9
んっ
頭がすごく重い。手を動かそうと思っても上手く動かせなくて。はっきりとしない意識の中で、誰かに名前を呼ばれた気がした。
そこにいるのは誰?
……修ちゃん?
でも、私の耳には言葉が落ちてこない。そっと頭や顔を優しく撫でられている気がする。そして、不意に唇に温かいものが触れた気がした。
んん?ふわふわと幸せな気分。さっきまで真っ暗だった空間にいたのに光が満ち溢れてくる。身体が浮いてしまうそう。気持ちいい。もっと、もっと触って。
はっと気がついたら朝だった。カーテンの隙間から光が漏れている。あれ?昨日の夜の記憶が曖昧だ。私、夕ごはん食べてから……どうしたんだろう?
疑問を持ちながらリビングに行くと、修ちゃんがベットに運んでくれたんだとお母さんの口から教えられた。私ソファーで寝ちゃったんだね。夢に修ちゃんが出てきた気がするのはそのせいかな?内容ははっきりとは思い出せないけど、いい夢だった気がする。
ーーーーーーーー
ーーーーーー
「苺、これから本屋に寄らない?」
授業が終わり帰り支度をしていたら、美華ちゃんが振り向き話しかけてきた。
「うん、いいよ。私もちょうど欲しい本があるから行きたかったんだ」
「私は先輩がバスケやってるから、そうゆう関係の本を読んでみたくて」
何だかほわんとピンク色なオーラをだしている美華ちゃん。先輩のことが好きなんだよね?恋愛というものがよく分からない私にとっては、なんだか羨ましいな……思わずじっと見つめてしまう。
「どうしたの?」
「なんか、美華ちゃん楽しそう」
「まぁね。両思いより、憧れている時や、片思いしてる時の方がドキドキして楽しいって言うしね。とりあえず今の私は先輩に興味があるって感じかな?」
「えっ、片思いの方がいいの?」
美華ちゃんから驚きの言葉が飛び出した。どうして?両思いの方が幸せじゃないの?それって不思議だよ。首を傾げて考えてみるけど、体験をしてないものはやはり分からない。
「苺は片思いとか両思いとか気にしなくても、修一さんに愛されちゃってるからね」
「 愛されてるって!?ち、違うから!!」
ここが教室だということを忘れて、思わず大きい声を出してしまった。
「なんで?苺のことすごく大切にしてくれるでしょ。それって愛じゃない」
「だから、あ、愛とかそうゆうことではなくて。昔から修ちゃんは優しいんだよ」
恋愛初心者の私に、好きを超えていきなり愛って!
「難しく考えなくてもいいのよ。じゃあ、苺は修一さんのこと好きじゃないの?」
「……それは、もちろん好き……だけど」
美華ちゃんが真剣な顔をして聞いてくるから“好き”って答えちゃったけど……いつも一緒にいるのが当たり前だから、修ちゃんが私のことどう思ってるかなんて考えた事がなかった。