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 昨日はあれからバッカス以外の来客はなく売上は三〇〇〇オーラムで純利益はたったの三〇〇オーラムだった。


 借金返済まで残り二九九九七〇〇オーラム。


 とてもじゃないが今のペースでは三カ月で借金を返済することはできない。


 早々に何か打開策を打たないといけない状況で今日も今日とて早起きをしたアッシュは店の前を掃除していた。


 時刻は夜が明け太陽が昇り始めた頃。深呼吸をすれば澄んだ空気が肺一杯に満たされる気持ちのいい朝。


 アッシュに負けじと早起きをしたルチアが店の中の掃除はルチアがやると言うのでアッシュは店の前を掃除することにした。


「……ん?」


 店の前を箒で掃いていると店の裏にあるゴミ捨て場の方から何やら物音が聞こえてきた。


 物音が気になったアッシュはゴミ捨て場へと周る。


 アッシュがゴミ捨て場にやってくるとそこにはゴミ捨て場を漁る子供の姿があった。まだ一〇にも満たない子供がゴミ捨て場を漁っていた――いやよく見れば漁っているのではなく散らかしているといった方が正解だろうか。


 浮浪児が食べる者を求めてゴミを漁るのはわかるが散らかすという行為が気になったアッシュは声をかけてみる。


「おい」


「……っ!」


 声をかけられた子供はビクッと怯えるとアッシュのいる方角とは反対の方角へと慌てて逃げ出した。その際に近くに会ったゴミ箱にぶつかりゴミの中身を盛大にぶちまけていくが子供は止まることなくそのまま逃げ出していった。


 その場に残されたのは散らかったゴミのみ。


 アッシュはそのままにしておくわけにはいかずそれを仕方なく掃除することにする。


「昨日もゴミ捨て場を荒らされていたが何かあるのか……」


 アッシュが昨日に引き続き今日もゴミ捨て場を荒らされたことに疑問に思っていると、さっきの子供がゴミ箱にぶつかった音を聞いたルチアがゴミ捨て場にやってきた。


「なんかさっきすごい音がしたけど何かあったのー?」


「ピー?」


 ルチアの肩に乗ったスライムのスーも同じように心配そうに訊ねてくる。


 そして二人はゴミ捨て場の惨状を見て辟易とする。


「あーまたゴミが散らかってるねー。最近毎日やられるんだよねー? たちの悪いカラスかなー」


「ピーピー」


「カラスか。確かに結構デカいカラスだったな」


「やっぱそうなんだ! もー困っちゃうよね」


 プクーッと頬っぺたを膨らませて不満をあらわにするルチア。この様子を見る限りルチアは子供が散らかしたとわかっていないようだ。


「そうだな。今後も出てくるようなら対策をたてないとな」


「だねだね」


「ピピーピー」


「えっ? それならあたしの料理を置いておけばいい? モーそんなこと言うとスーちゃんにも食べされるよ」


「ピー!」


「あっ、スーちゃんどこに行くの」


 ルチアの料理を食べされられると思ったスーは一目散に店内へと逃げて行った。


「もう、みんなあたしの料理をなんだと思ってるのよ」


 ルチアは腕を組みさっき以上に不満そうにぼやく。


「そうだルチア。今日は少し街の方を散策してきていいか?」


「えっ……あー、まーけてぃんぐってやつだね」


「幸い昨日は客が一人だったから仕入れも仕込みも必要ないからな」


「それは幸いじゃなくて不幸なんだけどね」


「物は考えようだ。ここ最近ぱったり客が来なくなった理由も知りたいし原因がわからないと対処のしようがない」


「そっか……じゃああたしも一緒にいった方がいいかな?」


「いや、ルチアは店にいてくれ。……なんなら料理を作っていてもいい。それぐらいなら俺が処理する」


「やった! 処理するって言い方に不満はあるけど食べてくれるって言うのなら頑張っちゃうよ」


 料理を奮えることが出来ると思いルチアは嬉しそうな表情を浮かべる。


 それからゴミ捨て場の掃除を終えたアッシュは意気揚々とするルチアに見送られて街を散策することにした。


 まずアッシュが最初に向かったのは冒険者ギルドだ。街の情報を探るのなら冒険者ギルドか商業ギルドが一番なので今回は店から近い冒険者ギルドへ先に向かう。


 冒険者ギルドはルチアの店から歩いて一〇分ほどのところにある。


 改めて考えるとルチアの店の立地条件はいい。冒険者ギルドの近くにあり敷地は大通りに面している上に街の中心部よりに位置しているため利便性はいいだろう。おそらく冒険者をやっていたルチアの両親はそれを見込んであの場所で店を始めたのかもしれない。


 それなのに店に客がこないのは明らかに異常だ。いくらルチアの料理が不味くても常に街にいる街の住人ならともかく冒険者の客なら味のことなど知らずにフラッと入ってきてもいいはずだ。明らかに閑散としていて逆に入りにくかったという可能性もあるがアッシュはどことなくさけられているように感じられた。おまけに二階には宿泊施設もあるのに宿泊しようとする冒険者もいない。


「となると作為的なものが関係しているのか」


 そんな憶測をたてるアッシュ。


 だがそれが何のためになぜそんなことをやるのかわからない。なので今日の散策でが少しでも手掛かりでも掴めたらいいと考えながら歩いているとアッシュは冒険者ギルドを見つける。


 冒険者ギルドはどこの街でもどこが冒険者ギルドなのかわかるように入り口に冒険者が信仰する神であり勇敢さと自由の象徴である獅子と猛禽類を足したグリュフォリスのエンブレムが飾られているので一目でわかる。


 この街の冒険者ギルドはそれなりの立派な佇まいで三階建ての会館だった。


「ここがこの街の冒険者ギルドか」


 アッシュは常に開けっ放しになっている会館の入り口から中に入る。


 広いギルド会館の中はそこそこの人で賑わっていたように思えるが、他の街の冒険者ギルドと比べるとかなり少ないと言っても良かった。


 大抵の冒険者ギルドの朝は職を求めた人でごった返す。


 なぜなら冒険者ギルドは日雇いの仕事を斡旋しているのだ。各地を転々とする冒険者としてはこういった日雇いの仕事を引き受けてその日の稼ぎを稼ぐ者もいる。もちろん冒険者だけでなく職を探しに来た浮浪者や浮浪児がその日を過ごすだけの金を求めてやってくることも多い。そのためこの街の冒険者ギルドの依頼ボードには街の清掃や近隣モンスターの駆除から採取依頼など多岐にわたるものがあるのだ。もちろん一般人が危険な依頼を受けないために冒険者はランク分けされている。既定のランクを満たしていないと依頼を受けられないようにしている。


 ともあれ朝はそういった人達で賑わいを見せるのが冒険者ギルドだというのにやけに人が少ないのだ。それもいるのは飲んだくれやチンピラみたいななりをした冒険者だけ。


 そのことからアッシュはこの街の冒険者ギルドはダメな部類に入るのだと推測する。


 冒険者ギルドはどこの街にもあるが街によって特色がありいい冒険者ギルドと悪い冒険者ギルドがある。それも全てギルドを運営する人間の裁量によって変わるのだ。もちろんそうならないための措置として冒険者ギルドの本部の人間が視察に来るのだがこういった田舎の地方都市だと視察に来るのが数年に一度なのでどうしてもおざなりになりがちなのだ。ヘタをしたら本部の人間が手を抜いたり金をもらって黙っていたりすることもある。


 そんな判断を下しながらアッシュはギルドの入り口近くに置かれている掲示板を見る。


 冒険者は各地を転々とする者が多いためその街のルールなどを部外者でもすぐに知るためにその掲示板に明記してあるのだ。


 街のルールを知らずに犯してしまうと罰則もあるため初めて街に来た冒険者は冒険者ギルドで掲示板に書かれた注意事項を読む必要がある。同じように商業ギルドにも商売をする上での注意事項が掲示板に掲げられている。そのため冒険者の識字率は意外と高い。


 そうはいっても最初に書かれている注意事項の内容などは他の街で大きく違うことはないので大抵の住人とトラブルを起こさないようにだとか殺人や強盗などはするなと言った当たり前のことが書かれている。なので下の方に行けば行くほどその街の特色が見えてくる。


「……これは何だ?」


 注意事項を読んでいると下の辺りに『トーアク商会には逆らわないこと』ということが書かれていた。色んな街の冒険者ギルドを見てきたアッシュだったがこういった文言は初めてだ。街によっては危険人物がいるために注意しろと書かれているはあるが逆らわないことというのは珍しいことだった。


「トーアク商会」


 最近どっかで聞いた名前だなと思い記憶を探るアッシュ。


「……そういえばルチアの父親が借金をしていた商会だな」


 その商会がどんな商会なのか気に合ったアッシュは後で調べておこうと考える。


 そしてさらに注意事項を読んでいると『獣人の店にはいかないこと』と最後のところで書かれていた。


 獣人の店というのはルチアの店のことだろうか。獣人差別が世の中にないことはないが冒険者ギルドが進んで差別するようなことを発信するというのは珍しい。


 だったらそれ以外に意図があるのだろうか……。


「ん?」


 考えを巡らせるアッシュだったが視界の隅に見たことのある人物を見つけるとその人物の元へと向かった。


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