第285歩目 私のどこが一番好きですか? 中編
前回までのあらすじ
しかたないなー(〃ω〃)
歩は私のこと好き過ぎでしょー、もー(*´∀`*)
「それじゃ、アユムっちには一人ずつ一番好きなところを挙げていってもらおうかw」
アルテミス様の提案で突如始まった女の子品評会。
事の発端はニケさんの『例の質問』からなのは言うまでもない。
───私のどこが一番好きですか?───
いつかは訪れるであろうその質問に、俺は既に覚悟を決めていた。
むしろ、今までは「ニケさんに聞かれなかったから」と、甘えていた節まである。
だって、そうだろう? こんなこと、恥ずかしくて言えやしない。
言わなくてもニケさんは満足してくれていたし、俺を愛してくれていたのだから。
そう、俺はニケさんの好意にすっかり甘えきってしまっていたのだ。
そもそも、俺はニケさんの全てが好きだ。
賢くて頼れる、できるお姉さんの雰囲気が。
真面目だけど、生真面目過ぎて融通の効かないところが。
何でもできるのに、意外と不器用でおっちょこちょいなところが。
そして、一途だけど、想いが強過ぎて嫉妬深く愛が激しいところも───。
故に、どこが一番好きだなんて決められやしない。
どれもが一番なのであり、全てが一番なのである。
ニケさんという女神様そのものが、俺にとっての『一番』なのだ。
考えてみると、俺も大概だと思う。ニケさんのことをとても「想いが強過ぎて嫉妬深く愛が激しい」だなんて偉そうに言えた義理じゃない。
(あぁ、俺は本当にニケさんのことが好きなんだなぁ......しみじみ)
だからと言って、それとこれとは別問題だ。
ニケさんの全てが一番好きです、では何も解決しないことぐらいは理解している。
そう答えれば、ニケさんはきっと喜んでくれるだろう。それは間違いない。
しかし、ニケさんが本当に求めている答えはそうではないのだ。
それでは今までと全くで同じ単なる先伸ばしであり、おためごかしでしかない。
俺は学んだ。たとえ嫌な事であっても、避けたい事であっても、時には向き合わなければならない時があるということを。特に相手が自分にとってとても大切な人、かけがえないの無二の人ならば、余計にそうしなければならないことを。全てはチャンスを逃さない為に。全ては大切な人を二度と失わない為に。
だから、俺は覚悟を決めていた。
ニケさんのここが好きですよ、と伝えられるよう準備もしていた。
むしろ、尋ねられることを待ちわび、聞いて欲しいとさえ思っていた。
なのに、この女神様ときたら......。
「アテナっちは『胸』ということで良いんだろ? じゃあ、次は───」
「ちょっとお待ちください」
「......なんだい?」
話の腰を折られて不満を露にしているアルテミス様。
どうやらアルテミス様の理不尽さは絶賛継続中のようだ。
(というか、なんで逆ギレしてんの!? 俺のほうが不満たらたらなんだが!?)
そんなことは少しもおくびに出さずに、静かに疑問をぶつけてみる。
「なぜ一人ずつ一番好きなところを挙げなければならないのでしょうか?」
尋ねてきたのは、求めてきたのはニケさんだ。
故に、ニケさんに答える義務はあっても、他のメンバーにまで応じる必要はないはず。
言葉にしてはいないが、ニケさんも「そうだ!」とばかりにこくこくと頷いている。
「なぜだって? そりゃあ、面白そうだからだよ。トラブルの臭いがぷんぷんしてそうだしさw それ以外に理由が必要かい?」
「ト、トラブルの臭いって......」
ぶっちゃけ過ぎだろ!
この女神様、本当に俺とニケさんの恋路を応援する気があるのだろうか?
それとも、何か深い考えが......?
「あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「......」
いや、今回はさすがに無いな。
どう贔屓目に見ても悪戯心が透けて見える。
小憎たらしい顔でバカ笑いしているのが良い証拠だ。
「そんなに見つめるんじゃないよ! 本当に気持ち悪い男だね、アユムっちは!」
「き、気持ち悪い......」
「だって、そうだろ? ニケちゃんという彼女の前で他の女にも盛ってるんだからさ。気持ち悪いったらありゃしないよ! 節操なしも大概にするんだね!」
「......」
時にアルテミス様の(俺への)気持ちを疑いそうになる。
ここまで辛辣な言葉をぶつけられて落ち込まない男は居ないと思う。
「アユムっち、アユムっち」
「......はい?」
だが、声を潜ませて、ぱちりとウインクされたことで考えを改めた。
(あぁ、なるほど。そういうことか)
敵を欺く為には、まず味方から。
気持ち悪いは本心からではなく、ニケさんを誤魔化す為のフェイクなんだということを。
俺とアルテミス様の間には何もないということを示す為の小芝居なんだということを。
それはとてもありがたいことなのだが......。
その後が非常にマズかった。ウインクの後に口の動きだけで、言葉にならない言葉で告げられた「す」・「き」という内容と恥じらった表情が、俺を激しく動揺させた。
「どうされました、歩様?」
「い、いえ、何でもありません」
正直、ニケさんの前で好き好きアピールをされても非常に困る。
俺も男だ。好意全開の姿を見せられると、思わずにんまりと顔が綻んでしまいそうになる。
「~♪」
「勘弁してくださいよ、アルテミス様」
「にししw」
アルテミス様はきっとそこまで計算した上で、俺をからかってきているに違いない。
恋路は応援するけれども、波風を立てないとは言っていないとでも主張したいのだろう。
やれやれ、本当に悪戯好きで困った女神様だ。
(......気持ちを疑って、すいませんでした!)
そんな俺の困った姿を見て満足したのか、アルテミス様は話を本題へと戻した。
「あぁ、そうそう。あたしが知りたかったってのもあるね。どうだい、これでいいだろ?」
「それ、明らかに今思い付いた感じですよね?」
「ったく。いちいちうるさい男だねぇ、アユムっちは。理由を知りたいというから教えてやったのにさ」
「アルテミス様は、その場の勢いで決められることが多いからですよ」
「あぁ、はいはい。小言はよしておくれよ。全く、アユムっちは器だけじゃなく、あそこも小さいんじゃないのかい?」
「ち、小さくないですから! さっき見ましたよね!?」
というか、比較できるほど見たことがないくせに適当なことを言わないで欲しい。
確か、アルテミス様は生粋の乙女でしたよね?
それに恨みの連鎖は断ち切れない。理不尽へのささやかなる復讐である【ゴッドフィンガー】のお返しだとばかりに、嫌がる俺を面白がって無理矢理公開処刑された恨みをまだ忘れてはいない。
(覚悟していてくださいね、アルテミス様? 恨みは連鎖するんですよ?)
良きビジネスパートナーだからこそ、片方だけの理不尽な不利益は認められない。
アルテミス様の理不尽が続く限り、俺の復讐は(怒られない限り)続いていくのだ。
しかし、そんな俺とアルテミス様のやりとりを見て「ふふふふふ......お二人ともとても仲が宜しいことで」と、少し膨れてしまったニケさんが自信満々に宣言。
「大丈夫ですよ、歩様。私はどんな大きさのあそ───こほん。歩様でも愛せる自信がありますから」
「ニケさんは何度も見て知ってますよね!?」
俺は(大きいかは別として)決して小さくなどない!
少なくとも、男神であるアレス様よりかは大きいんだからな!
男の尊厳として、そこだけは決して譲ることができないのであった。




