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共に  作者: 真弘
4/7

共に過ごす一日

「冬夏、なんてどうかな?」


 朝食が片付けられたテーブルを布巾で拭いていた少女が顔を上げる。


「かずな、ですか?」


 うん、と秋春は頷く。


「俺にない、冬と夏でかずな。冬夏だ」


 言いながらネクタイを締め、上着を羽織る。


「冬夏……」

「どうかな? 安直かなー、なんて思ったりもしたんだけど」

「いえ」


 冬夏は首を振り、布巾を握り絞める両手の力を強める。


「ありがとうございます」


 表情は殆ど変わりないが、頬を染めているあたり喜んでいるのだろう。

 そう素直に喜ばれても、秋春としては何となく極まりが悪い。


「はは。大袈裟だよ。さ、学校行こう」

「はい」


 彼女の返事が、何時もよりはっきりと聞こえた気がした。



  ※※※



 街を歩いていると、秋春は何となく違和感を覚えた。

 学園に着き、人混みに入るとそれはより明確になった。

 ざわつく生徒たち。

 その表情は、好奇と不安。

 秋春は何食わぬ顔で自身の席に着いたが、内心では戦々恐々としていた。


(お、俺のこと怖がってんのかな……)

「!」


 音を察知した音々が振り返る。


「おはよう」

「あ、おはよう」


 その表情はこれまでと何ら変わらない。

 嬉しい半面、訳が分からず混乱する。


「な、何か騒がしいね」

「ニュース、見なかった? すごい大騒ぎだったんだよ?」


 言われてみれば、昨夜も今朝もテレビをつけた覚えがない。


「何あったの?」

「昨日の夜、別のコロニーがレギオンに襲われたの。それで、万単位のレギオンコアを確保したんだって。それの何割かをね、うちのコロニーが譲り受けることになったの」


 秋春は首を傾げる。


 確かにコロニーが襲われたことは、いつかこのコロニーも同様のことが起きることを再認識させる。

 しかし、恐怖とともに植え付けられた現実を、一世記もたたない内に忘れられたはずがない。

 人間側が勝ち、守護者が増える。

 いいことずくめにしか思えなかった。


 それを察したのか、音々は苦笑する。


「それでね、マスコミが騒いだの。何を取引したんだ、って」

「あ……」


 秋春は漸く、今回蓮華が得しかしていないことに気づいた。

 資源や利権を巡り、常に対立している国家間に在って、それは異常と言っていいだろう。


「輸入規制の緩和とか、軍部派遣の常駐化とか、いろいろ騒がれてるの。まぁ、クラスの皆が不安がってるのは、いつか別のコロニーに派遣させられるんじゃないか、ってとこと、物価が上昇するかも、ってところかな」

「成る程なぁ……」


 宙を仰いだのも束の間。


「すごいな……よくそこまで考えが回るね」


 直情的な性格を自覚する彼には、到底真似できそうにない。

 本気で感心した風の秋春に、音々は恥ずかしそうに苦笑する。


「そ、そうじゃないよ。全部ニュースの受け売り」

「?」


 にしては確信をもったもの言いだった気がしたのだが、秋春には本当のところは分からなかった。


「そういえばその子の名前、何にしたの?」


 音々が首を傾げ、秋春の横に佇む守護者を見遣る。

 露見を恐れてビクつく反面、音々の振舞いに心が躍ってしまう。


「席につけー」

(ちぃっ!!)


 チャイムと同時に現れた担任によって、会話が遮られてしまった。

 出席確認と連絡事項の通達を行うショートホームルームから、その日の全課程は始まる。

 秋春の不安は杞憂だったようで、クラスメイトたちからは忌避も嫌悪もされていないようだった。


 クラスメイト達と秋春の意識の違いは、世界情勢への関心にも表れている。

 建設以来一度もレギオンの侵攻を許していない蓮華だが、国民は外の変化にこそ敏感に反応するからだ。


 国民の三分の二は他国から居住権を得た他国出身者であり、その殆どが何らかの形でレギオンの襲来や戦争を経験している。

 それ故、彼らの多くがレギオンへの敵愾心や恐怖心を抱えているのが第一の理由。


 そして第二の理由が、人口増加・難民の受け入れによる自給率の低下と、それに伴う輸入増加による物価の上昇である。


 エネルギー・食糧自給に於いて完全自給を可能としている蓮華だが、他国との交易を断っているわけではない。

 レギオンの襲撃備えた軍事・情報に関する同盟を無視することはできず、鉱物資源は再生可能であっても生産はできない。

 余裕と備えを保つために、国交は必要不可欠だった。


 しかしながら、弐季博士擁するレギオン研究、それを下敷きとした高い水準を誇る守護者の育成、安定した食糧生産等により、蓮華は有利な条件で各国との交流を進めてきた。

 故に、高い生活水準を得てきた国民は、その低下を恐れた。


 酷く傲慢な動機ではあるが、隕石の衝突に始まる世界混乱を経験し、復興を果たした人類にとって、その生活が崩されることを忌避するのは無理もないことだろう。


 第一の理由を抱える者は第三・第四階層、後者を理由に不満を抱くものは第二・第一階層に所属する者に多い。


 国内の教育機関の試験に合格し、守護者の生成者として認められた子供と、その家族。

 人類の発展・維持に関する研究に於いて、その能力を認められた者のうち、蓮華所有機関への所属を認められた者と、その家族。


 この二通りが、第三階層として蓮華への居住権を得る条件である。


 そして前者。


 レギオンへの敵意。

 親の期待。

 他者を守るという気概。

 選ばれたという自負。


 何某かの意思を抱く者の多い学園の生徒たちにとって、先の知らせに比べれば秋春という奇妙な存在は二の次以下でしかなかった。



  ※※※



「秋春くん、部活何に入るか決めた?」


 そう音々が聞いてきたのは、一時限目の授業が終了した直後。


 デスク前面にあるスライド展開式のモニターから身を乗り越す形で現れた音々の姿に、秋春は二重の驚きでビクついた。

 音々はその様子が可笑しかったのだろう。あはは、と笑う声が教室の喧噪に重なる。


「そういえばまだ決めてないや。式敷さんは決めた?」


 第三学園では原則として部活動への所属を義務付けている。


 その目的は、運動部では体力・精神力の向上、文化部では思考力の向上や各部門の研究。

 共通項としてコミュニケーション能力の向上が挙げられる。


 そしてそれらは全て“生成者としての”という前提が存在する。


 故に、第三学園を含めた生成者教育機関は蓮華部活連の規定する大会には出場できない。「無償で教育を受けているのだから、大会に出ている暇があるのなら訓練をしろ」ということらしい、とだけ秋春は聞いている。

 とはいえ、蓮華内はおろか国家間での守護者による競技大会が存在するので、そちらに重きを置いているのもあるのだろう。こちらは入学の翌週から始まる午後の訓練に組み込まれているため、特別な所属は必要ない。


 そして、前述の守護者の訓練が開始される翌週が、部活動を選択する期限でもある。


「ううん、まだ。運動部にしようって思ってるけど、訓練がどういう感じなのかわからなくて」


 苦笑を溢す音々に、秋春は同意を込めて頷く。

 しかしその実、内心では焦っていた。


(そーだよな……。訓練しんどくて、その後も運動部なんてやったら)


 オーバーワークは、身体を鍛えるどころか寧ろ慢性的な疲労、ケガ、病気などを引き起こし、持久力の低下に繋がる。


「だから、今日から見学に行こうかなって思ってるんだ。先輩の話も聞きたいし」

「おお……」


 部の雰囲気を見て、活動内容を見て、実際に活動している先輩に訓練との両立などの不安要素を尋ねる。

 良いこと尽くめだ。


(……社交的な人には、だけど)


 正直なところ、秋春は人付き合いが得意ではない。

 人が嫌いなわけでは勿論無い。絶対に無いが、嫌われている自覚あればこそ距離を取ってきた。

 その方針は今、コミュニケーションを取る上で微々ながら障害となっている。


 こうして話しかけてくれる音々にさえ、未だ秋春自身から声をかけられずにいるのもその一端だろう。


「秋春くんもどうかな?」

「んなっ!?」


 変な声が出てしまった。

 羞恥で縮こまる秋春に、音々は笑う。多少に含まれる負の感情を見てきた秋春の目にも、その笑顔のどこにも嫌悪は感じられなかった。

 それが何故か、どうしようもなく秋春を不安にさせる。


「あ、えっと……他には誰が行くの?」


 一度きょとんとした表情を秋春が捉えたと思ったのも束の間、音々は少し困ったような表情で目を泳がせる。


「んー……クレアとサツキにも声かけようかなって思ってたんだけど……」


 気落ちした自分、安堵した自分に失望し、秋春は努めて普段通りの笑顔を返す。


「なら、俺は一人で行くよ。放課後はちょっと用事があるし、それで待たせたりするのも嫌だしさ」

「そっ、か。じゃあ仕方ないか」


 そう言って微笑む音々に、秋春は心が抉られる心地がした。

 かといって掛けられる言葉も見つからずにいた秋春だったが、会話の無い時間が沈黙と成る前にチャイムが鳴って、開始される授業の準備を忘れていたことに気付いて慌てる様を音々が苦笑してくれたことが救いと言えば救いだった。


 二限目の授業は情報基礎。

 構築や解析といった軍部では必須となる情報処理能力の獲得が目的であり、一年次では基礎の基礎、プログラミングを学習していく。


(部活かぁ……)


 しかし、秋春の思考は完全に宙を漂っていた。



  ※※※



 昼食を摂る昼休みを挟み、授業は午後の部へ。


 翌週から始まる訓練までの一週間は、訓練の座学が一限、守護者能力における研究状況の講義が二限割り当てられている。

 配布された資料を読むに、訓練は守護者の能力の向上の他に、他者との連携が目的のようだった。

 後者はどちらかといえば生成者に課せられた目的である。

 教官の言葉を借りれば「守護者の力を笠に着た臆病者程、虚構の全能感で愉悦に浸り自滅する」とのこと。


 校内守護者戦や対校戦に関しても言及があった。


 大まかに分けて、競技の種類は三つ。

 第一に、模擬戦。極論で言えば、どちらが強いか、というそれだけの真剣勝負だ。人間で言うところの空手や剣道といったところか。

 第二に、能力戦。腕力、瞬発力、敏捷性……個々の能力に焦点を当てた競技である。陸上競技や水泳、体操等が解りやすい例か。

 そして第三が、組織戦。模擬戦の団体戦と異なる点は、様々な条件が負荷される点と、何より生成者が共に競技を行う点だろう。


「さ、最後のやつ、生成者の安全は確保されてるんですか……?」


 不安を隠そうともしない男子生徒に、教官は鋭い視線を向ける。


「実戦に安全は確保されているか?」

「それ、は……でも、……」


 教室がどよめきを増す。

 中には青ざめている生徒もいるが、辞退すればいいのではないか、と内心で首を傾げる秋春は、守護者戦に於ける功労者や優秀な成績を収めた者が受けられる特典が存在することを知らない。


 やがて教官は人の悪そうな笑みを浮かべた。


「よく読め。生成者への致命傷となる直接攻撃を禁ずる、と書いてあるだろう」


 要は、ラグビーやサバイバルゲームのようなものである。

 ルールで規定されてある以上生成者はそれを順守しなければならず、生成者が守護者に命じれば叛かれることもない。


(なら、生成者が競技に参加する意味ってあるのか?)


 ふと過ぎった秋春の疑問は、授業の終了と共に次回へと持ち越された。

 筋骨隆々、視線だけで人を射竦められるような人間に立ち向かう勇気は無かった。


 レギオンには、三つの段階があると現在考えられている。


 第一段階の幼生体は、細部に違いは見られるが、地球上で確認されていた生物が巨大化したような外見をしている。

 牙や爪、体当たりといった単純な攻撃手段の他に、体内であれば物質加工が可能。

 思考能力は低く、目標の優先度や取捨選択といった概念さえ見られず、外敵の排除か退却といった単純な行動しか取れない、とされている。


「されている……?」


 女子生徒の質問にもならない呟き程度の発言に、講師は朗らかに微笑む。

 彼らはこの一週間しか呼ばれない特別講師であり、本職は研究者だ。

 研究者にも種類はあるが、この講師は知識を広めることを旨とできる種類の人間らしい。


「これまでの研究では、その可能性が高い、と結論付けられているからです。ですが、レギオンには命令系統があり、幼生体はそれに逆らう権限を持たないだけ、という説を唱えている研究者は少なくありません」

「なるほど……。ありがとうございます」


 一礼した生徒に頷きを返し、講師は話を続けた。


 第二段階が成長体。

 基本と見られる生物から明らかに逸脱した形状が見られる個体、複数の生物が融合したような特徴を複数持つ個体がこれに該当する。

 元の形態が変化したのか、複数の個体が融合した結果なのか、現状では解明されていない。

 幼生体の攻撃手段に加え、物質変換・生成と思われる特殊能力を有する。

 思考能力は向上し、目標や戦術の選択を行う行動が見られるようになる。


 そして完成体。

 奇形化が進むか、空想上の動物のような統合性が見られるようになる。

 特殊能力の範囲が広域になり、物理的な攻撃手段と組み合わせる、というような応用を始める。

 思考能力はさらに向上し、人間側の意図を汲み取ったような行動を見せることもある


「ここまでが、現在確定的とされている情報です」


 資料から目を離し、生徒たちを見る講師の表情は、どこか悲しげなものに秋春の目には映った。

 そう思った矢先にふと目が合い、その表情を和らげて講師は視線を全体に移す。


「未だ、変化の要因や生態系も解明されていません。どうか、戦場では既存の情報に固執せず、柔軟に、臨機応変に対応して下さい。我々人類には、貴方たちが必要です」

(……?)


 必要です。

 そう言った時、再び視線が合ったのは偶然だろうか。

 そう考えたのも僅かに思い至り、ああ、と秋春は陰鬱とした感情に襲われた。


 行方不明の母。

 母に期待されるのは勝手だが、不満を押し付けるのは筋違いだ。


 そう声高に言うこともできず、秋春は軽く項垂れて浅い溜め息を溢した。



  ※※※



 気分が乗らなかったので、清掃を済ませた後は早々に帰宅することにした。

 だが、夕方はどこも人が多く、道行く人の視線が痛い。

 いっそのこと冬夏の仮面を外してしまおうかとも考えたが、そうなると音々や彼女の知り合いに露見するのを防ぐために、被り物や眼鏡は必要になってくる。


「……」

「?」


 振り返って冬夏を眺めていると、それを不思議に思ったのか小首を傾げる。


(……制服なら、やっぱりキャップよりニット帽……キャスケットなんかも)


 想像を膨らませる秋春。


(眼鏡で誤魔化すとしたら、やっぱりサングラスだけど)


 制服には似合わない。だとすれば、


(スーツだよな。動きやすさなら絶対パンツスーツだけど、寧ろ)


 スカートスーツに身を包む冬夏を想像した。

 守護者生成で精巧な人間を生み出した秋春である。

 想像したタイトスカート姿の冬夏は細部に至るまで緻密で、


「馬鹿か俺はっ!」


 自らを殴り飛ばした。


「!?」

「ごめん、最低だ……俺」


 何も言わず眺めていたと思えば自らを殴り、地面に両膝を着いて謝罪する秋春は、冬夏にしてみれば全く意味不明である。

 頬を腫らし、陰鬱な表情の男子生徒と、仮面を被り、どこかそわそわとしながらその傍らを歩く女子生徒。


 奇異と好奇の目は、自宅の門を抜けるまで消えることはなかった。


「……今日は、逆でやろっか」

「?」


 玄関のドアノブに手をかけた所で立ち止まり、秋春は手を離して冬夏の背後に回った。


「先に入って?」

「はい」


 さすがに守護者、と言うべきか。

 その意を理解できずとも、冬夏の返答ははっきりとしたものだった。


 ドアを開き、玄関の仕切りを跨いだ冬夏が振り返る。


「昨日教えたとおりに」


 そう言われ、冬夏は逡巡。


「……おかえり」


 ただいま、と秋春は返そうとして、



「ご主人様」



 続いた冬夏の言葉で石段に躓き、開かれたドアに顔面を強打した。


「いってぇ……!」

「ご主人様!」


 バランスを崩した秋春はよろめき、それを支えようとした冬夏が手を伸ばす。

 それが、互いに抱き合うような格好になったのは偶然以外の何物でもない。

 故に、



「……まさか、本当に手を出した訳じゃないわよね?」



 偶然その結果だけを偶然タイミングよく現れた遥菜に目撃されたのもまた、単なる偶然の産物である。



  ※※※



 弐季邸のリビングに備わっているテーブル。

 その席が三つ埋まるのはいつ以来だろうか。


 一も二もなく先の状況を説明する秋春に、そんな感慨に耽っている余裕はない。額の腫れと冬夏を見て、遥菜は彼の言葉を信じたようだった。

 ただ、


「昨日の今日で手を出すなんてありえないって信じてたわ、秋春」


 そう言って微笑む遥菜は、酷く冷たい目をしていた。

 つまり、いつかは手を出すと思っていたらしい。

 藪蛇を避けて、秋春は遥菜に訪問の理由を尋ねた。


「冬夏、だっけ。その子の服よ。貴方たちだけじゃ、揃えにくいものもあるでしょ」


 男である秋春と、性の概念が欠けた守護者。知識は明らかに不足している。


「あ、うん。ありがとう。冬夏も、お礼言わなきゃ」

「はい。ありがとうございます」


 やはり、仮面を外しても表情が無いせいで感情が読み取ることができない。

 稀に慌てるような素振りを見せるのだから、感情が無いわけではない筈だ。


 と、そこまで考えて、不意に思い出された案件が思考を支配する。


「それと、冬夏。ご主人様は止めてくれ。いえ。やめてください」


 秋春は懇願した。


「では、何とお呼びすればよろしいでしょうか」


 秋春は視線だけで宙を仰ぎ、逡巡。


「……トッキーで。痛いっ」


 パシーン、と軽快な音が響く。

 ただ打撃を与えて何も言わない遥菜は、視線で非難を訴えていた。


 周囲に日系のいなかった秋春は、発音が難しいせいか変化されることもなく「トキハル」とそのままで呼ばれることが多かったため、ニックネームというものに一種の憧れを抱いていた。


 しかし、である。

 外で、学校で、守護者に「トッキー」等と呼ばれた時のことを想像すると、ぞっとする。


「勿論冗談です。秋春でいいよ。寧ろ、それ以外は駄目」

「はい」


 はっきりと即答する冬夏。

 守護者の承諾である。

 これで他人の前でご主人様、等と呼ばれ、冷たい視線を浴びることもないだろう。


 そうして秋春が零した安堵の溜め息は、


「了解しました、秋春様」

「ですよねー……」


 と乾いた笑顔で零した声が霧散させたことだろう。

 一方、その隣で、


「……」


 人として扱うが故に翻弄され続ける甥っ子とその守護者のやりとりを、遥菜は自分でも気づかない程に優しい眼差しで眺めていた。


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