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サボタージュ禁止令

作者: 東京多摩

 白く巨大な工場で、何百人といる従業員が作る輪の中心に一人の男とジャージ姿の少女がいた。

 男は形容するならば冴えない中年男性であり、それ以外の言葉が当てはまらない男であった。

 そんな男が、冷や汗をかき、真に迫る形相で何度も何度も少女に頭を下げていた。

 少女は何も言わず、ただ半開きの目で男を直視しているだけであった。

 やがて男はコメツキムシの様に土下座を始めた。

 何度も何度も頭を上げ下げする動作は、まるで重りの偏った起き上がりこぼしのようであった。

 やがて、少女は目を閉じ、小さくため息をついた。


「じゃあね。ばいばい」


 少女はぼそぼそと口を動かすと、ジャージのポケットから四角いゲーム機サイズの本体に、ちょこんとついた赤いボタンを押した。

 それまで必死に命乞いをしていた、冴えない中年男の土下座する白い床が開き、絶叫と共に落ちてゆく中年を飲み込んだ。

 ゆっくりとモーター音を響かせ、床が元に戻っていく。

 しんと静まり返った工場の、遥か方にある天上のスピーカーから音が鳴り響く。


「あー、親愛なる労働者諸君、彼の事は大変気の毒であった。しかし、彼は我が国の最も忌避すべき大罪、サボタージュを起こしてしまった。さあ、彼の事を教訓に、勤労にすぐに励みたまえ!」


 蜘蛛の子を散らすように労働者たちは各々の持ち場に戻っていった。

 工場の中心には少女がただ立っているだけであった。

 やがて、手にしたボタンをポケットにまた戻すと、専用の通路の扉を開け、工場から姿を消したのであった。




 共産国ニッポン。

 その有触れた光景である。

 豊かになるためと教えられ、あくなき勤労に励む労働者。

 彼らにはサボタージュという選択肢はないのであった。

 彼らは、休むことなく、その体が壊れるまで延々と働き続ける。

 そう、資本主義が台頭していた時代と、全く同じように。

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― 新着の感想 ―
[一言] 革命じゃ、いまこそ革命を起こすときぞ! 結果は見えてるけど・・・
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