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黄昏の愛し子  作者: 蛍火花
第一章
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報告と忠告

少し短めです。

「……で、お断りをしたのね本人に」

「はい、お話をして、どうも私とは価値観が違うと思いましたので……勝手にお返事をしてしまってごめんなさい。でも、やけに返事を急がせてきて焦っているようで嫌だったんです」


 嘘じゃない。会って数分で婚約を進めてくれと急かされたし、少なくとも初めから義理の親となるお父様のことも馬鹿にしている風だったし。それが彼らの常識と言われてしまえばそれで終わりだけど、少なくとも私はそういう人と一緒にはなりたくない。


 お父様についての話をした後、数日ぶりに顔を合わせたお母様に一通りの報告をした。

 私の不注意で外で顔を合わせてしまったこと、少し言葉を交わしたけれど合わないと思い、勝手だとは思ったけれどお断りをしてしまったこと、話の流れで私が兄様に魔法や魔道具のことについて教わっていると口にしてしまったこと等。

 三少年がお母様と兄様について言ったことは胸に仕舞ってある。自分で説明の為とは言え、もう一度口にするのも嫌だ。


 お母様は苦笑しながら最後まで聞いてくれて「今度からお断りをするときはこちらからするから、ロゼスタは動かない方がいいわ」と注意された。

 比較的魔力のある子が生まれる確率が多いフローツェア国でも、際立って強い子はやはり早い段階で縁組みが殺到するとお母様。それはまさしく経験談ですね。

 そして私はお母様とディーのことと先日の──ダールズさんが触れ回ってくれたおかげ──で、一気に申し出が増えているそうな。


「言い方は悪いけれど、今回選ぶ権利はこちらが握っていますからね。でもそれをいちいち相手に伝えていたら角が立つでしょう。貴女も他の申込みの方全員に断りを入れることになるわよ。直接会ってもらえたもらえなかったと、あちらもつつこうと思えばいくらでもつついてきますからね」

「はい……」


 あと、贈り物に関してはなんと断らないのが原則だとか。びっくり。


「相手に気に入られるよう手土産や贈り物をするのはマナーの一つよ。それを一切受け取らないと言い切ったのはちょっと過激だったかもね」


 なんと。

 それこそ相手の気持ちだから笑って受け取っておけばいいとお母様に諭された。うーん、もらいっぱなしは落ち着かないし、お返しをしないといけないと感じるのは私だけなんだろうか。あんまりもらうばかりだとかえって重く感じて負担なんだけど。

 まずは会うまでに気に入られる贈り物を繰り返し送り、そこから会える者とそうでない者とが出てくるということは、贈り物が登竜門? 賄賂か。

 そこから考えると三少年と顔を合わせたのはやはり早すぎる、というのがお母様の感じたことらしい。……え、もっと貢がせておけば良かったってことですか。


「チャンスだとも思ったんでしょうね。そのまま貴女が私に話をもってきたら婚約成立していたかもしれないわよ?」

「勘弁して下さい……」

「冗談よ、妙に足並みを揃えて申し出をしてきたところに、大事な娘を出すものですか」

「というかお母様、もし贈り物を送られ続けても一度も顔を合わせない、なんてことはないんですか?」

「よくあるわよ」


 あるんだ。あっさり返され「私がそうだもの」と肩を竦められた。


「贈られてきたものはあくまであちらの誠意、気持ちという扱いなの。でもその気のない人に送られても会う気になれないときや、既に相手が決まっていることもあるでしょう? そういうときに初めて贈り物自体をお断りするのよ」

「あー、私がお断りするのが早すぎたというのはそういう意味ですか……」


 貴族同士の結婚だ。価値観云々はあまり関係ないか。


「反対にずっと物だけを受け取って何年も反応を返さないのもよくないの。今回のことに関しては私の方から手紙を送っておくわ。贈り物云々は置いておいて突然押し掛けるなんてあちらも強引でしたからね。……まだ貴女には早いと言っていたのに」


 反応をしないで何年ももらい続けるなんて……そんな猛者がいたのか。すごい心臓の持ち主だ。とても真似できそうにもない。反対に贈り続けた方もすごい。

「気持ちをもう受け取ってもらえないのですか」と言っていたダレン少年の言葉がそのまま正解だったのか。勿体ないと思ってしまう私とは価値観が天と地ほどに違う。


「そう言えば、その子たちの薫りのこと、どう思ったの?」


 ちらりとこちらを見ながらのお母様に、はっと我に返る。もう思い出せもしない彼らの薫りを聞かれても、答えは決まっている。


「三人まとめても薄くて……よく印象に残っていません」


 お母様や兄様の薫りに慣れてしまったせいか、他の人でいい薫りだと思った人はいない。ちなみにダールズ卿は除く。

 きっぱりと言い切った私の言葉に何度か頷いたお母様は、姿勢を直すと凛とした視線で私を見つめてきた。


「でも、あのくらいの年齢なら彼らの薫りの強さが本来は普通なのよ? ……覚えておきなさいね。貴女の魔力は多分他の人とは桁違い。群がってくる人も多くいれば、反面煙たがる人も出てくるってことを」


 なんと。三人まとめてもよくわからなかった薄い薫りが標準だとしたら……オルガ曰く強い蜂蜜の薫りの私はどうなる。


 ぽかーんと開いた口をつつかれ、慌てて閉じる。

 群がってくるというのは想像がつくけれど、煙たがるっていうのは……反感を買うってことなんだろうか? あとは嫉妬?

 正直なところ、この屋敷以外の人を私は知らない。この間ようやく街へは降りたけれど、それだって兄様と一緒でほんの少し見てきただけ。

 どういった人がいるのか……、どうも家族以外で私が会った人たちは私を利用しようとする気なのを隠そうともしない人たちでげんなりしてしまう。せめてもうちょっとオブラートに包んでくれないものか……あ、その人の底が見えた時点で嫌になるかな。


「私は、どうしたら……」

「いつも、周りの人間をよく見なさい。信頼できるかどうか……もちろん私も注意するけれど、貴女自身で判断しなければいけない時もあるから」


 三少年と会ったと話した直後にこう話してくれる、ということは……? お母様の言葉を何度も咀嚼して、ピンと来た。


「誰かから何か言われているんですか?」

「……誰とは言わないけれど、先日の三人の子でもう一度お会いしたいって」

「お断りして下さい」


 懲りてないのか。

 据わった目で即答すると苦笑された。

 信頼云々を口にしたということは、お母様は三少年の誰かに対して好感を持った誰かがいる……?

 数日前の彼らの言動を思い返す。人の親のことを例に「物笑いの種になる」と口を滑らせた子、にこやかに笑って、でもちっとも笑えない失礼な勘繰りをしていた子、おろおろと顔色を窺ってばかりで保身に走った子──うん、ないな。


 年齢を考慮してももう一度会いたいと思う子たちではなかった。

 あれから贈り物攻撃その他お茶会等への招待状が来なくなったかと言えばそんなことはない。が、例の三人の少年たちからは何もなくなったと聞いてほっと一息をついたところだ。

 それでも来る数がそう減ったと思えないのは何故だ。むしろ増えてる……? いやいやまさか。


 魔道具を作っているという宣言が、あわよくば他の人たちにも伝わればと思っていたが、甘かったらしい。

 格下に見ている相手国の産出品に手を出す変わり者、とわざわざ教えてあげたのに。──まさかあの子たちが話していないなんてことはないでしょうね。


 いくら陛下からお声がかかっているからとはいえ、根強い偏見と軽視はそう簡単にはなくならない。

 でも表だってそれを口にするのは不敬に当たると指摘したから、相手も簡単には尻尾を出さないようにする、はず。


 ……私が信頼できる人って、この屋敷の人以外にできるのかな?



読了ありがとうございます。

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