したようにうなずいた。
私は、彼女に聖なる力をむける。
「治れ」
私が呟くと、彼女の体が白い光に包まれ‥白い光が消えるとそこには、完全に体の傷がなおった彼女がいた。
体の傷が治ったことを、確認すると、私の体に寒気がおそう。いつの間にか雨はどしゃ降りになっており、そこで、私の意識はなくなった。
眩しい朝日で目が覚めると、柔らかいベットに寝かされていた。隣に目を向けると、シャルルが、ベットの脇で眠っていた。
「ここは‥」
部屋を見回すと、部屋の隅で彼女が、こちらを見ていた。
「体の調子はどう?」
「‥」