終章
一瞬の出来事だった。候補生の学習能力は極めて高い。人間の意志を持った該当個体が愚か者である事を理解させるのは容易な事だった。だが、再生産が可能な状態とは言え、候補生を意図的に処分する事態は、第六タームにおいては異常事態だ。すぐさま、下位システムに向け、報告書の文書作成命令を送信する。
実働にあたらせた候補生をすべて休止状態に入らせると、ラゴスは彼らの足下に転がる、ある固体の残骸を見つめた。
「今度ばかりは、悲願が叶うと思いました。ですが……」
その時、彼女の内側から、システムが作動した。
「実験モデルNo3、失敗を確認。候補生ニオケル基体時ノデータニ関シテ重要事例アリ、改良プラン作成ニオケル……実験データ、送付――」
自動音声は、ラゴスの意図を汲み取る事などせず、彼女に指示を与える。
基体番号一五サエキカズヤ、個体番号一二カラマ。私はあなたと理解し合えると思っていました。ですが、もう二度と会える事はありません。次に生産されるのは、あなたと同じ形をした別個体に過ぎないのですから……。
ラゴスは、自身の感情を浮かべる術を心得ていた。正確に言葉に置き換えれば、すぐにカリキュレートが阻害にかかる。感情は言葉ではなく、イメージとして心に浮かべればよい。彼女はそうやって、自らの身体に宿る自己を保ち続けていた。
さようなら、カラマ。
涙さえも、イメージである事を超えてはならなかった。
――休止状態ヘ移行。転移及ビ動作停止マデ五、四、三……。
ラゴスはそれきり、考える事を止め、目を閉じた。
完結です。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
今後も機会があれば作品投稿していきたいと思います。