第2話 4周目は学園の中で
これからはたぶん1話ごとに1周することになると思います。
まずは目指せ10周!
○4週目○つづき
-勇者メル視点-
あの人はあれ以来現れない。
どうしたら会えるのだろうか?
ピンチになれば会えるのだろうか?
風のようにやってきて、風のように去ってしまう。
お礼を言うどころか、話すことすらできない。
そもそも彼の名前すら知らない。
「つまり、ここが…メルさん、聞いてますか?」
「は?はいっ?!」
しまった、授業中だった。
授業中にまた彼のことを考えてしまっていた。
「いくら成績が良くても、授業を受ける態度は大事ですよ」
「すみません」
「わかればよろしい。では、モンスターのステータスを見るための魔術として『看破』があります。これは…」
先生は黒板に魔術式を書いていく。
「これで、モンスターのステータスを看破して、対策を立てることが出来ます」
「せんせー!」
生徒の一人が質問する。
「それってファイアーボールみたいに魔法が打ち出されるわけじゃないじゃん?すっげー速いモンスターでも大丈夫なん?」
「まったく、マルクはその話し方を何とかしなさい。でも、いい質問です。この魔法は射出型ではなく、放射型のため、一定範囲内で認識した敵に使えます。目で追うことが出来るなら、ステータスを見ることが出来ますよ」
一定範囲内…速くても大丈夫…
思わず私は立ち上がった。
「それだわっ!」
「メルさん、質問は手を上げてからにしてくださいね」
あきれたように先生は言う。
「あ、はい。先生、この魔術って人間にも使えますか?」
「そうですね。相手のレベルが自分より高かったり、隠蔽の魔術やアイテムで身を守ったりしていない限り、ステータスを見ることはできますよ。そういった場合でも、『看破』のレベルが高ければ見れることもありますが」
それなら!
それなら彼が誰か調べることが出来るかもしれない。
それから私は今まで以上に頑張った。
『看破』をマスターして、そのレベルを必死に上げる。
それだけじゃない。
手紙も渡そう。
飛んでいく相手に手紙を渡しても落とすかもしれない。
それなら、どうしたらいいだろうか?
でも、こんなこと、誰かに相談しても信じてもらえないよね。
私はとにかく彼のことを知る為に、色々と調べるのだった。
-女神ジュライヌ視点-
「なかなかメルちゃんがピンチにならないわあ。たまには他のことに『飛翔体』を使おうかしら?」
そう私は考えつつ下界のメルの様子をうかがっていると、面白い光景が目に映った。
「これよ!これはきっと面白くなるわ!」
さっそく時間の流れをゆっくりにしてある空間で飛んだままにしてあるケンタローを解放する。
そして目の前に黒い穴が開き、ケンタローが飛び出してくる。
「あなたは死にました。しかし新たな力を得て蘇ります」
とりあえず、あらかじめ作っておいたセリフを読んでおく。
「女神っ!どうして俺はこんなことを…話を!」
あっ、何か言うつもりだわ。
「えい」
私が右手を上げると、ケンタローの目の前に黒い穴が開き、すぐにそこに入っていった。
「交渉できるなんて考えちゃだめよねえ。あなたはおとなしく飛び続ければいいのよ」
そして私はケンタローを射出する位置を計算する。
-主人公ケンタロー視点-
女神のところに行けた。
だから、あらかじめ聞きたいことを決めてあって言うつもりだったのに、すぐに黒い穴に突っ込んでしまった。
俺が話そうとしたとき、女神が嫌そうな顔をしたように見えた。
やっぱり、悪意があるんじゃないのか?
でなければ、こんなことにならないよな。
とりあえず、俺はこのあと何にぶつけられるのか、目を凝らして前を見つめるのだった。
-勇者メル視点-
最近、図書館で調べ物をする時間が増えた。
あまり遅いと、仲のいい友達は先に寮に帰ってしまう。
だから今日もいつものように一人で調べ物をしていた。
どうやったら、彼と連絡が取れるか。
何か良い魔術やアイテムはないかと。
そして図書館の閉館時間。
また、今日も収穫は無かった。
失意の中の帰宅中。
私の目の前に男子生徒たち4人が現れた。
「ちょっといいかな?」
それは私のような下級貴族とは違う、上級貴族の三男であるリック・アバラージェ。
それと取り巻きの3人の男子生徒。
はっきり言って、苦手なタイプです。
自己中心的で、高圧的なのです。
あまりいい噂も聞きません。
しかしここは学校の敷地内。
ひどいことはできないはず。
「何か御用でしょうか?」
「今から寮に帰るところか?」
「はい」
「それなら、今夜は俺の所に泊まれ。なあに、寮長には俺からうまく言っておく」
なんてストレートに無茶苦茶なことを言ってくるのでしょうか?
馬鹿です。
はっきり言って大馬鹿です。
「すみませんが、遠慮いたします」
「お前に断る権利なんて無いんだよ」
取り巻きの一人が私の肩を掴んできました。
「私みたいな女に手を出したら、アバラージェ家の汚点になりますよ」
私はメガネで、前髪で顔が隠れそうなくらいなので顔も良く見えません。
胸も小さくて、背も低い。
自分で言うのもなんですが、普通の男性なら敬遠するタイプです。
「へっへー。知ってるんだぜ」
別の取り巻きがニヤニヤした顔を近づけてくる。
「お前さ、そのメガネ、度が入ってないだろ」
見抜かれている?!
「それと、胸も何かで隠しているだろ?何しろ本当は88-56-80のFカップなんだからな」
バチーン!
「ぐあっ!」
しまった、つい手が出てしまった。
しかしどうして私の偽装に気付いて?
「いてて。隠しても無駄だぜ。俺っちの『色物限定看破』のレベルは45だからな」
何ですかそれは?!正真正銘の変態ではないですか!
先生、いえ、衛兵さん!変態がここに居ます!
しかし油断なりませんね。
私は学校で軽薄な男子生徒に声を掛けられたくは無いので、地味子を装っていたのです。
特に胸はどんどん大きくなってきたので、図書館で見つけた資料を基に、胸を小さく見せる魔道具を作って装着しているのですが。
まさか知られてしまうとは。
看破を極めるつもりが、こんな下衆な看破に負けるなんてショックです。
「おい、お前。俺の下僕に何しやがる!」
がしっと私の腕をつかむリック。
「やめてください。声を上げたら先生か衛兵が来ますよ」
そう、この魔導学園には先生だけでなく、衛兵も配置されている。
下校時間でも、声さえあげれば…
「しばらくは誰もこねーよ。俺の家の名前を出して命令したからな」
ニヤリと下衆な笑みを浮かべる4人。
そう、私を助けてくれる人は誰も居ないのです。
-主人公ケンタロー視点-
視界が開けた。
そして思ったより低空で、地上ぎりぎりを真横に飛んでいる。
そして気づいた。
ずっと先に、男子生徒4人で女子生徒にちょっかいを出していることに。
「って、このくらいでも呼ばれるのか?それともかなりピンチなのか?」
貞操の危機ってやつかもしれない。
だが、このまま行くと命中して男子生徒を殺しかねない、いや、回復するからいいのか。
それだと俺が死ぬだけなのか?
えっと、じゃあどうしようか?
なんとかかわして、一番偉そうな奴の首根っこ掴んで一緒に飛ぶか。
しかし、このスピードでできるか?
俺はとりあえず軌道を変えるべく体を動かし始めた。
-女神ジュライヌ視点-
「命中して回復するだけじゃ困るわよね。とりあえず、武器でもあげようかしら」
私は何か動画映えのする武器を考えてみた。
剣はありきたり。
モーニングスターとか、振り回して失敗したらメルちゃん死んじゃいそう。
面白いもの。
面白いと言えば、ケンタローの世界の芸人よね。
あっ!
「うん、決めた!『芸事張扇』付与!」
ケンタローの右手の中にハリセンが現れる。
「さあ、やりなさい!」
私はケンタローの活躍を手に汗握って待った。
-主人公ケンタロー視点-
急に右手の中にハリセンが現れた。
まさか、これも女神から渡されたものか?
慌てて能力を確認する。
『芸事張扇』
念じるだけで手の中に出現、送還が可能。
相手を殴っても最低1は体力が残る。
吹き飛ばしてどこかにぶつかっても体力1は残る。
『なんでやねーん』と言いながら殴ると、相手を大きく吹き飛ばすことが出来る。
「これで殴れと?待てよ、これ、翼みたいに使ったら、進路変わらないか?」
俺は空中で思いっきりハリセンを振ってみた。
ブオンッ!
いい音がして、俺の進路がわずかにずれた気がする。
「おお!」
よし、こうやって直撃コースをはずそう。
-勇者メル視点-
叫んでも誰も来ない。
なんということでしょうか。
「ふっ、絶望のあまり声も出ないか」
「リック様、早くこいつを連れて行きましょうぜ。へへへ」
「ぐふふ」「げへへ」
なんということでしょうか。
やりたい放題じゃないですか!
「魔装!」
私は装備魔術で、学生服から勇者としての装備に変えます。
「「「「なっ?!」」」」
「来て!『爆裂的鋸剣』!」
私の手の平に鋸のような刃をした剣が現れます。
これは爆裂の属性を持った、自作の武器です。
いつかこれであの方と冒険に出るのが夢なのです。きゃっ♪
「な、な、なんだその恰好は!」
「リック様、まさか、こいつ勇者じゃ?」
「お前、気づかなかったのか?!」
「俺っちの『色物限定看破』では3サイズとカップ数の他に下着の色くらいしかわからないんですよ。ちなみに今はし」
パカーン!
『爆裂的鋸剣』の一振りでエロい奴は彼方へ飛んで行った。
殺す気は無いので峰打ちだが、あっ、校舎の壁にぶつかった。
さすがにあれは…。
ま、いいか。
「や、やばいぞコイツ」
「ああ、今の表情。俺たちを虫けらくらいにしか思っていないって感じだ」
「リック様、逃げましょう!」
「逃げれると思っているのかしら?」
私は逃げようとする奴らの前に回り込む。
「殺しはしないわ。私から知ったことをこれで」
『爆裂的鋸剣』を地面に突き立てると、地面が爆発を起こす。
「記憶が消えるまで何十発でも叩いてやるだけだから」
「「「死ぬわ―っ!」」」
その時です。
私の目に映ったのは、飛来する物体。
いえ、あれは。
「私の王子様?!」
とりあえず、誰かわからないので、王子様(仮)ということにしておきます。
ああ、きっと私が困っていると知って、助けに来てくれたのですね。
「ああっ、こんな重い武器なんか、振り回せない~」
私はぽいっと『爆裂的鋸剣』を遠くへ放り投げます。
「リック様、今です!逃げましょう!」
逃げようとしていますが、もう王子様はあなたたちを射程に収めています。
そしてその手には見たこともない、不思議な武器を持っていらっしゃいます。
「『なんでやねーん』!」
王子様が『ナンデヤ・ネイン』という呪文を唱えて武器を一振りすると、3人は吹き飛ばされて、あっさり気絶してしまいました。
何て素敵。
そうだ!見とれている場合じゃありません。
王子様に『看破』です、『看破』!
「『看破!』」
-主人公ケンタロー視点-
どういうことだろうか?
彼女は学生服から鎧姿に変わり、禍々しい形状の武器を取り出して男子生徒の一人をあっさり吹き飛ばした。
しかし、何かその武器を振り回して投げ捨ててしまっている。
まさか、呪われた武器?
あのノコギリの様な形状。
おそらくかなり凶悪なものに違いない。
しかし、手から離れた今がチャンス。
残り3人は俺が仕留める!
俺はハリセンを横に薙ぎながら、
「『なんでやねーん』!」
と言って3人を吹き飛ばし、気絶させる。
すれ違いざま見た彼女は笑顔だった。
良かった。彼女の笑顔を守れた。
そして前方にいつものように黒い穴が開き、
「なんでやねーん!」
俺は思わず叫んだ。
さっき投げ飛ばされた『呪いの剣』が俺の眼の前に落ちてきていたのだ。
-女神ジュライヌ視点-
ケンタローに『爆裂的鋸剣』が命中して大爆発を起こし、さらなる加速をして黒い穴に飛び込んでいった。
「うわっ!なにこれ!最高!もう、これ、神が降りてきたって奴?神降臨!私自身が神だから、最高神降臨!って感じかしら?」
動画の再生数はうなぎのぼりである。
『少女強すぎ』
『あの武器あかんやろ』
『どっちが?』
『ノコギリのほう』
『最後が悲惨すぎる件について』
『同意』
『同情の念を禁じ得ない』
『しかし笑うしかない』
『www』
『三びきのこぶた最初の家』
『藁』
すごいわ。もう802億再生。おそらく週間50位はかたい。
猛烈な勢いで増えるコメントを神の力をフル活用して全て読み切る。
「ああ、なんて幸福」
-勇者メル視点-
やってしまった。
よりによって、最後の最後で大失敗を。
『看破』で見た王子様のステータスは以下の通りだった。
名前:ケンタロー
種族:人間
レベル:1
スキル:『魔族必殺』『下降回避』『打撃治癒』『芸事張扇』
スキルの内容:鑑定不可
状態:ほぼ死亡(蘇生中)
えっと、殺しちゃったってこと?
ほぼ死亡で蘇生中だから、死んでないってこと?
ああああああああ
何してるのよ、私は!
まどろっこしいことなんてしなくていいんだわ。
次はあの方を受け止めてあげる準備をしよう。
そして、お礼と、お詫びをしないと。
待っていてください。
私のケンタロー王子様。
お読みいただきありがとうございました。
感想とかいただけると嬉しいです。
次回も『ひのきのぼう』の合間に更新します。