涼子の問題発言
そう、オレは涼子の反応を待っていた。きっとオレと同じくらい驚き、とんでもないと叫ぶに違いないと思っていた。
しかし、《オレの体》の涼子は、ちょっときょとんとしただけで何も言わなかった。
なんだ、なんだ。気にくわないぞ。
オレはもう一度繰り返して言った。
「あの旦那はな、奥さんの体に入った時、自分の体に襲われたんだぞ。その気もないのにだ」
「ん、まあ、自分の体って思えば抵抗ないわけじゃないけど、どうせ夫婦でしょ」
「えっ」
オレには涼子の言葉が信じられなかった。どうせ、夫婦だってぇ。
「ばかやろうっ。お前は男の気持ちがわかってないなっ」
そう叫んでいた。涼子の体で。
「なによ、それっ」
「あの人はなっ、その気もないのに自分の体に襲われたんだ。それが男にとってどんな恐怖か、お前にはわからないのかっ」
「襲われたっていっても夫婦じゃないの」
《オレの顔》が覚めた感じでぽつりと言った。それがまた、怒りをかった。
「いくら夫婦でもその気もないのに、無理やりしてもいいのかっ。現に旦那さんはあの時の恐怖でトラウマになってんだぞ。自分の体だぞっ。冗談じゃないっ」
「あっそっ」
くっそ~。オレの体がそんな反応をすることが許せなかった。この話題は自分の体に戻ってからするべきだったと後悔する。
「あっそって、そんなに軽いもんか。これは重大な問題だ」
オレが一人で興奮していた。そう、涼子の反応がなさすぎるから、余計にそうならずにはいられなかった。
「無理やりってどの程度の無理やりなのかな」
「え、どの程度?」
そんなことに程度が関係するのか。無理やりは無理やりだろう。
「あのね、いつの世も女性は受け身なのよ。男性の欲情に、こっちも合わせてるわけ。時にはそういう気持ちが全然合わないことがあるんだけど」
なんだ、それは。どういうことだ。
オレはその言葉の意味を考えるために、黙った。
「女性にその気がなくても仕方なく、応じていることも多々あるってこと」
ガーンと、まるでマンガの世界のようにショックを受けた。
そりゃ、聞きたくなかった台詞。こっちがその気になっていても向こうが拒否することはあった。けど、強引にモーションをかけていると・・・・向こうもその気になっていたのだとばかり思っていた。それがしかたなくだったとは思ってもみなかった。
《オレの体》の涼子は、少し言い過ぎたと思ったらしい。
「私は、いやだったらはっきり言ってるでしょ」
「うん、でもあまりにもはっきり言われても傷つく」
「曖昧に、嫌だっていってもわからないくせに」
そう言われると確かにそうだ。女性がやんわりと嫌だって言ってもそれが本気なのかわかりかねる。いやよ、いやよも好きの内ということ。
涼子が立ち上がり、食べ終えた皿を片づける。
オレはその背中に言った。
「なあ・・・・・・オレは、自分の体に絶対、襲われたくない。オレにはわかる。中野さんの気持ちが」
「わかった。あなたの体に入っているときは襲わない、約束する。それでいいんでしょ」
「うん」
オレ達夫婦が、入れ替わるのはお互いの体に入っての利点があるからだ。今は涼子の体を休めるため。そして思いもよらなかった男性の立場、女性の立場というものも少しづつだが、目の当たりにしていた。




