メリーさんはお笑いネタから脱却したい
『もしもし、私メリー。お笑いネタにされて困っているの。』
その唐突な電話に、俺はなんと答えていいかはっきり言って迷った。なぜならば俺はメリーなどという少女…声からの推測だが…など知らないし、言っている事の意味を理解できなかったからだ。
『もしもし、私メリー。お兄さんはメリーの電話は知らないの?』
知らないので、とりあえずネットで検索してみる。
……とりあえず都市伝説は判ったし、お笑いネタにされていると言っていた理由もわかった。
迷ったり、壁の中だったり、ロリコンに襲われたり…怖い物知らずなネタが多いよな…うん。
『もしもし、私メリー。怖がられるにはどうしたらいいと思うの?』
都市伝説から相談を受けるとは奇怪な体験だな。まあ、暇だし考えてみるか…。
う~む…ホラー映画でも見て参考にしたらどうかな?
『もしもし、私メリー。これからビデオレンタルに行ってくるの。』
その日はそれ以降、メリーさんからの電話は無かった。今頃、ホラー映画を見て研究しているころだろう。
次は、背後にあるテレビからズルズル這い出したりしてな。
まあ突然の縁だけど、少し相談に乗ったことで情が移った。彼女には頑張って都市伝説の本分を取り戻してほしいと思う。
◇
『もしもし、私メリー。今、角のポスト前にいるの。』
二日後、再びメリーさんからの電話が来た。
今回は俺の反応を見ることもなく、言いたいことだけ言って切った感じではあったが、内容としてはお約束の内容だった。
さて、どういう風に学んだか少々楽しみである。
『もしもし、私メリー。今、スポーツ用品店にいるの。』
…おや?この付近のスポーツ用品店ってどこだ?
隣町だったと思ったが…遠ざかっていないか?
『もしもし、私メリー。今、ホームセンターにいるの。』
おいおい、一番近いホームセンターでも駅三つは離れてるぞ。
一体どこへ向かっているんだメリーさん。
このままでは、迷走して「ここは何処なの?」と泣きながら電話するオチになっちゃうぞ。
『もしもし、私メリー。今、ドアの前にいるの。』
ブッ!?
とんだーっ!?一気にきたーっ!?
徐々に迫りくる恐怖がすっぽり抜けたぞ、おい!
ふむ…なんだか、メリーさんの行動がおかしい…フェイントか!フェイントなんだな!?
でも、こういうフェイントの仕方って…参考にしたのは何の映画だ?
『もしもし、私メリー。今、あなたの後ろにいるの。』
おっと…最後のオチか…どう来るかな。
って、ここまで来て恐れていない俺も大概だが。
ブルルン!ドッドッドッドッドッドッドッドッ…
背後で突然発生したエンジン音に驚き振り返ると、ホッケーマスクで顔を隠した金髪幼女が回転するチェーンソーを振りかぶり、そして………。
◇
「もしもし、私メリー。やっといて言うのもなんだけど、これは何か違ってると思うの。」
俺の目の前で、金髪の幼女は元気なくうなだれていた。
確かにアレは怖いというより、危ないという感じだった。
チェーンソーの重さに耐えかね、振り上げそのまま仰向けに倒れたのは胆を冷やした。
「非力なのに力のいる行為は危険だから。大体メリーさんの元は人形なんだから、チャイルドプレイのチャッキーみたくナイフ片手に襲ったほうがいいんじゃない?」
「もしもし、私メリー。アレはゴキ…みたいな動きで嫌なの。」
「じゃあ、電話繋がりで死亡予告を通知するとか?」
「もしもし、私メリー。それは既にメリーじゃないの。」
「でもさ……今のこの状態も『お笑いネタ』ってヤツじゃね?」
「………。」
愕然とするメリーさんに、俺はホット・ミルクの入ったマグカップをそっと差し出した。
メリーさんがお笑いから脱却する日は遠い…気がする。
突発的な思いつきで書きました。
最初はスプラッタなオチの予定だったんだけどなぁ…。