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「まるで、苺の為にあるような店だよね」
雑誌に載っているのを見つけた時も苺はこの名前に反応して喜んでいた。もちろん甘いスイーツが好きなことも知っているけど。
「ふふふ、そうでしょ。あのね、ここにはいろんなイチゴのケーキがあるんだって!」
早く、早くと言わんばかりに服を引っ張られて店に入る。派手ではないけど、男1人だったら恥ずかしくて入れないな。このカフェは人気店なのか、恋人同士や女の子達でかなり賑わっている。きっと雰囲気だけではなくて、ケーキも美味しいんだろうと想像をした。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?窓際の席にお座り下さい」
ふわりとした白のスカートに黒のエプロンをした店員が案内してくれた席に座る。大きなガラス張りの窓からは、カフェ内の木々が近くにあり、駅近くという事実を忘れてしまいそうだ。いざ中に入ってしまうと、男でも不思議と落ち着く空間になっていた。
周りを見渡してから目の前にいる苺を見ると、メニューとにらめっこしていた。『これも美味しそう。でも、こっちも気になるぅ』と真剣に悩みぶつぶつ言っている姿が愛らしくて笑える。
「選べなければ、別に何個食べてもいいよ」
「しゅ、修ちゃんは私を太らせたいの!」
頬をぷくっと膨らませ口を尖らせる。ぷっ、そうゆう表情をすると余計に苛めたくなるぞ。
「苺は細いくらいでしょ。太っても可愛いから大丈夫だって」
「もう!」
「冗談、冗談。怒るなよ。でも夕飯もあるから1つにしておいた方がいいか。また今度一緒にこような」
「うんっ!私はね、イチゴのタルトに決めた。修ちゃんは?」
「オレはケーキはいいよ。コーヒーにしておく」
運ばれてきたきたのは、見た目も凝っているタルトだった。皿にもソースや粉砂糖が振ってあり、苺は『食べるのがもったいない』とフォークを入れるのを躊躇っていたけど、一口頬張ると『美味しいっー!幸せ』と嬉しそうに微笑んでいる。
オレは苺と一緒にいられるのが幸せなんだけどね。気づいてくれよ。
「あ、修ちゃんも食べる?はい!どうぞ」
オレが答えるよりも先にフォークに一口分のせたものを唇の前に差し出してくる。恥ずかしがりやのくせに、こうゆうことは平気なんだな。苺がしてくれたことを拒否する理由がないし、パクっと食べると甘酸っぱい爽やかな味が口の中に広がる。
「ん、甘くなくて美味しいね」
「そうでしょ!まだ食べる?」
「いや、後は苺が食べな。あ、そうだ。これ」
さっき買った物をバックから取り出して手渡す。『なに?なに?』と苺は紙袋の中をそっと覗いた。
「わぁ!イチゴのストラップだ。可愛い!!」
ああ、良かった。想像通りに喜んでくれたから思わずこちらも笑みをこぼしてしまう。
苺は自分の名前を気に入っていて、イチゴモチーフの物をよく集めているからな。小さい頃は鉛筆や消しゴム、服、髪留め、ハンカチ。そういえばイチゴ柄のパンツまで履いてた。昔は一緒に風呂にも入ってたしね。いや、できることなら今一緒に入りたい……頭の中が勝手にピンクな妄想をし始めた時
「ありがとう。修ちゃん大好き!」