第1話 永遠に落ち続ける転移者というネタ
落下のネタが続く限り続けようと思います。
よろしくお願いいたします。
再生順位の修正。54→34
-主人公ケンタロー視点-
俺はトラックに轢かれそうな少女を助けようとして代わりにトラックにはねられた。
そして、跳ね飛ばされた俺は、助かった少女を見ながら意識が遠くなっていったのだった。
-女神ジュライヌ視点-
「あー、最近みんなチート転生させてるから、私の神Tubeの動画閲覧数上がらないし、何かすっごい珍しいチートとか思いつかないかな。ううん、来た人が思いついてくれないかな?」
そう言って神Tubeの画面をタッチして動画探しをしている女神ジュライヌは、変わった動画を見つけた。
『チートと見せかけてチータと転生させてやった(笑)』
視聴数:1221億(週間54位)
「なによこれっ!」
その動画は異世界転生した男にチート能力を与えると言って転生させ、成長して前世の記憶を取り戻して能力を使おうとすると、突然現れたチータに襲われて死ぬと言う悲惨な物だ。
「なにこれ、こんなので34位?うそでしょ?」
私の動画は最高でも週間109位。
神が転生者を意図的に殺してはいけないというのは、絶対のルールだと思っていたのに。
「最初にちゃんと『あなたにチータ能力を差し上げますがよろしいか?』って言ってるじゃん。すごっ。これ拒否らなかった転生者が悪いってなるのね」
私は動画とウィキを調べまくって、本来ならやってはいけなさそうな抜け道を探した。
「うーん…転生だとすぐ結果が出ないけど、転移ならすぐ結果が出るからそっちね!」
異世界の人間が呼び寄せる召喚転移と違い、トラック転移で死にかけた者を女神が呼び寄せるあれば、チート能力を授けて自分の監視下、つまり動画撮影下に置くことが可能になる。
「どこかにトラックに突っ込みそうな人は…見つけた!面白そうな奴!」
私がが見つけたのはケンタローという冴えない男子高校生。
見知らぬおばあさんの荷物を運んであげようなんてて、お人好し過ぎるわね。
しかも断られて惨めだわー。
「よーし、それなら、トラックの運転が危なそうな奴を探知して、あったあった。居眠りね。そして、おおっ、このままだとあの少女はねられるわね」
神動画には運も必要。
その運が私に向いてきたようだ。
「気づきやすいように、えい」
ププーッ!
運転手が触れてもいないのにクラクションがなる。
そして、男子高校生はトラックと少女に気づいた。
○1周目○
●REC
「危ない!」
身の危険も顧みずトラックに轢かれそうな少女を突き飛ばすケンタロー。
そしてケンタローに迫るトラック。
「よしっ!飛んだ!そこで私のところに転移!」
ケンタローは私のところに飛ばされてきた。
-主人公ケンタロー視点-
「ここは?って、うわああああ!」
気が付くと俺は宙を飛んでいた。
まるでトラックで飛ばされたのが続いているかのように。
「ケンタローさん」
声を掛けられて横を見ると、そこには女神っぽい人が居て、俺を見つめている。
「あなたはトラックにはねられて異世界へ転移します。怪我は治してあります。あなたに与えるチート能力は…」
全てを聞き終える前に俺は目の前に開いた黒い穴に飛び込んだ。
-女神ジュライヌ視点-
「あらら。チート能力の説明をする前に、異世界へ旅立ってしまったわー(棒)」
そしてジュライヌはケンタローの落下位置を設定する。
「どこかに動画映えする落下地点は無いかしら?」
-勇者メル視点-
私はメル。
異世界から転生してきた。
でも、前世のことはあまり覚えていない。
6歳になって記憶の一部が戻り、チート能力に目覚めた。
チート能力を持つ者はもれなく勇者になるという。
しかし私はまだ6歳だ。
私はまだ弱い。
力を蓄えて旅立つ日までに、勇者であるとバレることなく過ごさなくてはいけない。
魔王の配下の「勇者狩り」にやられてしまうからだ。
「へっへー。お嬢ちゃん?今使った力、勇者の力だよな?こんなチンケな剣で俺様のお仲間が死ぬわけないもんなあ」
わかっていたのに、チート能力を使ってしまった。
だって、大切な友達が襲われていたら、助けるよね!
でも、私のチート能力には剣が必要で、剣を奪われた私にはその魔族を倒すことは出来なかった。
「へっへー死にな!」
-女神ジュライヌ視点-
「これよこれ!絶対助からない状況!そして油断している魔族!」
私は空間の出口を計算して設定する。
「そして、ケンタローに『魔族必殺』のチートをかけてと」
実はさっき、チートはまだ渡してなかったのだ。
「行けーっ!」
-主人公ケンタロー視点-
「どこまで飛んでいくんだ?何時間、いや何日飛び続けているんだ?」
ただ真横に飛んでいく。まわりは果てしない白い空間。
そして目の前に黒い穴が現れた。
「出口かっ?!」
俺は黒い穴を通過して外に出ると、今度は斜めに落下していく。
落ちていく先には見るからに悪魔っぽい奴と、襲われている少女。
そして俺は空中で何もすることが出来ず、盛大に悪魔っぽい奴に激突した。
ドーン!!
そして俺の意識は無くなった。
-勇者メル視点-
何が起きたのだろうか?
今、人が降ってきて、魔族に体当たりし、魔族は爆発してその人は再び飛んで行ってしまった。
「私を助けてくれたの?」
しかし、私に答えてくれる人はいなかった。
-主人公ケンタロー視点-
俺はどうやらぶつかったはずみで死んだらしい。
いや、意識はある。
いつの間にかつぶれたはずの体が治っている。
「死んでいましたが蘇生しました。あなたに与えるチートは…」
見覚えのある女神が居た。
俺はその前を飛んで横切った。
そして目の前に開いた黒い穴に飛び込んだ。
-女神ジュライヌ視点-
「すごい、すごいわっ!いきなり16億再生とか!」
『絶妙な入射角』
『かわいそ。でもおもろ』
『次もあるの?』
『wktk』
「期待されてるっ!次は、次はどこに落とそうかしら?」
○2周目○
-勇者メル視点-
あれから5年。私は11歳。
魔導学園中等部の入学試験で、まさか町の近くの森の中でこんな強敵に出会うとは。
「ウゲアアアアッ!」
気持ち悪い声を上げているのはトロール。
強い再生能力を持ち、どれだけダメージを与えても死なない。
そしてその腕力は私など一撃で殺してお釣りがくるほどだ。
私のチート能力『刺的必殺剣』は、戦う相手の『的』を見つけることが出来て、そこに剣をさすことが出来れば全て一撃必殺になるものだ。
これが本当の急所ではなく、相手によってとんでもない位置にある為、そう簡単に倒せないこともある。
今回がそうであった。
『的』はなんと相手の額。
身長4mのトロールの額に、私はどうやっても届かない。
この試験は安全とされる森で、付き添いの上級生が見守る中行うものであったが、上級生はトロールを見るなり逃げてしまった。
いや、助けを呼びに行ったと信じたい。
そうでなければ、私は助からない。
もうあの時のような偶然なんて起こらないのだから。
何とかして、トロールをかがませなければ。
初等部で覚えた魔法は初級のみ。
しかし、私はそれを人よりはうまく使える。
それで何とか、あの額に剣を突き刺して見せる。
-女神ジュライヌ視点-
「これは?!」
私は狂喜乱舞した。
まさか同じ少女がまたピンチになっているとは。
これはいいネタになる。
あちらでは数年経っているようだけど、神の世界では大した時間ではない。
「これは使えるわ!」
私は空間で飛ばしたまま保留状態のケンタローの落下位置を計算する。
「物理の勉強しっかりやってて良かったっ!」
そしてケンタローをそこに送り込んだ。
-主人公ケンタロー視点-
一体どれだけ飛んでいればいいのか?
とりあえず、落ち着いてきたので、自分の状況を把握してみる。
俺は飛んでいる。
トラックにはねられ、そのまま宙を舞い、女神らしい人が居るところを通過し、異世界で魔族っぽい奴に激突し、そのショックで多分飛ばされた。
そしてまたその女神が立っていた。
多分同じ女神だ。
俺のことに気付いていないのだろうか?
同じ人が2回も来たのだと。
いろいろ考えていたら目の前に黒い穴が開いた。
そして俺はそこに吸い込まれ、視界が開けたら俺の飛んでいく先には棍棒を持った巨人が居た。
目の前にいる少女は力尽きたかのように片膝をついており、そこに棍棒が振り下ろされようとしている。
俺は思わず叫んだ。
「やめろおおおおお!!」
トロールはこっちを見た。
そして飛んでくる俺に向かって、野球のように棍棒を振り、
『チート能力、下降回避!』
何か女性の声が聞こえて、おれの体はがくんと失速した。
ブンッ!
巨人は棍棒を空ぶって、俺はそいつの鳩尾に頭から激突した。
そして俺は意識を失った。
-勇者メル視点-
まただ。
また誰かが現れた。
空から降ってきた、いや、真横に飛んできた。
そして、トロールの棍棒をかいくぐり、鳩尾に体当たりすると、その下に黒い穴が現れて、そこに吸い込まれていった。
「ウゲエ!」
痛みでトロールは鳩尾を抑えて、頭を下げた。
その位置は、私の剣が届く位置!
「『刺的必殺剣』!」
私の剣はトロールの額の的を突き刺し、再生させることなく、死に至らしめた。
「今の人は、まさか?」
しかし、私の疑問に答える者は居なかった。
○3周目○
-女神ジュライヌ視点-
「すごい!やったわ!週間93位!」
私の動画が432億再生で初めての二桁順位を獲得した。
『また同じ少女やん』
『運命か?』
『相変わらず見事な入射角』
『チート能力、あれ何?』
『たぶん、緊急回避』
『回避って死んどるがな』
『w』
『ww』
すごい、すごい反応だ。
これからはこの少女を追いかけて、そのピンチをこの飛び道具で救ってみよう。
と思っていたら、目の前の上の方に黒い穴が開いて、ケンタローが戻ってきた。
いや、落ちてきた。
地面に着く前に転移の穴で拾ったからそうなるわね。
私はニヤニヤするのを我慢して、澄ました顔でこう告げた。
「おお、ケンタロー、死んでしまうとは情けない」
RPGっぽく言ってみた。
「しかし新たなチート能力を授けるので…」
言っている間に、ケンタローは下に開けた黒い穴に吸い込まれていく。
よっしゃ!これでチートは現場を見てから付けられるわ!
チートは現場で付けているんだ!ってね!
-主人公ケンタロー視点-
どうなっている?
あの女神は明らかに俺だと気づいている。
新しいチートとか言ってたが、いったい何のことだ?
そうだ、異世界転生や転移とかなら、ステータスが見られるはず。
「ステータスオープン!」
俺は叫んだ。
近くに誰かいたら恥ずかしかったが、空を飛んでいる俺にそんなことは関係ない。
そしてステータスウィンドウが開いた。
状態:転移中
能力:『魔族必殺』『下降回避』
飛びながらで読みにくいが、どうにかそれだけ読めた。
「能力の説明は…」
-勇者メル視点-
私は今、中等部2年生。
私が入学試験を受けた時と同じように、後輩の試験を見守っていた。
その時私は気づいていなかった。
事故に見せかけて私を殺そうとしている人が居るなんて。
-女神ジュライヌ視点-
「メルちゃん、早くピンチにならないかしら?あら?」
私が下界のメルを見ていると、後輩を見守るメルの背後で別の男子生徒が物陰から何かをしようとしている。
「まさか、告白?いえ、あの顔つきは恨みね!」
私は神の能力を使って、何があったかを調べる。
彼は去年の試験でメルを守る役目をしていたのに、トロールを見て逃げ出し、メルはてっきり殺されたと思って、「自分は頑張ったけど、無理でした」と言ってしまっていたのだ。
そして真実が暴露され、卑怯者、最低男の烙印を押され、学校をずっと自主休学していた。
「事故に見せかけて、殺してやる!」
そして彼は父親の元から盗み出した魔導水晶を取り出していた。
そこに封じられているのは恐ろしいモンスター。
触手だけで出来た人造モンスターで、触手でつかんだ相手を握りつぶしながら食らうと言う、恐ろしい奴だ。
彼はその魔導水晶の封印を解く言葉を口にしながら、休憩しているメル達の背後に転がそうとしていた。
「なんて美味しい状況!」
運は我に味方せりである。
「今よ!ポチっとな!」
私は『巡航ミサイル』を発射した。
もとい、ケンタローをそこに送り込んだ。
-主人公ケンタロー視点-
ケンタローは能力の説明を読んでいた。
『魔族必殺』
魔族であれば、一撃で致死ダメージを与えられる。ただし、相手は大爆発する。
「これ、諸刃の剣だろ!」
仮に落下していなくても、普通に使ったら自分が危ない。
『下降回避』
下に空きが有れば、どんな攻撃でも下方向にかわせる。
連続使用可能。
「これ、落下中の俺には連続使用無理じゃないか?それにこちらからぶつかるの避けられないんだろ?」
ろくな能力が与えられていないようだ。
「とりあえず、この状況をなんとか、ああっ!」
目の前に黒い穴が開き、今後のことを考える前に俺はそこに吸い込まれる。
-勇者メル視点-
後輩がモンスター退治をするのを見守っている私は、休憩を取っていた。
すると、背後で気配がした。
「あっ、あなたは!」
「ちっ!」
その人は去年私を見捨てて逃げてから、ずっと学校を休んでいるという先輩だった。
いや、2年生だった彼は昇級できなかったから、私と同学年になるのだが。
その(一応の)先輩が、何か怪しげな水晶玉を私たちの足元めがけて転がしてきた。
その水晶玉からは何やら煙が立ち上っている。
「へへへーっ!死ね、苦しんで死んでしまえっ!」
転がってきた水晶は砕け、中から無数の触手がわき出てきた。
「逃げて!」
私は後輩を向こうに突き飛ばした。
「(え?この感じは?)」
私はデジャブのようなものを感じていた。
「前に、こんなことがあったような…遠い昔に」
思い出している暇は無かった。その水晶から伸びた触手は私に掴みかかり…
-主人公ケンタロー視点-
どうせまた何かにぶち当てられるのだろう。
そう思っていたら、目の前に居たのは男子学生だった。
このままではぶつかる!
でも、俺に避ける方法は無い。
「何とかしないと!」
良く見るとその前方に女子生徒が2人。
さらに、その間に変な触手のようなものがうねっていた。
おそらくその触手が俺の当たるべき相手なのだろう。
「この角度で飛んで、あの男子を飛び越して触手だけ倒せるのか?」
俺はまた死ぬかもしれないと言うことを忘れ、ただ、どうしたら3人を助けられるかを考えた。
-女神ジュライヌ視点-
「そこよっ!その角度で行けば、男子生徒をふっとばして触手に命中させられるわ!」
と、そこまで言ったところで私は自分の失敗に気付いた。
「ちょっと待って。このままだと、ケンタローはあの女子生徒たちにもぶつかるわよね」
それはまずい。
再生数激減間違いなしだ。
女子生徒より再生数が大事。
そうよ、それがどうしたって言うのよ。
私が介入しなければ死んでいたんだからね。
「チート能力『打撃治癒』付与!」
そして私は成功を確信した。
-勇者メル視点-
後輩は向こうで倒れているが、私ははずみで転んでしまい、私の剣は突き飛ばされた後輩が無我夢中でつかんで持っていってしまった。
そして私にのしかかってくる触手。
ああ、こんな死に方嫌だ。
あまりの恐怖に私は魔法を使うことすら忘れていた。
「どけーっ!」
どこかで聞いた声がした。
顔を上げると見覚えのある男性が空を飛んできていた。
「あの人は!」
彼だ!間違いない!
前に私を救ってくれた彼だ!
先輩は彼の声を聞いて体をひねってかわそうとし、彼も体を空中で動かし、何とか先輩を避けようとしたが、先輩は肩口にぶつかられて吹き飛ばされ、私の目の前に落ちてきた。
そのまま触手は私と先輩を捕まえようとする。
「よけろっ!」
「きゃああっ!」
そのまま飛んできた彼は私にぶつかる。
すごい痛みと共に激しく吹き飛ばされる私。
彼は近くの大木にぶつかって跳ね返り、空に消えていった。
「痛い…何ともない?」
おかしい。
あの勢いでぶつかられたら死んでもおかしくない。
しかし、私にはかすり傷一つなかった。
見ると先輩はすでに触手に食われているところだった。
私は急いで後輩から剣をもらうと、
「『刺的必殺剣』!」
必殺スキルで触手を一撃で仕留めた。
「あと少し、私が吹き飛ばされるのが遅ければ…」
またお礼を言えなかった。
どうして彼は風のようにやってきて、風のように去っていくのだろうか?
どうして、私を助けてくれるのだろうか?
-主人公ケンタロー視点-
力の限り叫んだ。
そして、必死に体をひねった。
何とか体勢を変えようとしたが、無理だった。
男子生徒の左肩に俺の体が当たり、吹き飛ばしてしまう。
「いてえ!」
おかしい、ぶつけた場所じゃない左肩が死ぬほど痛い。
そんなことを考える間もなく、女子生徒を突き飛ばして避難させていたもう一人の女子生徒の腹に、バランスを崩した俺は膝から激突する。
「あ、これはダメなやつだ」
この勢いなら、彼女は即死だろう。
そして苦痛に歪む彼女の顔を見た瞬間、それがこの前助けた少女だと気づいた。
それと同時にものすごいお腹の痛みが起こり、俺の意識は遠のいた。
○4周目○
気が付くと、俺は再び何もない空を飛んでいた。
ステータスを確認すると、能力が増えていた。
『打撃治癒』
相手に打撃を与えると、その相手の怪我を完全治癒し、同じだけのダメージを自分が受ける。
「なんだよこれ!もうチートでもなんでもないじゃん!」
俺は無性に腹が立った。
「でも、それで俺が死んだなら、あの子は助かったんだよな」
よかった。それだけが救いだ。
さっきから特定の女の子ばかり助けているみたいだが、それよりも俺の扱いに腹が立った。
きっとこのまま、さっきの女の子のピンチに使われるに違いない。
「このままなすがままになってたまるか!何とかこの状態を脱して、あの女神にどうしてこんなことをするのか聞いてやる!」
俺は宙を飛びながら、そう誓うのだった。
お読みいただきありがとうございました。
『呪われた「ひのきのぼうや」を筋肉勇者と魔王娘が同時に装備して一蓮托生。2度目の異世界で3人は家族となり冒険する。』の合間に更新する予定です。
感想をいたただけると、更新がはかどりますので、よろしくお願いいたします。