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理不尽な世界にさよならを

作者: なす子




突然だが私、安珍清は、恋をしている。それは数ヶ月前からなんて甘いものじゃない。小学生の頃からの恋。



今日は、文化祭。年に一度のお祭り。

私は、この特別な日に彼に想いを告げる。

仲の良かったA子ちゃんとB子ちゃんとC子ちゃん。三人とも協力すると、そう言ってくれた。少なからず不安もあった私にはそれはとても心強いものとなった。

そして、私は想いを告げた。

「ずっと前から好きです。その……お付き合いして……くれませんか?」

言ってしまった。

だけど、後悔はない。

「ごめん」

返事はすぐに返ってきた。

私は一瞬頭が真っ白になった。

漫画で読んだ失恋というものはこうもあっさりしたものなのかとそんなどうでもいいことばかり頭をよぎった。

「ごめん。好きな人いるから」

そうだよね。

こんな私みたいなやつよりもっと良他にい子がいるよね。バカだな。私。

「ごめん、帰る」

「うん……。ごめんね。時間取らせて」

ぱたり。ぱたり。

一粒溢れだせば止まらない涙。

私の目から落ちては床に当たって跳ねる。

校舎から出れば三人が待っていてくれた。

そして、泣き腫らした真っ赤な私の目を見て何も言わず一緒にいてくれた。

次の日からはいつものように。元気で明るい私であろうと意識して勤めた。

そんな空元気を振りまいていた一週間後のこと。美術部に入っていた私は、部活の帰り際に教室に忘れ物をしたことに気がつき、教室に向かった。すると、どうやらまだ人がいるらしく明かりがついていた。

「ごめんなさい。忘れ物取りに……って、A子ちゃん?」

教室にいたのは紛うことのない顔が二つ。A子ちゃんともう一人は、私が告白をした相手。

「どうしたの?二人とも」

「ついつい話し込んじゃって。清こそどうしたの?」

「忘れ物しちゃって。あ、あった。じゃあね」

「うん。ばいばーい」

今は、とにかくこの空間にいてはいけない。そう感じた。

そして、「どうして?」

この疑問で頭がいっぱいになった。

慰めて、一緒にいてくれたA子ちゃんが今は私の元想い人と楽しそうに会話をしている。頭の整理がつかない。

忘れよう。今日見たこと全て。全部気のせいだった。

次の日も私は何もなかったかのように空元気を振りまいた。

それから三週間後のこと。部活に行こうとしていたところをC子ちゃんに呼び止められた。そして、付いて来て欲しいと言われ人気のない教室に入った。

「どうしたの?」

「あのね、落ち着いて聞いて」

「どうしたの?」

「紀州道成。あんたの想い人。今付き合ってる。と言うより付き合ってた人がいたっぽい。最近別れたみたいだけど」

今更、そんなことはどうだって良い。どうせ私には関係ない。

「へぇ。そうなんだ」

「あんたもよく知ってるやつ」

「えー。分かんないよ」

本当に分からない。と言うわけではない。心当たりはある。でも、そうだという確証はない。もし、そうだとしたらどう接して良いか分からない。どうか、違う人であって欲しい。

「バレー部の部長って言えば分かる?」

「嘘……だよね?」

「嘘じゃない。文化祭の前から紀州とA子は付き合ってた」

C子ちゃんの少し低めの声は私の耳の奥までしっかりと届いた。あぁ、やっぱりそうだったんだ。

じゃあ、あの時慰めてくれた時内心私のこと笑ってたのかな。なんて。

一先ず一人になりたい。

「そっか……。ありがとね。C子ちゃん」

「清……」

私は、逃げるようにしてその場を去った。

そして、初めて部活を無断で欠席した。

数日後に控えた修学旅行をこんな気持ちで迎えなくてはいけないのか。そう思うと余計胸が苦しくなった。



そんなもやもやを抱えたまま修学旅行初日。

近くにいたB子ちゃんが、他の子と話をしていた。

その時、特に気にしなければ良かったのに何故かその日に限ってこっそり耳を傾けてしまった。

「ねぇねぇ、告白されたって本当?」

「うん……。紀州くんに……」

「うっそ。やばい」

あはっ。A子ちゃんの次はB子ちゃんか。

私の周りの子ばっかり。

私に対する当てつけなんじゃないかな。

もう良いや。全部忘れよう。

綺麗さっぱり。また、明るく笑うために。



修学旅行は楽しく、あっという間に過ぎ去ってしまった。

そして、B子ちゃんが本格的に彼とお付き合いを始めたらしい。

B子ちゃんとは部活が一緒で何度か彼の愚痴を聞かされた。

そんな日々が続き、数ヶ月もしないうちにB子ちゃんは楽しそうに彼に別れを告げた。

思いっきり振ってやるから見に来てと言われ、いつもの笑顔を崩さないようにしつつ言われるがままについて行った。彼は暫く立ち尽くしていた。



そんな濃い記憶ばかりの半年が終わり、新学期を迎えた。

A子ちゃん、B子ちゃんとはクラスが離れてしまった。でも、C子ちゃんは同じクラスだった。そして彼も。

この頃になると、彼とは普通の友達のように接することができるようになっていた。

最近はC子ちゃんと彼とでよく話をした。

でも、そんな楽しい日々は長くは続かなかった。

新学期を迎えてから二ヶ月ほど経った頃。C子ちゃんと彼が一緒にいることが増えた。私は、なんだか蚊帳の外にでも追い出されたような気持ちになった。

そして、風の噂でC子ちゃんと彼がお付き合いを始めたと聞いた。

いつもいつも私の周りとばかり付き合い始める彼。

C子ちゃんだけは見捨てないでくれるそう信じていた自分がバカらしい。

もう何を信じて良いのか分からない。

私の恋路を応援すると言ってくれた友達三人。その三人がことごとく彼と付き合い始めるなんて。

もう、何も信じられない。

そんな時、ふと頭をよぎった。「こんなに辛いなら死んで仕舞えば良い」と。私は、両親が外出していなかった土砂降りの雨の中、家を出た。

髪を伝い、頰を伝い流れ落ちる雨。今更涙を流したところで全部雨が洗い流してくれる。

こんな私を引き止めてくれる人も、追いかけて来てくれる人もいない。

もう、悲しいという気持ちが分からない。

何も分からない。

ただ胸が痛むだけ。

あぁ、なんだかおかしくなって来た。

一人だけ見向きもされず、何も得ることが出来ずにただ全てを失った。

もはやおかしくてたまらない。

こんな理不尽な世界なんて。

どうして私ばかり。

どうしてこんな目に遭わなくてはいけないの。

私は気づいてしまった。

この理不尽な世界を変えることが出来ないのであれば、自分を変えれば良いと。

だから私は決心した。

この世と決別することを。

対して未練なんてない。

続きが気になる小説も。悲しんでくれる友達や両親も。私は何も持っていない。

だからお別れしてしまおう。

永遠に。

この世界の理不尽さに。

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