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第4話

 海です。えっ?前回、海には行かないって言っていたんじゃなかったか?それがね、学校でどこから情報を仕入れたのかあやめが、


「ねえねえ海に行くって本当?」

 と、嬉々とした顔で聞いてきたんだよ。


「うんまあ兄貴とその友達で行くみたい」

 私は行かないけどね。そう言うと、


「えーっ!?なんで!?」

 なんでって、水着も無いし泳ぐ体力も無い。行っても楽しくない。


「海で泳がなくても砂浜で遊んだりできるじゃん」

「せっかくの白い肌を焼きたくない」

「クリーム塗れば平気だって」

「途中で気分悪くなるかも」

「お兄さんたちが海に行ってる間は家で一人なんでしょ?そんな時に気分悪くなるのと海に行って気分悪くなるのだったら皆がいる分、海に行って気分悪くなった方がいいじゃん」

「でも、海に行くには水着が無いと」

「だったら土曜日に買いに行こ?ねえ、いいでしょ?」

 最後は駄々をこねたので行くことにした。


「あやめも行く?」

 念のため訊いてみる。まあ、いままでの流れからして答えはわかっているが。


「うん、行く」

 そのことを家で兄貴に言うと。


「お前、行くの?」

 なんだ、嫌なのか?


「嫌じゃないよ。でも、お前水着どうすんだ?」

「友達と土曜日に買いに行く」

「そうか……」

 あまり嬉しそうにないな。むしろ、できればやめてほしいと言いたげだ。そりゃ、妹の水着を見てもしょうがないだろうけどさ。


「あまり派手なの買うなよ」

 言われんでも。そして、土曜日。駅前まで買いに行くのだが、あやめのお父さんに車で送ってもらった。挨拶すると「君が噂の娘か」と。どこまで認知度が高いんだ俺は。駅前のスーパーの水着コーナーにはいろんな水着が展示されていた。


「ねえねえどれにする?」

「あんまり派手じゃないの」

「じゃスクール水着」

「やめて」

 地味に単色で余計な飾りがついてないのを選ぼう。あ、これがいい。下が男物みたいになってるの。フレアパンツって言うんだったか?柄も白と黒のチェックでそんなに派手じゃない。これにしよう。


「うーん、もうちょっと可愛いのがいいんじゃない?」

 あやめはそう言うがもう決めたことだ。


「じゃ、試着してくる」

 水着を持って試着室へ。服を脱ぎ水着を着る。うむ、良いではないか。じゃ、これにしましょ。と、水着を外そうとしたら外からあやめが水着を差し出した。


「これ、着るだけ着てみてよ」

 着るだけならいいか。花柄でフリフリがついてる。着てみると確かにかわいいが、俺的にはありえないない。やっぱ、自分で選んだのがいいよ。


「絶対、こっちの方がいいと思うのにな」

 私が選んだんだもん。と、俺の水着姿を見てあやめが言う。


「悪いけど、やっぱ自分で選んだのにする」

 そう言うとあやめはふくれた様子だったが、「わかった」とあっさり引き下がった。俺はカーテンを閉めて服に着替えた。さっきのあやめが選んだ水着は元の位置にもどして自分で選んだ水着を持ってレジへ。あやめはまだ選んでいるようだ。あっちは純正の女子だから水着選びには気合が入るんだろう。男なんてトランクスかビキニぐらいしか違いは無いモンな。男なのに尻を強調するような水着はどうかと思う。見ていて不愉快だ。

 先にレジを済ませて待っていると、5分ほどしてあやめも水着が入っているであろう袋を持ってやってきた。


「お待たせ」

「ううん、待ってないよ。どんな水着買ったの?」

「ふふふっ秘密だよ」

 よほど気に入った水着を買ったのだろう。


「あと日焼け止めを買って浮き輪とかどうする?」

「いらないんじゃないか?私は泳がないし、あやめはカナヅチじゃないから」

「そうだね。じゃ、クリーム買ってお昼にしよう」

 その後、俺たちは日焼け止めを買ってフードコートで食事して帰った。あやめとしてはもうちょっと買い物を楽しみたかっただろうが、俺が途中で気分が悪くなるかもしれないからな。帰ることにした。


 dpdpdpdp


 そして、海当日。俺と兄貴と有坂さんと工藤さんと横木田さんとあやめは横木田パパの車で海水浴場に向かった。俺は助手席で他のメンバーは荷台だ。ごめんね、俺だけ。窓を開けているので荷台の会話が聞こえてくる。


「それにしても妹さんが来てくれるなんてな。しかも、こんなかわいいお友達も一緒に」

 横木田さんが調子よく言うと、あやめが


「もう、嫌ですよ先輩。本当の事言って」

 と返して笑いを誘っていた。楽しそうで何よりだ。横木田さんやあやめたちだけじゃなくて兄貴の笑い声も聞こえてくる。ここに来て初めてじゃないだろうか、兄貴の笑い声を聞くのって。家の外では案外笑ってるのかもな。俺だけか、笑ってないのは。俺も荷台に乗ればよかったかな?まあ、兄貴に止められただろうが。

 海水浴場の駐車場に車を停めて、横木田さんの親父さんが借りてくれたコテージまで荷物を持っていくのだが、俺の荷物をあやめが持つと言い出した。いいよ、と断ったが、


「駄目よ。あんたは体弱いんでしょ。無理しちゃダメ」

 と言って聞かない。そのため好きなようにさせたがやはり皆から遅れてしまう。


「私に構わないで先に行ってください」

 そういうわけにはいかない。しかし、あやめは平気だからと先に行けと促す。なんか不審な気がするが、先にコテージに向かう。本当ならコテージは宿泊用なんだが、横木田さんの親父さんが漁協の幹部で特例として使わせてもらっている。職権乱用もいいところだが、まだ夏休み前でしかも休前日じゃないから宿泊客もそんなにいないから問題にはならない。コテージに荷物置いて、水着に着替えるか。って荷物はあやめが持ってる。ちょっと遅いな。あ、来た来た。


「ごめん、トイレに行きたくなって。待った?」

「ううん、こっちこそ荷物持たせちゃってごめん」

 さあ、早く着替えよ。男連中はすでに家で海パンを穿いていて有坂さんはあやめが来る前に着替え終わった。あとは俺とあやめだけだ。


「私は家で水着着てきたから」

 と、あやめは服を脱いでハイビスカス柄の水着を披露した。家で着てくるとはどんだけ楽しみにしてたんだ。


「じゃ、あとは私だけか。皆は先に行ってて」

 ひとりコテージに残って水着に着替える。服を全部脱いでバッグから水着を取り出す。そして、


「あーっ!!?」

 思わず大声を出してしまった。


「いまの悲鳴なに?」

「どうした!?」

「なに?なにがあったの?」

「ゴキブリでも出たか?」

「大丈夫か?」

 何事かと皆が戻ってきてドアを開けた。そして、目が点になった。さっき俺は服を全部脱いだと言った。つまり、いまは一糸まとわぬ素っ裸の状態。


「「「わーっ!?」」」

 まだ男としての意識が抜け切れない俺はあやめや有坂さんに裸をさらしたことでパニックになってる。女の子だから気にすることはない。むしろ男に裸を見られた方が問題だ。とはいえ、別に男に裸を見られてもどうってことない。


「あんたら、いつまで見てんのよ!?さっさと向こうに行け!」

 有坂さんに蹴りだされ男たちは一目散に立ち去り有坂さんもそれを追いかける。残ったあやめに俺は問い詰めた。


「なんだよ、この水着。いつすり替えた?」

「さっき」

 てへへっとあやめは笑う。それは昨日あやめが俺に試着させた水着だった。


「俺の水着どうした?」

 しまった、俺って言っちゃった。


「俺?」

「あ、いや、その…」

「もしかして、普段家の中では俺って言っちゃってる?ダメだよ。イメージ壊れちゃうから」

「ご、ごめん」

 ってなんで俺が謝らなくちゃならんのだ?


「それより、俺…いや私の水着はどうした?」

「隠しちゃった」

 またしてもてへっと笑う。


「じゃ、私も海に行ってるからね。早く来なよ」

 待て、逃げるな。追いかけようにも裸だ。くそっ、どうする?もう服を脱いじゃってるからまた着直すのもな。しょうがない。あやめのリクエストに答えてやるか。


 dpdpdpdp


 水着に着替えてビーチに行くと皆がレジャーシートを広げて待っていた。


「うひょう、その水着とても似合ってるよ」

 すいません、横木田さん離れてもらえません?


「そ、そんな…」

 がっくりとうなだれる横木田さん。


「似合ってると思うよ」

 横木田さんよりは冷静な工藤さん。


「ありがとうございます」

 一応、褒められたっぽいので礼を言う。最後に兄貴。


「お前、よくそんな派手なの選んだな」

「…何も聞かないでくれ」

 説明すると長くなるしバカバカしい。さて、男三人の反応は横木田さんは食い入るように見ている。工藤さんも見てはいるがやらしい感じではない。兄貴は目が泳いでいる。


「どうしたのよ、はるくん。妹さんの水着姿に興奮しっちゃってる?」

「ば、ばか言うなよ。そんなわけないだろ」

 そんなムキになったら肯定したことになっちゃうよ兄貴。


「それにしてもかわいいわね。うん、とてもよく似合ってる」

「私が選んだんですよ」

 えへんと胸を張るあやめ。あたかも自分の手柄みたいに。


「そうだ、これって確かパレオついてたよね?」

 昨日、確かにパレオつきだった。


「家に置いて来ちゃった」

 なんとなくわざとだろうと思う。恥ずかしいんだよ。上はしょうがないとして下はせめてフレアパンツにしたかった。紐で結ばれただけの男の海パンよりも生地が少ないパンツはどこか頼りない。


「もう、いいよ。私はここで待ってるから皆は泳いできて」

「はーい」

 と、あやめが真っ先に海に突撃する。それに続くみんな。しかし、兄貴だけは呼び止めた。


「なんだ?」

「悪いけど、背中に日焼け止め塗ってくんない?」

「はっ?」

「せっかくの白い肌焼いちゃうのもったいないだろ?」

「なんで俺が?」

「他人にさせられるのか?背中だけ塗ってくれたらあとは自分で塗るから」

「あ、ああ」

 兄貴が承諾したので俯せに寝る。


「じゃ、塗るぞ」

 クリームがついた手が俺の背中をさする。


「兄貴、水着の紐ほどいちゃって」

「えっ?」

「でないと塗りにくいだろ?」

「わ、わかった」

 水着の紐がほどかれ背中全体にクリームが塗られる。


「ぬ、塗り終わったぞ」

「さんきゅ。あとは自分で塗るよ」

 と、上半身を起こすと兄貴がびっくりしたような声を出した。


「お、お前、前、前!」

 そうか、ブラの紐外してたんだ。ブラをつける。


「お前、もうちょっと女の子の自覚持てよ」

 顔をゆでだこみたいにしながら兄貴が説教する。んなこたぁ言われても初めて女物の水着をつけるんだからな。これぐらいは大目に見てほしい。


「わかった、わかったから今後は気をつけろよ」

「ラジャ」

 これ以後の事は特に論じるまでも無いので簡略にご説明する。つまり、兄貴たちは海で遊んで俺はそれをビーチから眺めてるだけだ。楽しいか?と問われたら「うんにゃ」と答えるしかない。暇だから海の家で何か飲もう。財布を持って海の家へ。


「いらっしゃ…ええっ!?」

 接客のバイトの男が挨拶の途中で驚きの声を上げる。それを合図に店内がどよめく。何をそんなに驚くことがある?俺は客だぞ。まだ昼前なので店内はガラガラだ。空いている席に座る。


「あ、あの、ご注文はよろしいでしょうか?」

 先ほどの明らかに俺より年上のバイトの兄ちゃんが緊張しすぎの感じでオーダーを聞いてきた。


「オレンジジュースお願いします」

「か、かしこまりました!」

 だから、なんでそんなに緊張するの?おかしな人だ、とジュースの来るを待ってると周囲の声が漏れ聞こえてくる。


「お、おいあれって噂の銀髪碧眼の美少女だよな?」

「まじかよっ本物初めて見た。めっちゃかわいいじゃん」

「俺、写メとっとこ」

 勝手に撮るな。芸能人じゃないんだぞ。関わりたくないので無視する。ジュース飲んだらさっさと帰ろう。


「お、お待たせしました」

 来た来た。店員はテーブルの上にオレンジジュース置くと、俺に何か差し出した。ん?これは色紙か?


「すいません!サインお願いします!」

「……はっ?」

「あの、ダメでしょうか?」

「駄目も何もなんでお…私がサインを書くんですか?」

 いかんいかん、俺って言いかけた。


「店内に飾ろうかなって」

 いやいや違うよ。俺が言いたいのはそういう事じゃなくってさ。


「サインなんて書いたことないですよ?」

「どんなのでも結構です。あ、それから写真も撮らせていただきたいんですけど…」

「それは勘弁してください」

 それも店内に飾りたいって言いたいんだろ。とにかくサイン書いてジュース飲んでとっとと出よう。


「ありがとうございました!」

 ビーチに戻ると兄貴たちが海からあがっていた。


「お前、どこ行ってたんだ?」

「海の家」

「勝手にいなくなるなよ。皆、心配してたんだぞ?」

「ごめん…」

「まあまあ、はるくんもそのくらいにして。ところで海の家に行ったって言ってたけどちょっとしたパニックとかにならなかった?」

「えっ?なんで知ってるんですか?」

「やっぱりね」

 何がやっぱりなんだろう。皆もうんうんと納得している様子。納得していないのは俺だけか。この村の連中は有名人でもない俺に注目しすぎ。やっぱ、銀色の髪ってのが目立つんだろうか。


「髪を黒く染めようか…」

 そうボソッと呟いた時だった。


「「「ダメ!!」」」

 そんな皆一斉に声を合わせなくても。


「駄目だよ、絶対にダメ!」

 でもね、あやめさん銀色の髪って無駄に目立つんだよ。


「駄目なものはダメなの!」

「わかった、わかったから落ち着こう」

 興奮しているあやめを宥めすかす。まさか、こうも反発されるとは。


「絶対に髪を染めたりしないでね。絶対だよ!」

 約束するよ。


「よかった。じゃ私もう一回泳いでくるね」

 いってらっしゃい。


「昼までまだ時間あるから俺達も泳いでくるか?」

「そうだな」

「私も賛成ね」

「お前はどうする?ちょっとぐらいなら海ん中入ってもいいんじゃないか?」

 俺は少し考えた。


「やっぱいいよ。もしそれで気分が悪くなったら皆に迷惑かけるから」

「でも、ずっと座って見てるんのも退屈じゃないか?」

「そうだな。せっかく海に来たんだから魚釣りしたいな」

「魚釣りか。誰かついていく必要があるな」

 そうだな、気分が悪くなった時のために。


「それだけの理由じゃないがな」

「どゆこと?」

「なんでもない。誰がついていく?」

「はいはい、俺立候補します!」

 横木田さんが威勢よく手をあげる。


「あんたと二人っきりにさせたら却って危険なだけよ」

「なにもそんな言い草ないだろ」

「ここはやはり兄貴のはるが適任じゃないか?」

「でも、はるくん頼りなさげなイメージだからボディガードには向かないかも。勇一と二人ならいいんじゃない?」

 勇一とは工藤さんの事である。


「なんで勇一がOKで俺はダメなんだよ!?」

「あんたは下心丸見えだからよ」

「なっ…」

 絶句する横木田さん。というわけで、兄貴と工藤さんと3人で魚釣りに。結果、昼までに魚を5匹ゲットした。すべて兄貴の釣果だ。


「ずいぶんと釣れたね。全部はるくんが釣ったの?」

「すっごいです先輩」

「まっ俺に言わせたらまだまだだけどな」

 そりゃ、横木田さんは漁師の倅だもん。


「よし、昼飯にしようぜ。俺、親父を起こしてくるよ」

 横木田さんが親父さんを起こしている間に俺たちは食事の用意をした。今日の献立は焼きそばと海の幸のバーベキューだ。焼きそばは定番ということで、バーベキューはサザエやアサリやホタテやイカやエビやアワビといった食材が安く買えたからとの事。これに兄貴が釣った魚が加わる。


「ふーっ食った食った」

「おなかいっぱいですぅ」

 皆、腹いっぱい食えてご満悦の様子。一方、俺は皆につられて少し食べ過ぎた。気分悪い。


「しょうがないな。家に帰るか?」

「うん…私一人で帰るから兄貴は残ってて」

「そういうわけにはいかないだろ?悪い皆、俺ら先に帰るよ」

「ああ、しょうがないよな。俺達も帰るか」

「いや、皆は遊んでてくれ。でないと、こいつが気にするから」

「それもそうね。それに妹さんだけ遊べないのもかわいそうだったから」

「大丈夫?私もついていこうか?」

「ううん、あやめは海で遊んでて。また、明日学校でね」

「うん、バイバイ」

「バイバイ」

 俺達は皆に別れを告げて横木田さんの親父さんに家まで車で送ってもらった。やっぱ、海に行くのは無理がありすぎたようだ。

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