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第1話 退屈を紛らわすのは暴力的なファンタジー。

暖かい目で見てね、そしてようこそ令和!

 ここは日本国、東京都足立区にあるビル。


 その5階。


 パソコンの画面と睨めっこしてパチパチと社内に規則正しい音が鳴り響く。

 皆、ワイシャツにネクタイ、所々寝てる人もいたりする。

 空気は淀んでいて、あぁ会社って嫌だな……と、まあこうなる訳です。


 そんな淀んだ空気に汚染されて息も絶え絶えなんですよ。

 就職して2年、業務の内容も覚えて仕事よりも自分の人生のキャリアアップなんかをぼんやりと考えちゃったり、しなかったり。

 就職先間違えたかな? なんて考え始めるお年頃。


 山形やまがた 博臣ひろおみ


 私です。


 24歳です。


 社畜です。



 ……まぁ、そりゃね?

 入社当初の時とかはさ……。


 待ってろ!!リーマンライフうううううう!!!!ほわああああああああああ!!!!!!!!!!!


 とか。


 絶対てっぺん取ってやるぜええええええええ!!!!!!!!! 


 とか言ってました。


 なんて言うんだろうね? あの根拠のない自信。

 自信家? ちょっと違う。

 意識高い系? それが近い。


 ……意識高かったなぁ。



 まぁいいか。


 俺は今現在、特にやることもない(やる気がない)ので窓に向かって頬杖をついています。


 ほぅ、なるほどなるほどな。


 うむ。


「今日も良き快晴だ」


 ああ、なんていい日なんだ。

 こんな場所で仕事なんてしているのは人類の進化にとって大きな損失ではないでしょうか?

 空を見なさい、あの優雅に羽ばたくカラスの後ろ姿を。


 う? うーん、カラスかぁ。

 んー、カラスねぇ………。


 ……カラスしかいないのかな?


 もっと、こう……綺麗な鳥いないのかな?

 カラスだと癒し効果が半減というか、んー別に嫌いでは無いけど。

 これじゃあ折角仕事したいのに、やる気が起きないなあ。


「はあぁぁぁぁ………」


 おもっくそ、盛大なため息をついて俺の肺からやる気ゲージが逃げていくのを感じる。


「何で、こんな大人になっちゃったかなあ……」


 ため息をつきながらも、入社当時を思い返すと、自然と苦笑いがこみ上げてくる、


 最初の数ヶ月は「おはようございます!!!」

 とかだったのが1年経つと「………ぅっす」になったし。



 仕事で失敗があると。


 自分が悪いんだそうだ、治さなきゃ! とかだったのが。

 あの人、ほんとヤダ。 人の失敗ばっかり言ってきやがってとか、まじ上司に恵まれてねぇよ………とか。


 人のせいに変わっていく。


 あーあ。

 なんて代わり映えのない我が人生よ。


 あぁ。


 はぁ。


 ………。


 ………………。


「隕石でも落ちねーかなぁ……」














 [……………ゴゴ]










 [……………………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ]










 [………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!]










「……ん?」


 なんか、聞こえる?

 え? どこ? 何このやばい音?

 ゴゴゴゴって地震かね? でも揺れてないしなあ。


 何だろうねー、わかんないや。

 ゴゴゴゴっていえば、よく隕石とか落ちてくるときそんな表現するよね。

 実際に隕石落ちた時ってどんな音するんだろうね。


 ガガガガかな? それとも、シュウウウウウン! とかかね。

 あんまりしっくりこないなあ。


 やっぱり、ゴゴゴゴが一番しっくりするわ。

 そうか、隕石はゴゴゴゴか…………。


 ………。


 ………?


 ……………。


 ……………………。


 まって?


 ……………。


 隕石来たんじゃね?


 いやいや。


 いやいやいや!!


 ………。


 え………まじで?


 やばくね!? 隕石来ちゃった? やっばくねぇえええ!!!???

 何してんの地球さん!!? 避けろよ!! 諦めんなよ!!


 うわー、地球のせいで俺たち死ぬじゃん。 マジ地球何してんだよ。


 ドッチボール最弱かよ。


 隕石くらい受け止めろよ! ガシッとさあ!


 ……あ、受け止めたら死ぬわ。


 よし、世界中のみんなで一斉にジャンプして地球動かそう。


 ……まあ無理だな。


 しかしながらゴゴゴの音なっげえな、耳がキーーンってなるわ。

 隕石ってこんなキーーーンなるんだな。


 そう考えながら、窓をもう一度よく見る。








 ………カラスが優雅に飛んでいた。





 ……。


 …………。


 ………………。


 ……あるええ? 隕石がいないぞお?


 え? 地球避けた? 避けたの? やるじゃん地球!!


 ……え? どゆこと???


 俺は急いでさっき眺めていた窓に張り付き、限界まで上を覗いた。

 良く芸人が窓に押しつぶされて変な顔になっている奴だ。 


 いやいや、そんなはずがないでは無いか。 ハハハ。

 知ってるかい? 隕石ってのはゴゴゴ! って音がするんだ。

 そして俺たち人類は皆死ぬんだよ? いやだなあ!


 その奇行を周りから冷めた目で見られている事に山形は気付いていない。



「あ、太陽が眩しい!! み、見えない!!」


 必死になって覗いたから太陽をガン見して目がクラクラする。


 通称、アホである。


 手をかざして太陽からの直射日光を避ける。

 網膜に一瞬焼け付いて白くなった風景から段々といつもの風景が戻ってくる。


 ……。


 …………。


 ……………………。


「……………隕石……ではないなあ」


 空は快晴だった、すごく良い天気だった。


 なんか、精神的に滅茶苦茶つかれた俺は、我ながら子供染みた事をしたと、フッ……と溜息をこぼして自分の椅子に戻る。


 そして、周りを見渡し「よっし! 良い気分転換にはなったかな!」とか言って、さもわざとやりました感を醸し出す。


 しかし、山形の対応は遅すぎた。

 ちょっと社内の俺への評価が変人へ寄った。


 幸いなのか、当の本人は評価が下がったことに気づいていない。




 しかしながら、これで終わりだと思っていた摩訶不思議現象には続きがあった。



 [……ゴ………………ピーーーーーーーーーーーーー!!!!!]



 地鳴りから、機械音にシフトしたのだ。


 案の定、山形は大いに混乱した。



「え、何いきなり! めっちゃ怖いんだけど! 何ピーって? ピーって何?」



 地鳴りのような音の後に、突然電子音の強烈な感じの奴が押し寄せて来る。

 えーと、えー、あれだ! 電波受信しなくなった深夜テレビみたいな!!


 ピー!って何だろ? わっかんねえ! ピー!とか18禁ワードぐらいしか連想できねえ!!

 俺の妄想力中学生から進化してねえなあ!!


 頭が痛くなるほどの大音量で俺の耳に響き渡る。

 頭がガンガンしてうるさいんですけど!!!


 ちょっと!! 仕事中だから!! 静かにして!!



 [………………]




 あ、止まった。

 一体なんだったんだ?

 これ我が社が取り入れた仕事効率アップの為の社内BGMとか言わないよね?

 おもっくそ妨害してましたが? みんなもそう思うだろう?


 そう思わない?


 俺は隣を見る。



 隣の同僚はアイマスクして寝てた。



 フゥ……。



 ………フゥ………。



 隣に勇者がいたわ。

 アイツ後で課長にボコられるな。



 うん。



 何だったんだよ、こんなクッソ忙しい時にお騒がせな事だ。

 何だよ、脅かせんなよ。

 心配して損しちまった。 ハハッ!


 ………。


 ……………。



 [………ねぇ]


 …………。


 ………………。


 [……聞こえますか]


 ……。


 ……ダラ。


 …………………ダラダラダラダラダラダラ。


 えーーーと、えええええっとお! なんじゃろか? なんでございましょう!?

 何今の声? ゆ、幽霊? ちょーーーと! ちょっと待とうか!!?


 女性の声だった、それだけは分かる。

 怖い、ものっそい怖い。 隕石とは別のベクトルで怖い。


 ちょっとぉ!!事故物件です!!この土地なんか埋まってんじゃあないですかあ!!?


 おれ怖いの無理いいいいいい!!!!



 [良かったぁ…………初めてだったので心配だったのです]



 初めてってなあにい???


「え? なに? なに? なに?」


 すごい積極的にコミュニケーション取りに来ますね! ご遠慮いただきたい!

 話しかけないでええ!! なにもう! やめてええ!! 怖いんですけどお!


 産まれてからこのかた24年間、幽霊のゆの字も見たこと無かったからさあ!


 幽霊界の最新事情知らないんだよねえ!!

 最近は人間界にコンタクトを取るのが常識なんですか?


 それは非常によろしく無い、主に俺が。


 いやいやいや、えーなにぃ。 何なのおお??


 まじでこの状況誰か説明してくれるかな??


 [えっとぉ………汝、我の問いかけに応じ。真なる姿を彼方より顕在せよ!!]


「はあああ???!!」


 顕在せよ! ってなに? なんで厨二病発症してんの?


  厨二病の幽霊とか、流石都会は進んでるなぁ!


 そうかあ、幽霊も最近の流行りを取り入れた最新型モデルなんだね!?


 いやあああふううううっ!!! 意識高いねきみ!!


 ……。


 …………。


 …………俺もう実家の埼玉に帰りたくなってきた。


 何なのーこの現象なにー?


 俺は周囲を見回した、だが異常は見当たらない。


 ……見当たらないんだ、が!



 だが! 何故か、俺は。


 ふと。


 ふと、足元がなんか明るい気がすると思って自分の下を覗き込んだ。



 覗き込んだ下には。




 なんともまぁ! ご立派な魔方陣があるじゃあないですか。




「あ、これから逃げ[サモン!!]




 東京某所のオフィスビルで。


 一人の男が。


 なんだかよくわからん事になって。


 消えた。





 拝啓、俺。


 山形 博臣 24歳。


 異世界へ行ってきます。

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