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第6話

 俺は…俺たちはどこで間違えたんだ?あれから考えたが、やはり俺が女になってしまったからか?見た目は女だけど、元は男で心的には男のままだ。自分でもそう思っていたし、当然兄貴もそのように思っていると思い込んでいた。でも、違っていたんだな。兄貴は俺を弟ではなく妹でもなく、一人の女と見ていた。それがいつからかはわからない。でも、いまになって思えば思い当たる節はいくつかある。なんで、あの時気づかなかったんだ。鏡で自分の顔を見る。自分で自分をかわいいとか思うのはアホらしいと思ってあえて意識しないようにしてきたが、なるほど確かに皆が持ち上げるぐらいの事はある。俺が男のままでこんな少女と出会ったらサインを求めるかもしれない。


「美しさは罪か……」

 アホ言ってる場合ではない。俺はこれからどんな顔で兄貴と接したらいいんだ?思い切って問い詰めるか?もう二度としない事を条件に笑って済ませる。しかし、逆に理性を失わせて暴走させる危険もある。妹を犯した、兄に犯されたなんて二人とも社会的に抹殺されるだけだ。やはり、何事も無かったかのように振舞うしかないか。


コンコン

 ドアがノックされた。兄貴だ。


「気分はどうだ?学校行けそうか?」

「ううん」

「そうか、学校には伝えておくから。朝飯は作ってあるからちゃんと食べろよ」

「わかった……」

 兄貴が家を出るのを確認すると、俺は食堂に行って朝食を食べる事にした。


「いただきます」

 とは言うものの食が進まない。あの兄貴が作ったというだけで体が拒否するのだ。でも、朝食はちゃんと取らないと。そう思い、口に無理矢理放り込む。駄目だ。二、三口はなんとか呑み込めたが、これを作ってるのと同じ手が俺のパンツを握りしめて…と思うと喰う気が失せるのだ。これはダメだと思い、朝食はあきらめる事にした。でも、ずっとこのままではいけないと思うし、夕飯の問題もある。ずっと食べないわけにもいかない。どうしたものか…。


「そうだ、俺が作ればいいんだ」

 こう見えても中学校での家庭科の成績は良い方だった。よし、この作戦で行こう。


 ZNZNZNZN


 晩飯ができた頃に兄貴が帰ってきた。食卓にすでに食事が並べられている事に驚きが隠せない様子。


「どうしたんだよ?これ」

「作ってみた」

「作ってみたって。一体、どうしたんだよ?」

「これぐらいはさせてくれよ」

「う、うん…いいのか?」

  なおも半信半疑のようだ。


「俺は大丈夫だから」

「まあ、手伝ってくれるのは嬉しいけど…うん、うまい」

 口にあって何よりだ。


「これからは食事は俺が作るよ」

「えっ?いきなりどういう風の吹き回しだ?」

「もう嫌なんだよ。なんでもかんでも兄貴に任せるってのが」

「お前……」

「全部兄貴が背負い込む事ないんだからさ」

「……そうだな」

 よし、なんとか丸め込んだ。これで食事の問題はクリアだ。俺も食事を始める。ふむ、まあまあといったところか。さて、食事も終わったことだし、食器を片づけるか。


「いや、それは俺がやっとく。お前は風呂に入って早く休め」

 そう?なら頼む。片付けは兄貴にやらせても特段支障はなかろう。では、風呂に入ろ……あっ、俺は重大な見落としに気付いた。風呂に入るとなると当然服を脱ぐ。言うまでもなく下着も。脱いだ服は兄貴が洗濯する。奴はこれで俺の下着をこっそり部屋に持ち込んでいたんだ。


「そうだ、洗濯も俺がするよ」

 だとしたら元から根絶しないと。


「いや、それは俺がやる。結構、大変なんだぞ。洗濯物を物干しに干すってのは」

「平気さ。それぐらいはできる」

「駄目だ。お前には負担が大きすぎる」

「そんな事ないよ。二人分しかないんだからそんなに負担にはならないよ」

「駄目はものはダメだ。洗濯は俺がする。お前は体を養生させることだけを考えろ」

 やけに食い下がるな。だが、俺も負けられない。


「ずっと寝たきりの方が体に悪いよ」

 これから兄貴の夜のオカズにされていると思ったら気になってパンツなんか穿けないぜベイビー。いや、もしかするとブラも……。双方の議論は平行線をたどり、あくまで頑なな俺についに兄貴が声を荒げた。


「ダメだって言ってんだろ!」

 しばしの静寂が流れる。温厚な兄貴が声を荒げたのは初めてだ。こういう場合、何も知らない他人が見たら、兄貴の好意を無にする俺が悪い事になるのか?俺は認めないね。


「…なんでだよ」

 一般的には俺が謝罪して事が収まるってのが筋だろうが、俺も腹が立ってきた。


「なんでそんなに俺に洗濯させるの嫌がるんだよ」

「それは……」

 怒るほどの事でもない事に感情的になったのが自分でも驚いたのかトーンダウンしている。そう、俺は表向きは兄貴の家事の負担を少しでも減らしてやろうという兄想いの素晴らしい弟だ。仮面を被って自分で自分の胸に7つの傷をつけたなんでこいつが最後まで伝承者争いに残ったか未だに謎な男がブチ切れするくらいできた弟だ。弟じゃなく妹だろって?ちょこざいなツッコミをすると指先ひとつでダウンさせっぞ。


「俺、知ってんだぞ。昨日、見たんだからな。兄貴が俺のパンツで何をしていたかを」

 とうとう、言っちゃった。でも、腹が立っているから言わないと腹の虫がおさまらない。まさか、見られてるとは思わなかったのか、兄貴は見るからに動揺してしまっている。


「最低だよ。俺が元は男だって忘れたのか?そんな奴のパンツをって自分でも気持ち悪いって思わないのか?」

「……」

 兄貴は項垂れたまま何も言ってこない。兄貴だって自分がどんだけ恥ずべき行為をしたかちゃんと認識しているはずだ。今回はほんの出来心だったと思う。人間誰にだって間違いはある。その間違いを繰り返さなければ俺は何も言う事はない。ここまでビシッと言ってやったら兄貴も二度と変質者的行為はしないだろう。


 ZNZNZNZN


 それ以来、俺と兄貴は会話する事も一緒に食事する事も無くなった。よほどショックだったのか兄貴はここんところ何か暗い。ちょっと言い過ぎてしまったのかな。


「ねえ、お兄さんと何かあったの?」

 この日は、あやめが遊びに来ていた。


「別に」

 そう答えるしかない。


「そう…有坂先輩が言ってたんだけど、"最近、はるくん元気ないんだけど、妹さんとケンカしたのかな"って。本当のところどうなの?」

「何もないよ」

「だったらいいんだけど…だって、あなた達ふたりっきりの兄妹なんでしょ?二人力を合わせていかないと」

「わかってるよ。そんぐらい」

 だからこそ、兄貴の俺に対する劣情をまだ蕾のうちに摘んでおかなければならないのだ。


「……」

「どした?」

 あやめが何か言いたいけど言いにくそうな顔をしている。


「あのね…怒らないで聞いてくれるかな?」

 って事は俺が怒りそうな事か。


「…で、何?」

「あのね…私の勝手な想像だよ?」

 いいから言ってみ。


「その…兄妹でなんかいけない事をしているような……」

「いけない事?」

 まさか、兄妹で結託して自宅で大麻を栽培しているとでも言うんじゃないだろうな。


「違うわよ。えっちな事してるんじゃないかって事よ」

 ……。俺は一瞬固まってしまった。いきなり何を言いだすんだろうね、この()ったら。


「どうなの?ねえ、どうなの?」

「ば、バカだな。そんなはずないだろ」

 そう、まだそこまでは行ってない。今のところ兄貴にはまだ理性というブレーキが機能している。


「だって、皆が言ってるんだもん。あんな可愛い妹と一つ屋根の下に二人っきりで暮らしてたら俺だったら我慢できずに押し倒してるって」

 それは男連中だけだろ。


「ううん、女子もだよ。もう抱きしめて顔すりすりしたいぐらいだって」

 なんじゃ、そりゃ。


「と、とにかくだ。そんな心配するような事は無いから」

「本当に?」

「本当だとも」

「そう……」

 残念そうに見えるのは気のせいか。


「残念ね」

 言っちゃったよ。思っててもそういう事は口には出さないもんだろ?いったい、君は我々に何を期待しているのかね?


「りほちゃんが書いている兄妹相姦小説に近い展開かな」

 りほちゃんって柏木理穂の事か?


「うん、彼女ねあなたが初めて学校に来た日から小説を書いてるんだよ。私、読ませてもらってるんだ。ちなみにタイトルはね、とある夏の…」

 はい、ストップ。それ以上言うと君の口を塞がなければならなくなる。それにしても、そのりほちゃんは我々でどんな小説を書いているのか。あやめの説明でだいたいはわかるが。よろしい、一回そのりほちゃんに会わせてもらおう。俺が懇切丁寧に健全な学生というのを叩きこんでやる。


「いいよ。りほちゃんもあんたと一回直に話し合いたいって言ってたから」

 そうなの?それなら話が早い。


「うん、りほちゃんね本人の体を直接調べてどこが性感帯か調べたいって言ってたから喜ぶよ」

 ほえ?


「早速、電話するね」

 待て。携帯を取ろうとするあやめを制止する。りほちゃんとやら、どうやら相当の重傷らしい。


「あやめって、りほちゃんと仲がいいの?」

「うん、小学校から一緒だった」

 そうか…そこまでの付き合いなのにその趣味を止めさせようとはしなかったんだな。


「とにかく、あやめが心配(きたい?)するような事は絶対に無いから」

「もし、何か会ったらすぐに知らせてね。りほちゃん連れてインタビューしたいから」

 ……帰れ。あやめが帰った後、一人考え込む。俺ってそんなに魅力的?自分ではそうは思わないが、他人から見るとそうらしい。サイン求めてくるぐらいだからな。


「……よし話そう」

 まずは対話からだ。話せばわかるはずだ。俺はまだ兄貴の理性と常識を信じていた。だから話し合えば万事すべて丸くおさまるはずで御座候、あっ晴れ。


「兄貴ぃちょっといい?」

 兄貴の部屋をトントンする。


「あ、ああ…」

 入る。とりあえず座る。さて、どう切り出そう。悩んでいると、兄貴がいきなり土下座したぞ。


「すまない、本当にすまなかった。ほんの出来心だったんだ」

「……わかってるよ。俺が確認したいのはもう二度としないかどうかだ」

「……ああ、もうしない」

 即答でないのがちと気になるが、一回公になった以上同じ犯行を繰り返すとは思えない。だとしたら、これ以上の言葉は必要あるまいな。


「顔上げなよ、兄貴」

「俺を許してくれるのか?」

「許す事など何もない」

 そうニコリと笑いかける。これにて一件落着……とはいかなかった。


 ZNZNZNZN


 それから数日して俺の携帯に電話がかかってきた。


「黒川?」

 はて、誰だったか。


「もしもし?」

「あ、すいません。(わたくし)、国立難病研究センターの黒川ですが…」

 国立難病…ああ、思い出した。


「プロローグで思いつきで登場して以後登場する予定は無かった人ですね」

「はい、急遽登場する事になって、"名前なんだっけ?"と、読み返してみたら名前なんてどこにもなくて、名前を設定してなかった事すら作者に忘れられ、さっき"黒川"という名を拝領した黒川です」

「よかったですね」

「どうも」

「で、御用は?」

「はい、あれからTS症候群について調べていたんですが、大変な事がわかりました」

 大変な事?


「はい、ひとつお聞きしたいのですが、身近にいる男性であなたの下着をこっそり失敬するとか、あなたの入浴を覗き見るとかそういう行為に及んだ人いませんか?」

「……」

「もしもし?」

「…は、はい。なんでそんな事を?」

「いえね、もしそんな事があったら咎めたりせず黙認してあげてください」

「どういう事です?」

「TSウイルスに感染した人間はほんの微量ですが、異性を狂わせるフェロモンを出すことが判明したんです」

 フェロモン?


「相手が自分を好きで好きで堪らなくするフェロモンといいますか。先述したように最初は下着ドロとか覗きでガス抜きができるんですが、それを強制的に止められたら相手への想いが募っていき最後は暴走してしまうのです」

「暴走って…」

「とにかく、身近な男性であなたの下着を盗んだりとかそういう行為を目撃したとしても止めないでください。もし、止めたりしたらさらなる犯罪行為を呼び起こす危険があります。あなたに、その男性を好意を受け止める気があれば問題ありませんが、そうでなければ十分に注意してください。アメリカのアーカンソー州では殺人事件に発展した事例があります。くれぐれも注意してください。もしもし?聞いてますか?もしもし?」

 俺は黙って通話を切った。洗濯物を干している途中だった。洗濯物を干して掃除機をかけて、疲れたからソファーに座って休む。ふう……。


「ええーっ!!」

 あまりに衝撃的だったので驚くのに時間がかかってしまった。どうして、もうちょっと早く言ってくれなかったんだ?じゃ、俺の下着をオカズにする事ができなかった兄貴は鬱憤が蓄積されて今度は俺を襲うかもしれないって事?俺、体の弱い子羊だよ?興奮したオオカミさんの相手なんて体が持たないよ。精神的にも命に関わる。どうしよう、どうしよう、どうしよう!

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