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 お昼を過ぎた時刻に連日満席になるルチアの店を見て憤る人物がいた。


「くそっ! どうなってやがる。何であの店に客が入っているんだよ!」


 巨体を震わせ喚き散らすのはダイモスだ。


 予定では今頃ルチアの店は閑古鳥が鳴いているはずだった。それがなぜか店内からは賑やかな話し声が聞こえてくるほどに賑わっている。


 ダイモスには理解できなかった。


 どうしてルチアの店に客が来るのだろうか?


 トーアク商会の会長であるルギメデスの命令で冒険者も職人もあの店には立ち入れないように厳命してあったはずだ。それに付随してこの商業街に住む人間も関わることを避けて寄り付くことはなかった。


 ほっといても潰れる店だったが以前に父親の病気に付け込んで薬代の借金を負わせた時に返済した件もあるから念には念を入れて下準備をしていた。


 だというのになぜあの獣人の小娘の店に客がやってくるのだ。


「それに加えて商業街の連中も何を考えてやがる!」


 おまけに最近では商業街の連中も昼食を取るためにあの店を利用しているからダイモスは余計に苛立っていた。


 このままではマズイ。ルチアの借金返済まで残り一ヶ月半。もし本当にルチアが借金を返済することが出来てしまったら自分はルギメデスに殺される。


 いや、もしかしたら三〇〇万オーラムがまるっと手に入るのだから悪くはないのか。


 ダイモスはそう淡い期待をするがすぐに否定する。


 都市長であるルギメデス・トーアクが今計画している計画にマッチしたあの場所をルギメデスがそう簡単にあきらめるとは思えない。あんな獣みたいな図体をしている割にそういったことは細かいのだ。それにまた一から場所の選定をしている時間などないのだから。


 なによりこれだけの準備をしておいて失敗したなんて許されるはずがない。


「ちっ! トーアク商会が恐くねえのかよ!」


 今までトーアク商会の力にビビッて逆らってこなかった連中が急に逆らうなんてどういうことなのだと憤る。


 すると子分の一人が言う。


「仕方がないんじゃないですかアニキ。あそこの店が連日賑わっているのは事実ですし。商売に力を入れているこの商業街の住人が注目しないっていうのがそもそも無理ってもんですぜ。無理に抑制なんてして反発が起きたら元も子もないでやすし」


「うるせえな! わーってるよ!」


「いやいや、兄貴はわかってないですよ。こうなる前に兄貴が行動していたらこうなってなかったですよ。あっしらはあの獣人の店が今話題になっているって教えたじゃないですか。それなのに兄貴は最後の悪あがきだって言って一笑に付したじゃないですか。だからあっしらは関係ないですからね」


「そうですぜ、あっしらは関係ないですから」


「全部兄貴が悪いんですから」


 ルギメデスの怒りを買うことを恐れた子分達はあっさりダイモスを見限る。


 自分に全ての責任を押し付けようとする態度にダイモスも声を荒げる。


「テメェら! どの口が言いやがる! テメェらだって酒場のくせに酒じゃなくて茶だかって言うよくわからんねーもんやり出しやがってとか言って笑ってただろうが!」


「そ、それは……」


「テメェらだけ助かろうなんて思うなよ。俺達は一心同体だ。自分達だけ助かろうなんて思わねーことだな。文句を言うやつは俺様がここで始末してやるからよ」


 そう言いダイモスは殺気を漲らせる。さっきまでルギメデスを恐れていたとは思えないほどの迫力だ。一方子分達は殺気を放つダイモスに震え上がる。


 ダイモスはC級に近いD級冒険者で自分達はE級冒険者だ。ランクの差というのは実力の差だ。子分達では複数で襲い掛かっても敵うわけがない。


「わかったんならあの店に襲撃を仕掛けてこい。こうなったら力尽くで客をおっぱらうしかねえ! 少し痛い目にあえば客も寄り付かなくなるだろうよ」


「いやいや! さすがにそれはまずいですぜ。今あそこには自警団がいるんですからそんなことしたらあっしらが返いうちに合うのが関の山ですぜ。なんたってあの自警団にはC級冒険者と互角に渡り合えるって噂のエルフのセシリアがいるんですから。おまけにあの店は元とはいえC級冒険者のバッカスが目にかけているんですからヘタに手を出したら危険だって言ったのは兄貴じゃないですか」


「ちっ! つかえねーな」


 自分のことを棚に上げて子分を見下すダイモス。


「だったら親分が一人で行ってくださいよ」


「んだと! いや待てよ……そうだ」


 ダイモスは何やら名案を思い付いたようでニヤリと口角をあげる。


「おいお前ら! 今すぐあの店の仕入れ先を調べてこい」


「仕入れ先でやすか? そんなもの調べてどうするんですか」


「このとんまがっ! やつらの店に物を卸さないようにさせるに決まってんだろうが。物がなけりゃどうにもなんねーだろうがよ。それぐらいトーアク商会の名前を出せば仕入れ先も喜んで首を縦に振ってくれるだろうよ」


 客が行くのを止められないのなら行く理由をなくせばいい。そのためにあの店が使っている仕入れ業者を調べ上げトーアク商会の名で脅す。


 我ながら名案だと自賛するダイモス。


「さすが兄貴!」


「さすがっす!」


「最高です!」


 それなら自分達の労力が少ないことに安堵した子分達は太鼓を叩く。


「当然だ。わかったらさっさといけ!」


「へい!」


 意気揚々に駆け出す子分達。


 だがその作戦は失敗に終わる。


 ダイモスが仕入れ業者を調べ上げトーアク商会の名で脅しをしてから一週間が経った。本当なら今頃閑古鳥が鳴いているはずの店は相も変わらず客でにぎわっていた。


「何でだ! 何であの店は普通に営業してるんだよ!」


 確実にあの店への仕入れはストップさせた。始めは渋った相手もトーアク商会の名前を出したら素直に従った。トーアク商会に逆らって消えていった商人は少なくない。


 実際にアッシュ達が仕入れ業者のところに行った時はもう取引をしないと門前払いをされたほどだ。


 ダイモスもそれをこっそり見ていたからそれは間違いない。


 それから一週間経ったのだ。本来なら今頃物がなくて困っているはずなのだ。それなのにあの店は普通に営業をしているし普通に客も入っている。それどころか日に日に客の数も増えて行っている。


「くそったれ! こうなったらあの煎茶だかってやつを真似しろ! あの店よりの半分の値段で売れば客がこっちに流れるだろうよ」


 やけになったダイモスは子分達にそう指示を出すが、子分達はそんなことを急に言われても困る。


「真似るったってどうやって真似ればいいすか? あっしらはあの茶ってやつの作り方なんて知り方はおろか材料が何かも知らないんですぜ」


「……くっ! こうなったら直接乗り込むしかねーか」


「えっ? まさかカチコミに行くんすか」


 打つ手がなくなってついに強硬手段に出るのかと子分達は驚く。


「バカがっ! んなことしたら自警団に捕まるだろうが。店に行ってクレームをたっぷりつけてやるんだよ。そうすりゃあやつらもヘタに手出しは出来ないだろうよ。俺達だって客だからな」


「なんか狡いっすね」


「うっせーな! あいつら商売人にとっちゃ客は神様なんだから何をしようが勝手だボケっ!」


「へ、へい」


 善は急げと言わんばかりにダイモスは店内へと足を運ぶ。


書け次第続きをすぐに投稿します。

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