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バラの花園で  作者: 茉莉
はじまり
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フォルデンの森

爽やかな風が、吹き抜ける。

「ここが、フォルデンの森なのね。」

私は、穏やかな森に、目を閉じる。

「あぁ、そうだよ」

サードは、私を優しい眼差しでみつめる。


あの日、父が、私をサードに託してから、サードは、この森の奥深くにある場所で、一年ほどひっそりと暮らしてきたらしい。

この森には、たくさんの精霊が、生活を営んでおり、サードが留守にするたび、森の精霊、風の精霊、水の精霊、そして火の精霊が、私を守り、慈しみ、育ててくれたそうだ。

そのため、私は全ての精霊の祝福を受けており、それが、私の聖なる力を、邪なものたちが感づくことから、守っていてくれるのだ。


私が歩けるようになると、サードは、この森を出て、冒険者として、私と共に各地を転々とした。


私の力を、各地にのこすために。


私のは左胸の上に、バラの紋章がある。それも、ふたつも。

それは、私が聖女である証であり、同時に勇者であることも示していた。


はじまりの国の言い伝えで、聖女には、左胸にバラの紋章があらわれ、1000年に一度2輪のバラの紋章がある聖女と勇者の力を持つものが生まれ、そのものが、魔王を葬ると言われていた。


奇しくも、魔王の復活が、囁かれる最中に、私が生まれた。私が生まれたとき、一日中、光が私を照らし続けており、聖女の誕生だと人々は狂喜した。その一方で、私を手中にいれようとするもの、私を葬ろうとするものもあらわれた。生まれたばかりの私では、まだ、何も出来なかったのだ。だから、父は、王が、私を手中にいれようと屋敷を囲んだとき、父はサードに、私を託し、地下の抜け道から、逃がし、屋敷に火を放ったのだ。

父は、私の死を嘆き、王の忠実な下部として、現在まで生きている。宰相の任についていると、サードはいっていた。父のことも、母のことも、ほとんど覚えていないが、私を慈しむ、優しい眼差しが、いつも私の心を照らしていてくれる。


「ナナ!久しぶり~」

嬉しそうに私の周りを飛んでいるのは、風の精霊、フーディン。15センチほどの小さな精霊だが、その力は計り知れない。

「大きくなったな」

と、私の頭をなでてくれるのが、森の精霊、フォレスト。180センチほどの長身で、きれいな髪に、きれいなエメラルドグリーンの瞳をしている。

「二人とも、綺麗だね」

変わらない美しさに、思わず目を細める。

「時が満ちたのだな」

フォレストが、私を真っ直ぐにみつめる。

「今まで、私の力を守っていてくれてありがとう。」

私はフォレストを抱き締める。

「お前がバラの花園で、聖なる力でバラを咲かせることを祈っているよ」

フォレストは、そう呟くと、私の中の消える。

「ありがとう。」

私はもう一度つぶやく。

この森を出立した日。私は、私のからだの中にあった聖なる力をフォレストのからだに封じた。日々の成長の中で聖なる力は巨大になり、制御できなくなっていたためだ。敵に感ずかれるわけにはいかなった。そして、フォレストが選ばれたのは、フォレストの命の灯火が消えようとしていたためだった。長く生き、フォレストの体は、もう消えそうだった。でも、私の聖なる力を封じこめれば、その力によりしばらくは、そのままで過ごすことができた。そして、今日、力と一緒に、フォレストが私の一部になったのだ。涙がほほを伝う。


あの時は、こうなることが理解できていなかった。フォレストが、私の一部になること、それは、私にとっては幸せなことだ。でも、フォレストにとってはどうなのだろう‥今は、正直わからない。

あの時、この森を去るとき、フォレストの運命を知り、私はフォレストにいきてほしかったのだ。消えてほしくなった。だから、力を預けた。フォレストの気持ちも考えずに、自分の気持ちを押し付けてしまったのだ。

フォレストは、優しい。いつも、私の髪をなでながら、優しく微笑んでくれていた。私が私の力を押し付けたときでさえ、いつもと変わらぬ優しい微笑みで。


私の中にフォレストがいる今、私はまたフォレストを閉じ込めてしまったのだと、そう思うと、胸が小さく痛む。それでも、それでも、私はフォレストとともにいきていこうと思っていた。

「サード、お願いがあるの」

私は涙をぬぐうと、サードをみつめた。

「私はあなたの騎士です。この命はあなた様のもの。なんなりとお申し付けください」

サードは、膝をおると私にそう告げた。


「私は、今までサードと一緒にまいた私の力の種が芽吹き、花開かせるための旅に出ます。」

私は、サードの忠義に感謝しながらも、サードに難題をつきつける。

「今日から、サード、あなたが勇者です。私はただのあなたの妹。戦えますし、治癒魔法は使いますが、聖なる力は使いません。お願いできますか?」

穏やかな表情をみせながらも、その発言には拒否させない、冷たさもあった。

サードは、表情もかえずに、静かに言った。

「あなたの心のままに。」

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