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第3話

「というわけで今日から一緒に勉強することになった。皆、仲良くするように」

 先生の紹介が聞こえないぐらいの歓声が響く。割れんばかりのとはこういうのを言うのだろう。指定された席に着くと四方八方から質問攻め。HRなんだから先生の話を聞こうよ。質問はやはり銀色の髪と青い目に集中した。


「ねえねえ、なんで髪が銀色なの?」

「外人さんぽいけどハーフ?」

「青い目って私初めて見た」

 ……うざい。でも、存外に対応して初日から嫌な奴と思われるのも回避したいので嫌な顔はしないでおこう。結局、HRは俺への質疑応答で終始した。そして、授業開始。ずっと休んでたから勉強がわからないんじゃないかって?残念でした。ちゃんと勉強はしてたよ。問題は次の休み時間に発生した。


「……」

 やばいな、トイレに行きたくなった。実は俺はまだ女子トイレに入ったことは無い。病院は個室にトイレがあったからな。もう女なんだし気兼ねする必要もないんだけど。さて、どうするか。家に帰るまではまずもたない。転校初日に授業中にトイレも避けたい。……仕方ない。俺は重い腰を上げた。女子トイレの前に来ました。さあ、いよいよ人生初の女子トイレ訪問です。私ともあろう者がドキドキしてきましたよ。田舎の学校のトイレだからなんか汚いのかなって思ってたら、割と小奇麗にしてるじゃんか。便器も洋式だし、なんだこのボタンは。ポチッ。おお、これが噂の水が出る音が出るボタンか。何回も押して遊んでたらチャイムが鳴った。急いで戻らないと。

 次の授業は英語だった。こう見えて英語は得意だったりする。将来、サッカー代表として世界を飛び回るのに英語は必須だと母親に言われたからだ。それも無駄になっちまったがな。流暢な英語を披露すると周りから「おおー」という声が。少しえっへん。まあ、授業中の話をこれ以上しても面白くないだろうから次は昼食の話をしよう。

 昼食時間となったので兄貴が作ってくれた弁当を食べる。うむ、うまい。いいお婿さんになれるよ。


「おいしそうなお弁当だね」

 顔を上げると一人の女生徒が弁当箱を持って立っていた。


「一緒していい?」

「どうぞ」

 女生徒は俺の前の席に座った。そこは別の女生徒の席だが、本人は食堂にでも行ったのだろう空席だ。


「私、天龍寺あやめ、よろしくね」

「どうも…私は……」

「あ、あなたの名前は知ってるから」

 そうですか。


「本当においしそうなお弁当ね。あなたが作ったの?」

「いや、これは兄…が」

「お兄さんが?」

 そんな驚くこたぁ無いだろう。あと、掃除・洗濯・買い物・日曜大工・ゴミ出しと家事全般をやってくれている。


「あなたは何か手伝ったりしないの?」

「食事の準備とか後片付けぐらいはしようと思うんだけどやらせてもらえない」

「なぜ?」

「無理して倒れられたら困るって」

「妹さんを大事に思ってるのね」

「過保護なくらいに」

 会話はこんなもんだ。女子とお弁当食べるなんて初めてだからしょうがない。


「ねえ」

 なに?


「私たち友達にならない?」

「はいぃ?」

 特命係の変人警部殿の口調で聞きかえした。


「友達に?」

「そう友達」

 断る理由は無い。


「いいけど」

「本当?言ってみるものね。あなたってクールな印象だから近寄りがたかったの」

 そう?実物はいたってフレンドリーのつもりだ。だからか、最初の質問攻め以降誰も話しかけてこなかったのは。俺としてはちゃんと応対したつもりだったが。


「あの、天龍寺さん」

「あやめでいいよ」

「じゃ、あやめさん」

 すると、彼女は苦笑して、


「さんはつけなくていいから。友達なんだし」

「えと…それじゃ私の事も名前で呼んでいいよ」

 家族親類以外の女性から名前で呼ばれるのは幼稚園以来だ。


「わかった。で、なに?」

「あの、私と友達になってもあまり遊べないよ?私、こんな体だから」

 俺が病弱なくらいは知っているだろう。それと、女の子と遊ぶって何をすればいいの?デートと一緒ということではないだろう。


「別に外に遊びに行かなくても教室でお喋りしたり、あなたの家に遊びに行ったりいろいろできるよ」

 女の子とお喋り…。はて、女の子と共通の会話ってあるかな?


 ∀A∀A∀A∀A


 放課後、横木田さんの親父さんが迎えに来てくれたので乗せてもらうことにする。


「あの、ちょっと寄り道していいですか?」

 乗せてもらう身で申し訳ないが、どうしても買わなくてはならないものがある。


「いいけど、どこに行けばいいんだい?」

 コンビニとかでもいいんですけどね。あるかな?コンビニ。あっても地方ローカルなコンビニだろうな。と思ったら全国規模のジャクソンがあった。半年前にできたばっからしい。


「すいません。ちょっと待っててください」

 車から降りると俺は店内に入って雑誌コーナーから女性雑誌とかを何冊かカゴに入れた。少しでも女の子と会話できるように共通の話題ぐらいは必要だろう。それと、親父さんに飲み物を買おう。…ブラックでいいかな?勘定を済ませて車にもどり親父さんにブラックを差し出す。


「どうぞ」

「おっ、すまないね。気ぃ使わせちまって」

 家まで送ってもらう上に寄り道まで付き合わせたのだ。これくらい当然だ。家に着くと親父さんに礼を言ってから家に入りさっそく買ってきた雑誌を読み漁った。……さっぱりわからん。女の子になって早2ヶ月…女の子らしいことは何一つしてこなかった。それがいきなり女の子と共通の話題って我ながら無謀すぎたか。眠いな。学校に行ったから疲れたかもしれない。少し寝よう。

 起きた。7時ごろか。あれ?兄貴まだ帰ってない?どうしたんだ?最近帰り遅いな。近所の付き合いにでも行ってるのかな?それとも友達と遊んでいる?ずいぶんと変わったな兄貴も。


「ただいまーっ」

 あ、帰ってきた。玄関まで迎えに行く。


「どこ行ってたんだ? 最近、帰りが遅いよね…」

「ん、ちょっとね」

 ……?俺は不審を感じた。友達と遊んだり近所の付き合いならはぐらかす必要は無い。


(俺に何か隠している?)

 何を隠す?まさか、彼女ができたとか?なんてこったい。


「ん?どうした?」

「いや、なんでもない……」

 そうか、ついに兄貴にも春が来たか。季節外れの春だが。畜生、俺も一度でいいから彼女持ちになりたかった。え?彼氏持ちになればどうだ?殺すぞ…。


「ねえ、兄貴の彼女ってどんな女性(ひと)?」

「なっ、いきなり何を言うんだよ。俺に彼女がいるわけないだろ」

 自分で言ってて悲しくないのだろうか。


「彼女とデートしてたんじゃないのか?」

「違うよ。ちょっと用事があったんだ」

 ふむ、彼女ではないのか。まあ、兄貴にも人には言えない用事ってあるもんだ。これ以上は深く追及しないでおこう。


「馬鹿な事言ってないで、晩飯にすっぞ」

 ほーい。席について晩飯ができるのを待つ。


「……ねえ、兄貴」

「んー?」

「やっぱり俺も何か手伝うよ。大丈夫だって体調もいいし少しぐらい動けるよ」

「変な気遣いは無用だ。お前は自分の体の事だけを心配してろ」

「……わかった」

 おとなしく待っていよう。しばらくして食卓に料理が並んだ。今晩はハンバーグか。


「いただきまっす」

 うむ、うまい。本当に兄貴は料理がまあまあうまいね。こりゃ将来は結婚したら兼業主夫かな。と、顔を上げ兄貴の方を見たら、兄貴と目があって兄貴があわてて目を伏せた。


「?」

 なんで俺と目があって目をそらすんだよ。そりゃ、電車とかできれいな人に見惚れてずっと眺めてたらその人と目があってあわてて目をそらすってのはあるよ?でもさ、家ん中で家族しかも妹(それもちょっと前まで弟だ)と目があって目をそらすって何?それと…。


「兄貴、顔が赤いけどしんどいの?」

 学業と家事の両立だからな。体の不調があるかもしれん。


「い、いや、なんでもない」

 心配させまいとしてるんだろう。


「いいから早く喰え」

 うん、わかった。


 ∀A∀A∀A∀A


 次の日、この日も横木田父に車で送ってもらった。さすがに俺ばっか送ってもらうのは悪いので兄貴と横木田さんにも同乗を誘ったが、荷台で登校は勘弁してくれと断られた。そりゃそうだ。


「じゃ、今日も気をつけてな」

「ありがとうございます」

 親父さんに別れを告げて校舎に向かう。すると、玄関入口にやけにイケメンな男子生徒が立っているのが見えた。いいねえ、さぞかしモテるんだろう。俺が男のままだったら背後から刺したくなるようなイケメンボーイだ。彼女と待ち合わせか?俺には関係ないやと横を通り抜けようとしたら声をかけられた。


「ちょっとすみません」

「私…ですか?」

 何の用だろう。


「はい、お見受けしたところ昨日転校してきた方と存じますが」

「はい、そうですけど」

「お噂通りの可憐な方ですね。申し遅れました。私、2年の菊池といいます。以後、お見知りおきを」

「菊池先輩ですか。こちらこそ宜しくお願いします」

 年上なのでペコッと一礼して立ち去ることにした。


「では、私はこれで失礼します」

 そう言って自分の下駄箱に向かおうとすると腕を菊池って先輩に掴まれた。


「えっ?」

 驚いて先輩の方を振り返る。


「失礼。実はあなたにお話があるのです」

「は、はぁ……」

 なんだろ?


「僕とお付き合いしていただけないでしょうか」

「ごめんなさい」

 二つのセリフの時間差はわずか0.5秒。即答である。あまりの即答に菊池先輩は固まってしまった。女の子にフラれるとは恐らく初めての経験だろう。


「僕の誘いを断るとはさすが銀髪碧眼の美少女ですね」

「…その呼び名やめてもらえませんか?」

 ムッとなって言い返す。


「すみません。ご気分を害しましたか」

「いえ……」


「僕としたことが少し失礼でしたね。失礼しました」

 そう言って頭を下げる先輩。後輩にも躊躇なく頭を下げれるのか。少し、見直した。


「今日の所はこれで失礼します。でも、あきらめたわけではありませんから。では」

 先輩は去って行った。清々しい印象を受けたけど、男からしたらあれは嫌味だな。でも、昨日のしつこい奴に比べたらあっさり引き下がってくれた分好印象だな。でも、付き合ったりはしないよ。邪魔者はいなくなったし、靴を履きかえよう。自分の下駄箱を開く。手紙?それも一つじゃない。俺は封を開けずに全部ゴミ箱に捨てた。教室に着いて自分の席に座っていると、あやめが慌ただしく入ってきた。


「ねえねえ2年の菊池先輩を振ったって本当?」

 なんですか、挨拶も無しにいきなり。


「本当だけど」

「えーっ!?菊池先輩ってこの学校で一番女子に人気あるんだよ!」

 信じらんないみたいな顔されても困る。


「どうして断ったの?」

 どうしてって、ただ単に好きじゃないから。それに初対面でいきなり付き合ってと言われても。前の家の近所の大学生の兄ちゃんが美女に声をかけられてほいほいついていったら、美人局に引っかかってひどい目に遭ったのを聞いて知ってるからな。見た目だけで人を判断してはいけないと勉強したのだ。


「もったいない。菊池先輩と銀髪碧眼の美少女ってベストカップルだと思うのに」

「あのさ、その銀髪なんたらってやめてくれないかな?」

 なんなんだ、その呼び名は。


「村中ものすごく噂になってたんだよ。ものすごい美人がこの村に来たって。あなたってずっと家にいてたんでしょ?だから、誰も姿を見たことないから目撃証言から銀髪と青い目が特徴とわかったから銀髪碧眼の美少女って皆が言うようになったの。なんか赤い彗星みたいでいいじゃん」

「いや、嬉しくない」

 銀髪と青い目しか取り柄が無いみたいじゃんか。


「そんなことないよ。一番の取り柄はかわいいってことなんだから。でも、胸がちょっとさびしいね」

 余計なお世話だ。これぐらいでちょうどいいのさ。あまり大きすぎると肩がこるっていうし。


「そうだ、今日プールの授業あるんだけど水着持ってきた?」

「ううん、見学するつもりだから」

「そっか、体が悪いもんね。残念だな。一緒に泳ぎたかったのに」

 ごめんね。


 ∀A∀A∀A∀A


 その日の夜。兄貴と晩飯を食べてると兄貴がこんなこと聞いてきた。


「おまえ、今日菊池って奴に声をかけられたんだって?」

「そだよ。付き合ってくださいってぬかすから、ごめんなさいって即答した」

「そうか…」

 なんだ、その安堵した表情は。まさか、俺が「はい」と言うとでも思ったのか?ひょっとして忘れてないか?俺が元は男だってこと。いまは体が弱い女の子だけどさ。


「ところでさ、おまえ今度の日曜日暇?」

 そう問われれば暇と答えるしか選択肢のない俺である。


「横木田たちと海に行くことにしたんだ。それでお前もって」

「ふーん、俺はいいよ。途中で気分が悪くなるかもしれないし。それに水着無いもん」

 さすがに男の時に買った水着は穿けない。サイズ的な問題以外にもいろいろと。


「じゃ、日曜日は俺一人か。おとなしく留守番してるよ」

「すまないな。何かあったら携帯に連絡しろ。すぐに帰るから」

「あいよ」

 海か…本当は行きたいんだけどね。

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