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黄昏の愛し子  作者: 蛍火花
第一章
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魔石のカケラの可能性

「ところで、そろそろ魔石を見に行っても構いませんか?」


 かなり強引に話を変える。いやー、大の大人があからさまにしょんぼりしおれていると、申し訳ない気持ちが出てきてしまって仕方がない。私が悪いわけじゃないのにね。

 気を取り直したようにラドクリフさんが頷き、ロルフも続く。


「せっかくだから一緒に行きましょうか。といっても、私の取り分の魔石はそう量はないでしょうけど」

「何をおっしゃっておいでですか。おそらく一、二を争う大きさと量ですよ」


 乾いた笑い声を立てながらのラドクリフさんに、魔石やカケラが保管されている部屋に案内してもらう。

 着いたのは窓のない小さな部屋で、机や椅子といった家具もなく、口の閉められた大きな麻袋が何個も直に床に置かれていた。


「開けて見ても、いいですか?」

「ええどうぞ」


 許可を得て恐る恐る袋を開ける。

 いつかの兄様との会話をぼんやりと思い出した。誰かの魔力を吸ったかもしれないカケラを見てなんて思うのか、嫌悪感がわいたらどうしようとも思っていたけど……心配していたような感情はなかった。

 魔石は魔石。カケラはカケラ。

 兄様が言っていた感情以外のものがなくて、自分でもほっとする。


 キラキラと光を反射しているのがちらほらとあって、様々な形の石がぎっしり詰め込まれている。形はそれぞれみんな違う。丸は勿論、いびつな楕円や金平糖のように角の尖ったカケラもあって、それぞれがくすんだ色をしていた。

 よくファンタジー小説でこの魔石から魔力を吸い取るとか、反対に魔力を込めるとかあったけど、こちらではどうなんだろう?

 試しに聞いてみたけれど、もう数えきれないくらい見てきた「何言っているの?」という微笑ましい表情が返ってきた。ひどい。

 どうやら魔石の魔力は人の魔力とは似て非なるもので、自身に還元することはできないらしい。


「魔物に取られると力を増してしまう為、森や街道には残してはいけないのですが、特にこれといった使い道はありませんからね。大きい魔石はほぼ転移陣に使用されると聞いていますが」

「その、大きな魔石は誰が回収するのですか? 例えば、倒した本人が回収に向かえない時などには」


 具体的には、空を飛びながら魔物を討伐してきたお母様のような人の場合には。

 私の副音声を正確にとらえたラドクリフさんが言うには、通常組まれた隊員の中で決められた人が魔石等を集めることになっているそうだ。そもそも国に渡すことになっている魔石の取り分を巡っての諍いは起きようがないし、カケラに至っては魔物に取り込まれると厄介だからできる限り集めるという認識らしい。

 今回のような合同の討伐時や常時の見回りの時に少しずつ貯め、ある程度の量になったら王都に送っているとのこと。それも大きな魔石は必ず送るけれど、カケラに関しては使い勝手がないと考えられていた為、ほとんどゴミ同然の扱いだとか。

 し、信じられない……。


「王都でどのように利用されているのかわからないのですけれど、もし処分などしているのでしたらいっそのこと、ここのカケラ私に全てください!」


 本気で叫んだのだが、冗談と思われたようでロルフにくすりと笑われた。いやいや、めちゃくちゃ使い道考えられるじゃん! お父様も兄様も大喜びするだろうし。


「お母様、魔石の研究をするような機関は作れないでしょうか? この砦だけでもこの量のカケラでしたら、十分魔道具に使用できると思います。私ではまだ上手く使えないと思いますが、お父様だったら何かご存じかもしれませんよね?」


 まだ価値を見出されてない今がチャンスだ! それに私一人で実験するより他の人の意見とか欲しい。

 それに魔石の研究と言っておけば、延長で魔道具の研究もできるよね? 今回はラドクリフさんにカケラの融通をしてもらえるけど、それがずっと続くわけじゃないからどうにか継続的にカケラを入手するルートを確立させたい。

 欲しいなーここのカケラ、これからも欲しいなーとお母様を見上げて心中で訴えていると。


「……マーカス、王都に今後カケラを送らなくてもいいかしら?」

「今までの慣習で送っていましたが……あちらから催促をされたことは特に記憶にありません」

「サイズの大きな魔石は送るようにとの通達ですが、それ未満の小さなカケラに関しては送るよう求められたことはありませんね」

「では、今後ライゼン砦の魔石のカケラに関してはこちらが買い取ります。個数では管理できないから、袋単位にしましょうか」

「お母様!」

「では、今後の魔道具の開発にも期待してよろしいですかな?」

「領との直接のやり取りでない方がいいでしょうから、商会へ紹介状を出すわ。ただし、過度な期待はしないようにね?」

「もちろんです」

「確かに、魔道具の安定した供給にカケラの研究は必須よね。今まで王都に送っていた分の検証は、あちらでもされていたと思うのだけれど……。それも含めて、今度知人にこちらで研究を進めてもらえるような人はいないか、声をかけてみるわね」

「ありがとうございます!」


 お母様がすんなりゴーサインを出してくれたし、今後の魔道具作りがはかどることを思うと笑みしか出ない。わくわくした顔でラドクリフさんが頷いているのも、同様の理由だろう。本当に期待しすぎないようにしてくださいね……?


「それにしても、大きな魔石というとどの程度の大きさがあるのですか?」


 袋に詰められたカケラは本当に小さいものばかりで、指に触れるもの全てが小指の爪ほどの大きさもない。

 あまり小さいと転移陣に使えないと言うのなら、実際に使えるような魔石はどの程度の大きさなんだろう。聞けば子供の握り拳ほどからそれと認められる大きさらしい。

 ここにあるカケラが価値がない思われるわけだ。それだけ大きな魔石なら保有魔力も桁違いだろうし、魔法陣に与える影響も大きいのだろう。

 その分その魔石の持ち主はどれ程の大きさなのって感じですけどね。


 ──大きさも何も、魔石は魔力が凝縮した塊のようなものだ。そこのカケラもいかようにでも大きさは変えられよう。


 飽きた口調のシロガネが呟きながらぐっと伸びをする。


 えっと。それはつまり、想像力でという意味?

 シロガネの言葉の意味を考える前に、ラドクリフさんが別の革袋を持ってきた。


「まだお見せしていませんでしたな。こちらですよ、クローディア様の魔石は」


 このままお返しいたします、とラドクリフさんから革袋を受け取ったお母様が、取り出した魔石を私の目の前に広げてくれた。

 確かに実物は大きかった。ここのカケラと比べると大きさが全く違う。私の握り拳よりも大きな物が二つ、同じくらいの大きさが三つ。形はごつごつしていて楕円に近い。ヒビが入った様子もなく、全体に緑と青の絶妙にグラデーションが入り混じった複雑な色をしている。なんとなく単色をイメージしていたから新鮮だった。

 ……少なくともこれだけの魔石を落とす、五体の魔物の討伐に加わってたくさんダメージを与えたかとどめを刺すかしたってことですね。


「これ、何に使えるのかしら」


 しげしげと魔石を見つめたお母様が首を傾げた。これを持ち帰るってことで必然的にお父様にも何があったのかわかっちゃうけど、仕方ないよね?

 黙ってお母様を見つめると、まだそれには気が付いていないようでにこりと笑顔が返ってきた。


「あの、こちらも幾つか手に取ってみてもいいですか?」


 承諾を得て、物は試し金平糖のような形をした小さなカケラをつまみ上げる。緑色をしたそれは、片面に斜めに亀裂が入って今にも割れそうだった。手のひらに乗せてそっと魔力を注いでみる。


 ぱあんと散って粉になった。


「ロゼスタ……何をしているの?」

「あーごめんなさい! 思わずやっちゃいました! もうちょっといいですか?」

「もう!」


 またこの子はという顔をしたお母様だったけれど、しばらく待って何も変化がないとわかると渋々頷かれた。

 形が崩れてしまったということは、多分このカケラの容量を超えてしまったから、だと仮定して。このカケラに、ちょうど満たんになるくらいの魔力を注いだらどうなるんだろうか。

 ──しばらく粉を量産した後、カケラに魔力を注ぐのは無理だと諦めた。少なくとも、今の私では無理。水道の蛇口から滴る一滴を意識したり、霧雨のような降り始めの雨をイメージして魔力を絞っても変わらず飛び散る粉に諦めたとも言える。これ、注げる人いるんだろうか……。

 でも発見もあった。

 飛び散った粉を浴びても、魔力が回復する兆しは何もなかったのだ。魔封じの魔法陣を解除した時と同様、自分の魔力ではないからだろう。となればおそらく私の魔力は微々たる量だけれど、ただ消費しただけのはず。

 この違いが人と魔物の魔力の違いかもしれない。

 魔道具を作っているランティス国ではどうやって魔道具を使い続けているんだろう? 使い捨ての魔道具しかないんだろうか。魔力がなくなったら補充するとばかり思っていたから……あーでも、魔石を使い捨ての電池と考えればそうおかしなことでもないのか。かなり手に入りにくいとは思うけど。お父様にもっと聞いておけば良かった。


「……どうしました? 何かおかしなことでもありましたか?」


 気が付くとラドクリフさんとロルフがさっきから黙っている。何か発見でもあったのだろうかと聞くと、ぎこちなく「いえ……」と首を振られた。


「少し驚いてしまいまして……。魔力を魔石とはいえカケラに注ぐ方がいようとは……」


 ここでも出た、魔力は全部攻撃魔法、防御魔法に振るべし思想。

 試しに使うのでもそんなにドン引きされることなの? 魔道具作るのに使うのは良くて、カケラに注ぐのはダメって線引きはどこよ。


「魔道具に魔石が使用されているものもありますよね。それに魔力を注ぐのなら、カケラに注いでもおかしくはないのでは? 私はただ、魔力が満ちた状態のカケラがどうなるのか見たかっただけなんですけどね」

「砕けてましたね」

「そういえばロゼスタ様、魔道具に魔石が使用されていない物だと使用年数はどの程度なのでしょうか?」


 はて? 


「魔法陣の魔力が尽きるまで……ではないでしょうか。そう考えると私の薫り消しもそうなりますね。魔力を注ぎ直せばまた使えるとは思いますが」


 そういうのは兄様やお父様の方が詳しいよね。足りなくなった魔力を注ぐのは作った人でなくてもいいのかとか、他にも疑問が出てくる。


「そもそも魔石に魔力を注ぐとはどういう感覚なのでしょうか? 魔法陣でしたらわかります。魔道具でも陣がありますしね。しかしこれのどこに……」

「あまり深く考えなくていいと思いますよ」


 魔力だしね。イメージが大事と教わったので、フィーリングでいいんじゃないでしょうか。

 ──其方のように皆が皆なんとなくで魔力は使わんということだな。だが、そんなにも人間は思考しながら魔法を使っておるのか。不便だな。


 いや、知らんし。

 ともかく。


「あの、色々と試してみたいことがあるので、もう少しここにいてもよろしいですか?」


 お母様は書類作業があると言っていたから忙しいだろうけれど、もう少しここにいたい。そんな考えの元聞くとふ、とラドクリフさんが笑った。


「見ての通り、王都に送るまでもない小さなカケラしかありませんが、ロゼスタ様のお気がすむまでいてくださって構いません……ロルフ、お前は引き続きここで待機だ」

「はい」

「ロゼスタ様、あまりやんちゃはなさらぬよう」

「はい……はい? ありがとうございます?」


 やんちゃて。

 そんなことしてないもん。

 お母様とラドクリフさんが退室した後、何食わぬ顔で袋に手を入れてカケラをさらさらと掬っては落とすのをしばらく繰り返した。

 ロルフが「こちらに控えていますね」と言って部屋の隅に下がったのを確認して、そっとまた魔力を注ぎ入れる。

 砕けるカケラ。宙に舞う細かな粉。

 後ろに控えるロルフに見えないように、えい、と思い切って袋の中に両手を入れる。ざらざらと触れる石の触感を肘のあたりで感じながら、ゆっくりと腕を動かして魔力を流した。袋の奥に、カケラの一つひとつに浸透するようにまんべんなく。

 ポップコーンが弾けるように、底の方からどんどん形が崩れて粉になる。

 た、楽しい。久しくしていない幼い頃の砂場遊びを思い出す。手に振れる感触といい、そっくりだ。


 ざらざらと手に触れる感触を端から粉に変えつつ、先ほどのシロガネの言葉を思い出した。この粉一つ一つが小さな具現化した魔力。いや、言わんとしていることはわかるような気がするけど、これが空気中の魔素と同等かと言われると首を傾げたくなる。そんなことを言い出したら魔素からもカケラ、魔石もできることになる。

 一瞬考えてみたが、どこにどう何を注げば魔素が固形になるのかわからなくて考えるのをやめた。もしかしたらこの感覚がさっきラドクリフさんが言っていた、どこに魔力を注ぐのかわからないということなのかもしれない。

 でも魔石は目に見えるしな……。

 試しに固まるように念じながら、掬い上げた粉に試しに魔力を流す。

 この手の大きさくらいの塊になるように念じてみながら──。


 変化は一瞬だった。

 手の中でさらさらとこぼれていた粉が、きゅっと固まった。


 え、どうしよう。魔石ができてしまった。

 ……どうしよう!


 ──自慢すれば良いではないか。


 のんきなシロガネの声が響く。

 いやいや、冗談じゃない。そんなことしたらみんな王都に取られちゃうでしょ!

 今後のカケラはお母様が買い取ると言ってくれたものの、まだ口約束の段階。そしてこんなことができると知られたらもう買い取ることは不可能になる。そして他のカケラを手に入れる可能性も格段に下がるだけで……良いことが何一つない!

 慌ててもう一度魔力を注ぎ直して人造魔石を粉に変える。問題なく粉に戻ったカケラを、今度は握りしめた手のひらで小さな丸い魔石になるように念じながら魔力を流してみると、それは私の小さな手の中でコロリと転がった。


 ……オーケイ、落ち着け私。

 カケラに魔力を込めれば粉になる。粉も魔力が具現化した物に変わりはないから固まれとイメージすれば魔石になる!

 すごーい! 大発見! 


 一人寂しく自画自賛しながら、まだ誰にも言えない大発見を噛みしめる。

 後ろに控えているロルフに変に思われないよう、すべてカケラの中に突っ込んだ手の中で行ったから実物を見られないのがもったいない。形はわかるけど色はどうなっているのか……。後でお母様にも見せたいし、兄様もさぞ驚くだろう。

 と考えながら、ふと気が付いた。

 どちらかと言えば今私が欲しいのはカケラが粉になった物の方で、大きな魔石は使い勝手が悪いということに。

 イメージして変わってくれるなら、液体に変わったりしないだろうか。

 どうせならインクそのものに変わってくれれば、そのまま魔法陣が描けるのに。乾いたら消える仕様付で。魔法陣が見えないなら真似されるかもなんて心配しなくていいよね。あ、そうしたらわざわざ魔力を込める必要が薄くなるから、魔力の少ない人でも魔道具が作れるんじゃない?


「あ」


 手の中で固まった魔石がヌルンと溶けた感触がした。慌てて魔力を流すのを止めて、あたふたしながら魔力を込め直して粉に変える。


「うわぁ……」


 指先に粉の感触を感じながらぴしりと固まった私の後ろ姿に、不審に思ったのか「どうされました?」とロルフに声をかけられた。


「いえ、ナンデモアリマセン」


 片言で答えたのを怪訝に思ったのか、近付いてきたロルフに覗き込まれたけれど、全て袋の中で起こった出来事で幸いにも彼が気が付くことはなかった。


 要相談案件だけが増えていく……。



 その後の残りの日数は残りのカケラをひたすら粉に変えたり、再び町に出たりして過ぎていった。

 神官たちはもちろん突撃してきたようだったけど、幸い言葉を交わすことなく残りの討伐日数が過ぎ、どうなることかと思っていたシロガネの派遣も無事何事もなく済んだのだった。


 


 

読了ありがとうございます。


討伐も落ち着き、次はやっとお家に帰宅します。

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