8
「いいから。苺とデザートでも食べてなさいって。今日は美味しそうなのがあるの」
キッチンから追い出そうと腕にぐいぐいと圧力をかけられ、冷蔵庫からプリンを取り出し『はい!』と渡される。
突然、莉央さんはオレの顔をじっと見つめて
「ねぇねぇ、苺って高校生になっても修一くんにべったりよね。やっぱり困っちゃうでしょ?」
何を言い出すのかと思ったら。今のオレにとっては離れていかれる方が困るって。縁起でもないことを言わないでほしい。
「全然困りません。困るわけないです」
「だって修一くんは苺と違って大学生だし、色々と付き合いってものがあるのに。これじゃ彼女も作れないわよね」
「へ?彼女?いやいやいや、苺と一緒にいる方が楽しいから」
あ、つい本音が。こんなこと言われている本人はリビングにいるけど、オレ達の会話が聞こえてないらしい。聞こえていたら、どんな反応するんだろうな。
「私としては2人がずっと仲良くしてくれたら嬉しいんだけど」
「苺に嫌われない限りは仲良くしますよ」
「苺が修一くんのこと嫌うなんて絶対ないと思うよ……ふふふ」
「え、っと。あ、苺にデザート渡してきます」
いたずらっ子のように瞳を輝かせ見つめられると居た堪れなくなり、慌ててその場を離れる。苺に告白する前に莉央さんに伝えそうになってしまった。それは順番がおかしいだろ。
しかし、今の会話から考えると……オレと苺が付き合ってもいいってことか?莉央さんからOKがでたのなら、今すぐにでも付き合ってしまいたい。が、問題は苺本人の気持ちだよな!
「デザートに苺の好きなプリンだよ……苺?」
先程からリビングがいやに静かだと思ったら、携帯を握りしめてソファーですやすやと眠っている。ご飯食べたら寝ちゃうなんて。こうゆうところは、まだまだ子供みたいで妹を思う兄のような気持ちにもなってしまう。
苺が握りしめてる先、携帯にはプレゼントしたストラップ。ころんと丸く赤いイチゴが光っている。いつの間にか付けてくれたんだな。
「お~い。苺、風邪引くから部屋で寝ないと」
肩を軽く揺さぶってみたが起きる気配が全くない。本当に人の気も知らず無防備に寝ちゃって。
「ふにゅ……しゅーちゃぁ……っ」
な、なんて可愛い寝言を!!思わず口を押さえていたら、背後から声がした。
「え!苺もう寝ちゃったの?なんか小学生みたいね」
「まだ高校生活に慣れてないのかも。オレ部屋に連れてきます」
「修一くん、大丈夫?ごめんね」
莉央さんの方を向き全然平気だと微笑む。なんとか身体に腕を差し込み抱き上げて、苺の部屋に連れて行きベッドに寝かした。
布団をそっと引き上げて身体にかける。カーテンを閉めきった静かな部屋の中。規則正しい寝息だけが聞こえる。欲求に抗えず、すっと近づいて苺の顔を間近で鑑賞した。
柔らかく温かい頬に触れると、急激に愛しい気持ちが込み上げてくる。
「な、苺。ここまで運んだご褒美を貰ってもいいよな?」
耳元で低く囁いたが、もちろん相手から返事は返ってこない。
唇をそっと指でなぞる。
そして、ゆっくりと顔を近づけ唇を重ねた。苺との初めてのキスはとびきり甘い味がした。