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黄昏の愛し子  作者: 蛍火花
第一章
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魔道具作りと神殿の思惑

 さて、お待ちかねの魔道具作りの時間です。

 興味深そうに見てくるロルフとシャノンを視界の端に入れつつ、今日購入したばかりの装飾品を机の上に並べていく。


 シャノンのは、本当にもうちょっと可愛いのが色々とあったのに。

 シンプルすぎる腕輪にため息をつきつつ、もう数え切れないほど刻んだ魔法陣を描く。もう紙にわざわざ書かなくても細部まで思い描くことができるのだ。練習って大事。

 部屋にいるのは私とシロガネ、シャノンにロルフだけだ。他の人の目を気にしなくて魔道具が作れるって本当に素晴らしい。


「ん、できた」


 陣が展開して腕輪が魔道具になった瞬間、キン、と空気が震える感触がある。成功だ。


「え、もうですか?」


 キョトンと瞬きをするシャノンに微笑みかけて腕輪を差し出す。

 首を傾げながらそっと左腕に通したシャノンをじっと眺めていたロルフが目を見開いた。


「先程見せていただいた物と全く同じなのですね。何も感じません」

「消臭……薫りを一時的に消しているだけですよ。薫りそのものが消失したわけではありませんからね」

「妙な感じですね。魔力があるのに薫りを感じないとは」


 念の為再度説明をし、シャノンにはそれを常に身につけているように話す。


「心得ました」

「万が一ということもありますからね。今からつけておいた方がいいでしょう」


 町を見学した後に言うのもどうかとも思ったが、今まで何も身につけないでいたのだし、許してほしい。

 次はアリシアの分である。


「こちらにお願いします」

「わかりました」


 シャノンが選んだ腕輪より明るく細い銀のバングルには、淡い色の石と花の模様が彫られている。にこにことした明るい笑顔のアリシアによく似合うだろう。

 

 同じように陣を描き、刻む。完成!

 手渡すと「こんなに簡単にできてしまうなんて……」とシャノンが呆然と呟いた。


「ロゼスタ様、これは普通なのですか? 私、魔道具への印象が大分変わってしまいそうなのですが」

「家族の他に魔道具を作る方を知らないので私にはなんとも。ですが、私は数え切れないほど練習を重ねましたよ。その成果だと考えればあまり驚くことではないのでは?」


 理論上陣を精密に組む知識はお父様と兄様には敵わないし、そもそも他の人には見えていない魔法陣のこともある。あまり突っ込まれても上手く答えられない。


「あ、と……ロルフのはどれにしましょうか」


 並べた装飾品は気がつけばどれも女性物だ。ロルフが身につけても違和感のないものがない。男性でも身につけられるようなデザインの物も見てくればと思ったけれどもう遅い。


「では、こちらにお願いできますか?」


 ロルフが首にかけていた鎖を差し出してきた。男性用の首飾りだろうか、銀の小さなメダルのようなものが連なっている。


「私はお試しで身につけさせていただくので、値の張る装飾品に付与していただく必要はありませんから」

「ロルフがそれでいいのでしたら」


 受け取って、こちらにも薫り消臭の魔法陣を刻む。

 あっさりできた魔道具を手渡して、はて次にやろうと思っていたことってなんだっけと首を傾げたところでもう何もないことに気がついた。

 魔石を売っている店を探そうと思っていたんだよね。で、それがないと出かける前にわかったんだから──。


 今私、魔法陣のキャンセルを練習する時間があるんじゃない?


 ──魔力を温存する設定はどうした。


 呆れたようなシロガネの声が響いてきたけど、お母様がディーと討伐に出ている間は私の自由時間だよね? ね?

 魔力をいっぱい使わないようにして、夜ゆっくり休めば回復したように見えてばっちりなんじゃないでしょうか?!


「ロルフ、この屋敷には魔法の練習をする部屋はありますよね?」

「はい、それは大抵どの屋敷にも……どうしました?」

「ちょっと練習したいことが……」


 上手にぼかして言ったつもりだったが「やれやれ」とでもいう風に見られた。


「母君には慌てて練習をすることはない、といったことを言われていませんでしたか? 万が一暴発でもしたらどうするんです?」

「そのために練習する部屋に行きたいんです。今は私、することがありませんよね? 私とシロガネの出番までまだまだ時間がありますし!」


 秒でバレたがそれならそれでいいから、一緒に来てほしい。時間は有限、思い立ったが吉日である。勢い込んで言った時、控え目に扉をノックする音が響いた。


「失礼いたします。先程神官様方がご到着されました。ロゼスタ様へご挨拶をとお越しになっております」


 え、今?

 なんて思いがよぎった私は決して悪くないと思う。


「ええっと、お母様の代理の方は……?」


 押し付けようとは思ってはいない。

 が、今回の討伐での私はあくまでおまけ。彼らが挨拶をするのならまずはお母様、そのお母様が不在なら代理人を必ず置いているはずである。少なくともそれは六歳の幼女にするものではないはずだ。

 けれどメイドは「それが、ロゼスタ様に是非に、と……」と困ったように眉を下げた。

 えええええ……。私じゃなきゃだめなの?

 どうしようか瞬時の返事が出ず躊躇ったのが運のつきだった。

 小さな悲鳴と共にメイドが押しやられ、ドアが開け放たれた。


「これはこれはロゼスタ様、ですな? お初にお目にかかります、カルヴァンと申します。いやはや、流石精獣様と契約された方々ですな。とてもとても我らの足では追いつかず出遅れてしまい面目ない」


 表面上の言葉は丁寧だが、態度はひどいものだった。オロオロするメイドの制止を物ともせず、ずかずかと入ってきた神官がゆっくりと頭を下げた。


「こ、困ります、神官様……! まだお嬢様へのお取次ぎ中でしたのに」

「時間ばかりかけおって気の利かない女中だな。何をモタモタしている。第一、神殿から来た者をロゼスタ様が拒まれる訳がない。下がれ下がれ! 今後の方針で色々とお話しすることがあるのだ」


 頭を下げながら私に向けられたにこやかな笑みはさっとかき消え、乱暴な手振りでメイドは強引に追い出されてしまった。

 以前神殿で見かけたような、灰色のローブを纏った中肉中背の男性だ。白髪交じりの茶色の髪を撫でつけ、人当たりの良さそうな笑みを浮かべて何か都合のいいことを言っているけど、拒みますよ?

 神殿との面会はお断りです。


「先触れもなく、このような振る舞いはあまりにも失礼では? それにロゼスタ様に挨拶をと言うのならそれより先にすべき方がいるはずだ」


 不快を隠さず鋭く告げたロルフに、カルヴァンは「もちろんです」と大きく頷いた。


「精獣様への挨拶が先に決まっています。何より尊い御身でいらして下さっているのですから」

「……挨拶は無事終わりましたね。ロゼスタ様も色々と予定があります。それはカルヴァン殿も同様でしょう」


 お母様への挨拶を聞いたのにわざと話をずらしたカルヴァンに、ロルフが苛々とドアを指し示す。

 私に話すことなんてないし、今後の方針も何もお母様と話したことが全てで、むしろ神殿関係者は立ち入り禁止にしたいくらいだ。

 リカルドの観察するような視線も苦手だったけれど、カルヴァンの明け透けな言動に接するのも同じようなものだとわかった。


 ──保護者がおらぬうちに早速接触を図るなどなかなか動きが早いではないか。内容など知れているが。


 つまらなそうに呟きながら、シロガネが器用に肩を竦めている。

 薫り消しの魔道具をさり気なく膝の上に移動させながら内容って? と尋ねた時。


「ロゼスタ様、今後について少々お耳にお入れしたいことがございます。そこの護衛にも退室をしてもらって構いませんね?」


 勝手に仕切りだした彼への元々ゼロだった印象が、地にのめり込んだ。

 さっきのメイドの追い出し方もだが、強引で横柄な態度の人とこれ以上一緒の部屋にいるのも苦痛だった。


「彼らは母からつけてもらっている、私の護衛です。いてもらわねば困ります。護衛がいては話ができぬというのでしたら、どうぞそのお話は母伝いにして下さって構いません」


 というか、早く帰ってくれ。

 わざと同じ言い回しにした返事にぐっと詰まったカルヴァンは、慌てたように首を振った。


「これは大変失礼致しました。何分焦っていたもので……どうぞお許し下さい」

「いえ……」


 ……初めて知った。許したくないし、話すこともないのに、謝られ頭を下げられると許すことを強要されているように感じることもあるんだと。


「流石精獣様と契約された方! お優しいお心遣いに感謝いたします。なかなかこうしてお顔を合わせていただく機会をいただけず、歯痒い思いをしておりましたが、これも何かの巡り合わせ。今回の討伐は是非我らの班もロゼスタ様方とご一緒させていただきたいですな!」

「……わざわざこちらにまで挨拶に来てくださるとは思ってもいませんでした。こちらより先に母のところへ向かわずとも良いのですか?」


 許すと一言も口にしていないのに、もう終わった話としてあっという間に別の話に繋げ始めた。

 討伐の時に同行? 冗談でしょ。

 いつの間にかドア付近にいたシャノンに首を振ってみせて止めると、渋い顔をされた。


「なんと、ロゼスタ様は控えめな方なんですな。精獣様と契約された方に一番にご挨拶をするのは当然のことです、ええ。どうぞお気になさらず」


 その精獣様と契約したのはお母様も同じだろうに、カルヴァンはわかっているのかいないのか、ズレた返事を寄越す。

 面倒くさいと思いつつも、ロルフにも目配せをし一応話は聞く、と合図する。

 ある程度聞いたら途中で切り上げよう。そうでもないと、また突然来そうな予感がヒシヒシとする。そのくらいだったら腹は立つけど、今この場でさっさと用件を終わらせておいた方がマシだろう。


「おおおお、こちらが話に聞いていた光の精獣様ですな! 薫り撒きの際のお姿のなんと麗しかったこと……!」

「恐れ入ります」


 取り繕った、というには熱のこもった言い回しと身振りで、カルヴァンがシロガネを前に称賛の言葉を並べ始めた。

 対するシロガネは素知らぬ顔でそっぽを向いたまま目を閉じた。その横顔すら気品があって神々しいと並べ立てる声がうるさい。


 ──つまらん。並べ立てる言葉がちっとも変わり映えせん。


 さっきの内容のことかともう一度確認すれば「要するに神殿に来てくれ、いてくれ、契約してくれということだな」とうんざりした声で言われて納得した。

 神殿にいる神官たちは皆精霊、精獣と契約をすることが至上で、契約を交わすために日夜修行をしているらしいが、それがシロガネにとっては面白みもなんともないらしい。

 別に面白い必要はないとは思うけど、カルヴァンのような神官が多いのだとしたら、シロガネがうんざりするのも分かる気がする。


 ひとしきりシロガネを褒め称えたカルヴァンが「ところでロゼスタ様」と、しきりに咳払いをしながらこちらの反応を窺うように見てきた。


「よもやとは存じますが、どこかからか、その、ご縁談などは上がってはいませんね?」


 一瞬何を言われたのかわからなかった。何故そんなことを言われなければならないのか。

 言質を取られないようにも何も、言葉の裏を考える必要もないくらい直接すぎて乾いた笑いしか出てこない。


「特に、耳にはしていませんが……」

「そうでしたか! それは良かった。今後も何かしらのお話がありましたら神殿を通していただけると有り難いですな」

「はぁ……?」


 まだ縁談なんてないし、例えあったとしても神殿に言う義理なんてない。


「こんなことをお耳に入れるのもどうかと思いましたが、何分一つの領地に二つの属性の精獣様が降臨されるなど過去に例のない話でして……。色々と意見が別れているのです」

「意見」

「そうです。外の領地との縁組など以ての外です。まして始まりの精獣様に連なるお方、王家に再度というのでしたら、そもそもその所属される場所は神殿であるべきですからな!」


 あ、だめだ。なんだかとっても胸が悪くなってきた。どうして私とシロガネの将来に神殿が口を出して来るんだろう。関係ないのに。

 大声で喚いてやりたいような、地団駄を踏みたいような衝動が湧いてきたけど、結局どれもできなくて、無言で首を振った。


「こう申してはなんですが、ラシェル伯の婚姻に関してはその、お一人で決められてしまいましてな、どうなるかと心配しておりましたが、ロゼスタ様も精獣様と契約されましたし、良い方向へ向かわれたのだと安堵しておるところです」

「……神殿が安堵とは、些か言葉が過ぎているのでは? 精獣様と契約された方とを好き勝手に動かせる、という風にも聞こえますね」


 呟いたには少々大きいロルフの独り言に、カルヴァンがじろりと視線を動かした。


「護衛風情が差し出がましく口を挟むものではない。一度人の世に降り立った精獣様にも人の世の理にご協力を頂くこともあるという、それだけのこと……ロゼスタ様、彼はどうにも護衛という職に就くには腕ではなく、口の方が達者のようです。こういう者より、神殿の選りすぐりの者たちの方がお役に立てることが多いかもしれません、早速数名連れてまいりましょう」

「結構です」

「いやいや、ご遠慮なさらずに。見目も整っている者が多くおりますよ。ロゼスタ様の気に入る者もきっといるでしょう」


 神官の見目が良いことが何に繋がるのか全くわからない。いらないと言っているのに年の近い者がいいか、年上は好きかなど一人で喋っている。


「お耳が遠いようですし、これ以上の挨拶は不要ですね。ロゼスタ様の予定は他にもあるのです」

「そうですね」


 シャノンが容赦なく会話をぶった切った。有り難くその流れに乗る。


「私もそろそろ向かわねばならないところがありますので。興味深いお話をありがとうございます。母にも報告しておきますので」

「口ばかり達者な護衛になんの意味があるのか……。全くラシェル伯は何をお考えなのか。ロゼスタ様、ご存知ないのかと思いますが、神殿は世俗と異なり配偶者の人数を問いません。世俗の慣習に縛られなくても良いのですよ。優れた血はより多く後世に残されるべき……」

「失礼」


 カルヴァンの言葉の途中でロルフに両耳を塞がれた。

 見上げるとさっきよりも厳しい顔をしたロルフがカルヴァンを見据えていた。


「退室を」

「な、なんだ、まだお話は終わっていない!」

「到着の挨拶はもう十分でしょう。これ以上のお話が必要でしたらラシェル伯代理の方へどうぞ」

「ご案内致します」


 ずっとドアの前で待機していたシャノンが、慇懃無礼にドアを開けた。


「あ、いや……もう、挨拶は済んでいる、はずだ」

「は? ではこのロゼスタ様へのお話は挨拶と称しただけの口実というわけですか」

「失敬な! 重要なお話であることに変わりはない! これはそもそもラシェル伯が直の対面を許されないからこうするしか」

「これは神殿へ厳重に抗議させていただきます。少なくとも精獣様と契約された方に対する対応ではない」


 腰の剣をちらつかせカルヴァンを廊下に押しやったシャノンが、眉を寄せながら信じられないと呟いた。

 廊下と部屋とを隔てたドアの向こうでまだギャアギャアと喚くカルヴァンの声が聞こえている中、ロルフはため息をつくと頭を下げた。


「ロゼスタ様、中断するタイミングが遅れて申し訳ありません」

「あんな不愉快なことを口にするなんて……そもそも入室させなくて良かったのですね。私が確認に向かえば良かったのです、申し訳ございません」


 口々にロルフとシャノンに謝罪されたけど、最初に話を聞くと合図したのは私だ。


「いえ、私がカルヴァンの話を聞くと合図したから、二人は待っていてくれたのでしょう?……あんな話、聞かなくても良かったのに、ごめんなさい」

「……失礼ですがロゼスタ様、先程の最後の彼の言葉はどこまでお聞きになりましたか?」

「どこまでって……」


 ロルフが介入してくれたのがどの辺りだったろう。

 世俗の慣習に縛られなくて良いとか言っていたけど、それは反対に神殿内のルールは別にあるってことだよね。大きなお世話だよほっといてください。

 そのまま口にするのも嫌でぼかして言うと、ロルフとシャノンはホッとしたような表情になった。


「聞こえていなかったのなら良いのです。これ以上あの神官の妄言に付き合う必要はありませんから」

「神殿には抗議しますし、ロゼスタ様が出られる討伐時に神官たちには側へ寄らないよう配慮をしてもらいましょう」


 憤慨しながら口々に言う二人の言葉を聞いている内に、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

 胸が悪くなる内容だったけど、わかりやすく神殿の希望をこれでもかと教えてくれたのでその部分に関しては良しとしよう。




 それにしても配偶者の人数決められていないなんてどんな拷問? あり得なさすぎて笑えてくる。


 将来神殿に行くの、絶対に無理。



読了ありがとうございました!


次は魔法陣のキャンセル・実践です。

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