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黄昏の愛し子  作者: 蛍火花
第一章
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町歩きと頼まれごと

お待たせしました……!

 無事お目当ての物を購入し終えて店を出る。思っていたよりも早く終わったが、色々と購入できた。

 特に魔道具! なんの魔道具なのか、調べるのがとっても楽しみである。


「他に見に行かれたい場所はありますか?」


 ロルフの言葉にうーんと唸る。

 もし魔石の店があったのなら迷うことなくそこに行くところだが、残念ながらここにもない。

 そして追われているというシャノンを、これ以上連れ回しても良いだろうか。ちらりと見た私に、シャノンは悟ったように「大丈夫ですよ」と頷いてくれる。

 それなら……少し町中を歩くのは可能だろうか。

 思いきって聞いてみると「構いませんよ」と微笑まれた。


「市場へ向かってみましょうか。屋台も多く出ていますし」

「はい!」


 道すがら目にする物について尋ねて、それが何か教えてもらう。

 町全体を囲んでいる壁は実際に魔物の襲撃を何度も防いでいること、修復時には町人たち総出で手伝うらしい。

 各地の砦に派遣される騎士団は特定の地域のみにいるのではなく、持ち回りで順番にそれぞれの勤務についていること。王都に務めているのは近衛騎士団と第一、第二騎士団のみで、そこへの入団が大方の騎士たちにとっての目標らしい。

 そんな中ラドクリフさんはここ数年ライゼン砦を受け持っていて、お母様との付き合いも長いんだとか。


「クローディア様も当時気苦労が多かったと聞いています。団長はその時に色々と手助けをされていたそうで」

「気苦労」


 魔力枯渇を繰り返して魔力を増やし、持った力をここぞという時に見せつけたらしい脳筋気味なお母様に気苦労とは。

 どんな苦労だったのか検討もつかなくて曖昧に首を傾げるしかない。


「望ましくない婚約話ばかり持ちかけられたとか」

「あー……」


 そっちか。なるほど。それは確かに苦労しただろうな。

 納得し頷くと「お嬢様にも無関係な話ではないですよね」と肩を竦められた。


「いえいえ、私はちょっとそちらは……」

「まだお決まりでない?」

「まだです! 早すぎます!」

「そうですかねぇ……」


 疑わしげにシロガネと交互に見られると言葉もないが、ないったらない。まだだったらまだだ。

 考え始めるとドツボにはまるからあまり考えたくない。


「まぁ、余程の方でなければ選ぶのはお嬢様の方でしょうからね」

「そんな脅すようなことを……、そんなことを言ったらシャノンは? 婚約者はいたのですか?」

「私ですか?」


 首を傾げる目の前の少女の方がよっぽど男の人が寄ってきそうだと思うんだが気の所為だろうか。

 可愛いし、魔力あるし、ネコ耳だし、完璧なんだけど。

 ぱちくりと紫と濃紺の瞳を瞬かせたシャノンが、クスリと笑う。


「残念ながらそういったお話は一度も。私は身の上がこんなですから、殿方とそういうお話が進んだことはございません」


 それに私は、流れですから。

 つい先日耳にした言葉だ。


「あー……、誤解がないように言っておきますが、私自身にはそうした方々への偏見はありませんからね」


 立場は違えど魔物を倒し人々を救うのに変わりはない、と言い切ったロルフを、眩しそうにシャノンが見る。

 ただ、残念なことに、一箇所にとどまらず戦う彼らを流れと呼んで蔑む傾向はどちらかというと前線で戦わない者たちに多いのだという。


「戦う時に騎士だ、流れだなんて些細なことですよ。大事なのは目の前の脅威を取り除くことで、差別じゃない。むしろ戦力が一人でも多いほうが助かる時もあるんです。まぁ、そちらにしたら取り分が減ってしまうデメリットもあるかもわかりませんが」


 あまり自分を卑下する必要はない、とロルフが重ねて言った言葉に、シャノンがおずおずと頭を下げた。


「ありがとうございます……」

「いえいえ、少なくとも縁あって今回の護衛の仕事も一緒に当たっているので、よろしくお願いします」



 向かった市場には数え切れない屋台が並んでいた。その殆どが食べ物である。

 精獣様を意識して出していると聞いた通り、それぞれ美味しそうな匂いが流れてくる。

 買い食いってお行儀が悪いよねえ、でもお忍びで来ているんだから別にそこまで気にしすぎることもないんじゃないか、いやいや別に急いで食べなくても屋敷に戻ってからでも……としばらく悩んだ結果、食べ歩くことにした。

 嬉々として肉に齧り付くシロガネを見ていたら、自分が何に迷っていたのかわからなくなってきたからとも言う。

 護衛中だから、と二人には一緒に食べるのを断られてしまったが、美味しいものは美味しかった。


 ──塩辛いがそれがまた美味い!


 食欲旺盛なシロガネはもう三本目に突入している。

 ここに、兄様やお父様、お母様もいて一緒に食べられたら良かったのに。

 ほんの二週間に満たない期間なのに、妙に寂しく思いながら、私も串焼きを齧った。



 砦と聞いていただけだから戦闘する人の割合が多いんだろうなと思っていたけれど、意外と町人らしき人とすれ違うことの方が多い。

 見ているとすれ違う大半が若い男性だ。女性もいるが、ラドクリフさんのような壮年の男性はあまり見かけない。

 討伐の時期だからかと思ったらそうではなく、いつもだという。内心首を傾げた私の目の前を松葉杖をついた男性が通り過ぎた。

「引退騎士でしょうね」とロルフが私の目の動きを追って呟く。


「元々騎士だった方ですか?」

「恐らくは。こうした砦に身を寄せる者が多いのです。騎士といっても、怪我を負い前線を退いた者の行く場所はあまり選択肢がありませんので」


 ついさっきすれ違った人のように、馬に乗れなくなるほどの怪我を負った者の多くが引退騎士だという。戦っている最中に怪我を負い、それが原因で騎士団にいられなくなった者たちだ。

 一般人ということもないのかと聞けば「普通の人は遭遇した際、まず助かりませんから」と苦い表情で呟かれた。

 ここに来る途中で遭遇した魔物に、戦う術のない者が出会ったら、確かにそうだろう。思い出してしまって思わず口を押さえたところで、思わせぶりにシロガネが流し目をしてきた。


 ──では、彼らに遠慮して我が魔石を集めることは止めておくのはどうだ? なぁに、大男がカケラをくれると言うし、そんなに急ぐこともあるま……

 だいじょーぶ! たっくさん集めてきてくれていいよ! ありがとね!


 まだ納得していないのか、すかさずリタイヤを宣言してきた精獣様に却下を叩きつけ、ロルフに続きを話してくれるようお願いする。

 こんな内部の詳しい話を聞ける機会はそうない。


「騎士団に籍を残さず退団する者が大半です。若い者もいますが、故郷に戻る者の他は、こうして王都を離れて地方で細々と暮らすことが多いのです」

「こうした場所なら職があるのですか?」

「新たな職に就く者もいるでしょうが、よく耳にするのが、魔法を村人や子どもたちに教えたり、自警団に入ったりとこれまでの経験を活かせることを始めることが多いようです」

「王都を離れて彼らが集まってくるのは……、こちらの方が過ごしやすいからでしょうか?」

「事情はそれぞれあるでしょうが、こうした砦や地方の村でも彼らの存在はありがたいものなんですよ。体の自由が効かなくとも、魔法はそれなりに使えますからね。有事の際には一役買ってくれます。何せ王都は近衛騎士団という花形のいる中心地ですから。なんとも……説明し辛いのですが、地方で仕事をしていて、その後戦えなくなったからと王都に行くことを選択する者はごく僅かですね」


 言葉選びに苦慮するロルフの様子から、王都はある意味で引退した騎士たちにとって居心地が悪いのだろう。

 そんな思いをするくらいなら、危険はあっても最後まで戦いたい。役に立ちたい。そういう考えなのだろうか。


「私も叶うならば最期はそうして迎えたいですね」


 それこそ本望だとロルフは静かに微笑んだ。


「王都のような中心地のみではなく、こうした地方にこそ戦力が割り振られていなければ、とても魔物の進行を止めることはできませんから」


 聞けば昔はこの砦も、周辺の村にすぐ駆けつけられるように純粋に騎士たちだけがいた時代があったらしい。それが時がたつにつれ、その周辺の村が集まって一つの大きな集落のようになっていったのだそうだ。 

 お母様が精獣との契約者としてここの指揮を取るのもあくまで契約者だからだそうで、本来こういった砦の管轄は王都で、お母様のような契約者がいなければラドクリフさんが最高責任者の形に収まるらしい。

 そういうロルフは今年二十三歳。男爵家の三男だという。


「魔法院にも通いましたが充実した、有意義な時間でしたよ」

「そうだったのですね! どんな所……と聞いても良いのでしょうか。何を学べるのですか?」


 興味津々な私の質問に、「お嬢様はもうご存知かと思いますが」と前置きしたロルフはくすりと笑った。


「精霊、精獣との契約のことについて学ぶ時間がありましたよ。座学では様々な進化をする魔物の生態について。あとは希望する職種に必要な技術の習得や、属性別に得意、不得意な魔法の習熟度を上げたり、トーナメント方式での魔法対戦もやりましたね」


 思っていた以上にがっつりと教わることがありそうだ。

 内容的にもやはり、文字書きのできない平民は最初から門前払いなのがわかった。本格的な実地訓練をしている様子が窺える。


「ちなみに、もちろんクローディア様は優勝されましたよ」

「!」


 すごい! 流石お母様!

 ディーと既に契約していたお母様は圧勝だったそうだ。見たかった……!

 ロルフはお母様との学年が二つ下に当たるそうで、残念ながら対戦することはなかったそうだ。全部年齢別だったということだろう。

 領地対抗とか、チーム戦はなかったのかな。


「色々と教わるのですね」


 ロルフの話に感心したようにシャノンが目を瞠る。


「シャノンはどれか受けてみたい教科はありましたか?」

「魔物の生態についてですね。体系的に生態を見るのでしたら、地域ごとの特性や派生にもある程度の規則性が見つかる可能性があるでしょうから」

「お察しの通りです。全ての解明にはまだ遠く至りませんが、地域ごとに進化の遂げ方が異なる報告が多数あるそうですよ」


 規則性が見つけられればその分弱点をつきやすくなる。アルフォンス様の話していた転移陣は、各地の魔物の情報を一つに纏め考察するのにも一役買うことになりそうだ。


「解明が進めばその分被害を押さえられるかもしれませんものね」

「その通りです。あとは……ああ、魔法院で婚約者が決まる者が殆どでした。卒業時のパーティーで誰が誰をエスコートするのかで盛り上がっていましたね」


 あ、やっぱりそれ系統の話もあるのね。

 既に婚約者がいるなら話は別だが、そうでない場合の相手探しに大変熱がこもっているそうだ。

 お互いに想い合っているならともかく、地位やその他の色々な思惑がこんがらがる婚姻はご遠慮願いたいんだが、どうなるか全くもって不透明である。


「そういうロルフは……」


 言いかけると苦笑するロルフに肩を竦められる。


「残念ながら、地方を行ったり来たりする砦通いの騎士に着いてきてくださる奇特な方はいらっしゃいません。領地持ちのご令嬢、ご令息は幼い頃からの婚約者がいることが多いので、魔法院でお相手を変えることはそうないのです」

「残念ですね……ところで領地持ちというのは?」


 すわ恋バナかと思いきや、始まってもいなかった。空振った私の期待に「何故お嬢様が残念がるのかわかりませんが」とロルフが口元を引きつらせた。


「領地持ちというのは、領地を継ぐことが決まっている方々のことです。魔力が一番多い者が次代という傾向がありますが、領地によって異なりますね。クローディア様は運が良かった。あそこは代々男系でしたから」


 初耳だ。

 そもそもお母様が当主になったのも能力が一番高かったからだと聞いた記憶があるんだが、実は違ったということだろうか。

 どうしても譲れないもの、欲しいものがあって実力を示して当主の座を望んだのと、一族の中で一番強かったというメリットからなったとばかり思っていたんだけど。

 まぁ、男系だったのにそれを覆すほどの実力を示したお母様がすごい、としか出てこないんだけど。


「そういう意味でも、魔法院でクローディア様とオルトヴァ様に注目が集まったのです。何せ、卒業を控えた年にオルトヴァ様へクローディア様が逆プロポーズをされましたからね」

「え? 公衆の面前でですか?!」

「ええ、しばらくは熱気が凄まじかったですよ」


 そりゃそうでしょうよ。いつだったか確か、アルフォンス様からお母様が見た目によらず大胆とかなんとか聞いた覚えがある。

 ホントだね、とっても大胆!


「オルトヴァ様はオルトヴァ様で次点での準優勝でしたよ。あれは未だに真似のできる学生はいないと思いますね」


 お父様の方は別な意味で魔法対戦時無双をしていたらしい。なんでも三つの魔法陣を同時に展開して相手を完封したとか。

 え、何それそんなことできるの? レイトスを脅す時火の魔法陣と水の魔法陣を同時に作ったけど、更にもう一つ追加とは……。ちょっと想像してみたけれど、三つ目を展開することはできるかもしれないけれど、それで相手を攻撃できるかと聞かれると……難しい、かな。

 今更ながらに両親のチートっぷりに震えていると、「それはそうと、少しご相談があるのですが」とロルフに遠慮がちに話しかけられた。


「先ほどの薫り消しの魔道具ですが、お貸しいただくことは可能でしょうか?」

「さっき騎士団長様にお見せしましたが……?」


 効果をお互いに確かめた後でなんの為に使う必要があるんだろう。首を傾げると苦笑された。


「つけ続けた効果の持続を自分の身で確かめてみたいと思ったのですが……ずっと使われているのでしたね。無理を言いました」

「いえ、そんなことはありません!……そうですね」


 今外すわけにはいかないし、試供品という形で新しく作ろう。今回はロルフに貸して、使い心地を確かめてもらう。二つ作るのも三つ作るのも同じだ。


「ありがとうございます」

「いえ、もし使っている最中に効果がなくなったりしたら教えて下さいね」


 そんなことは起こらないだろうけど、色んな意見がもらえたら参考になるし。



読了ありがとうございます。


次話は早速それぞれの魔道具作りです。

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