序章 始まりは血塗られた廃虚で
世の中には二種類の人間が居る
支配する者と支配される者だ
前者は人を従えて己の野望や欲望を叶えようとする強者、後者は人に使われて何もできない弱者だ
だが稀に三種類目の人間も存在する
それは自由を掲げる者だ
何者にも囚われず国や法も関係なしの無法者
そんな人間に子供の頃には憧れたものだ
だがしかし、現実は甘くない
「くだらねぇな…」
その結果がこれだ
俺の目の前には人、人、人
山のように人間が積まれていたのだ
居ると言うよりは在ると言ったようなもんだ
まるで一つの争い事があったかのような惨状だ
「ま、俺がやったんだけどな」
「うっ…」
ふと人の山から声がした
見ると倒れている人間の一人がうめき声をあげて立ち上がろうとしていた
男は何の感情を持たない目でその人間を見た
そして冷たく言った
「まだ生きていたのか まぁいい帰って主に伝えるんだな」
男は踵を返しながら続けた
「何をしても無駄だ テメェらのくだらない思想を粉々に潰してやる ってな―」
そう言うと男は廃虚を後にした
後に残るのは男が起こした惨状だけ―
生存者一名
生き残った男は命からがらで廃虚から走り出した
世の中、報われない人間が多い
自分で定めた理想が高すぎる?
そんなものじゃない、何をしても至られないモノ
それこそが現実であって、よほどの事がない限り覆す事が出来ない
だからこそくだらない思想、理想を求めるだけじゃいけない
行動に移すことで少しは変わる
そう、ほんの少しだ
報われてる人間はその少しでも達成感を感じることが出来る人種だ
くだらねぇ……
その逆もまたしかり
少しの変化で喜べない人間こそが報われない人間だ
そういった人間の中で特に強いものが人の上に立ち、支配者になる
それはそれで結構な事だ
好きにしろ
だがしかし、それで傷つくのは支配される側の人間だ
上に立つ者には逆らえない
上に立つ者が失敗しても切って捨てられる存在
気の毒だとは思う
だけどそれを理由にそういった者だけを善とする事も出来ない
なぜなら俺みたいに自由を選択することも出来たのだ
「ま、それでも俺も善とは言い切れないけどな」
結局の所善とはなんなのだろう?
しばらくそんなことを考えながら歩いていた
そしてとある建物の前で止まった
一見普通の酒場
そう、普通の酒場だ
男は扉をあけてそのまま中に入っていった