ドラマの当て馬御曹司に生まれ変わったけど、俺の見る目はたしかです
【番外編】ドラマの当て馬御曹司に生まれ変わったけど、俺の見る目はたしかです~慎也視点~
ドラマの当て馬御曹司に生まれ変わったけど、俺の見る目はたしかです
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の、番外編
主人公の親友で本来はヒーローの慎也の場合
俺はいつも、あいつが羨ましかった。
皆が言った。俺がすごいと。
あいつが言った。俺には敵わないと。
たしかに……客観的には、そうなのかもしれない。
家格はほぼ同じだったけれど、俺の家――東雲家のほうが総資産では多い。
学校の成績は、座学も運動も俺が一番であいつが二番だった。
異性にはどちらもモテたとは思うし、それは競うことでもないと思うが、大学で行われたミスコンならぬ、ミスターコンテストでは俺が勝った。
勝手に持ち上げられただけで、そのことを自慢したことなど一度もないが。
客観的なそれぞれを考えると、たしかに俺はあいつに勝ってきた。
しかしいつも……俺は負けた気になる。
たとえば遊びに行く時。声をかければ大勢がやってくる。声をかけられることもある。
けれど……近寄ってくる奴らは、俺にすり寄って甘い汁を吸おうとする輩ばかりだった。
まぁ、名家のつながりなんてそんなもので。ほんの一部に心から信頼できる人がいたら、幸運だ。
それが当たり前だ。――当たり前な、はずなんだ。
「拓海! 飲みに行こうぜ」
声に思わずそちらを見ると、幼馴染の拓海が誰かに親しげに話しかけられていた。
「またですか? ついこの間、もう飲まないと言ったのは誰ですか?」
呆れた顔をする拓海に、相手の男は「うっ」と唸っていた。
「うるせー! 今日は付き合えよ」
「……また振られましたか」
「だー! うるせぇっ」
そんな気軽なやり取りに、二人の関係がただのビジネスでないことが分かる。
拓海は、昔からこうだった。
自分の周囲には損得勘定してばかりの奴らが集まるのに、拓海の周りにはビジネスなんて関係ない人が集まる。
男女関係なく。
名家出身かどうかなんて関係なく。
もしも自分が御曹司でなくなれば、周囲の人間はごっそり減るだろうが、拓海が御曹司でなくなっても、きっとそんなに友人が減らないだろう。
柔らかい物腰。飾らない明るい性格。
何もかもに手を差し伸べるお人好しではないけれど、本当に困っている人には影からそっと助け舟を出している男。
ありがとうとお礼を言っても、「何のことかわかりません」と笑顔で返す男。
『けどまぁ、感謝してくれてるなら、今日はそっちのおごりでお願いしますよ』
そんなふうに気まずい空気を軽く流してしまう男。
だから――百合も彼に惹かれ……俺はいつも負けた気になる。
いくらテストで勝ったって。
いくらビジネスで勝ったって。
本当に欲しい女性の心は手に入らない。
けど俺は知っている。
百合は……俺と結ばれるのだ。
なぜか、なんて分からない。けれど、この世界はそうなっていると理解していた。
それは酸素がなければ死んでしまうのと同じ、自然の摂理で。
拳を壁に叩き込む。
「くそがっ」
いくら悪態をついたって、いくら壁を殴ったって、逆らうことなんて出来やしないのだ。
本当は恭弥からすぐに離れさせたかったのに、体がまったく動かせなかった。
守りたいのに指一本動かせず、ただ見るしか出来なかった。
そして彼女本人もまた、そんな苦しみを抱いているのが目に見えた。だって彼女が昔から愛しているのは拓海だけだ。
そんな残酷な世界だったが、ついに百合が恭弥と別れた時は、心臓が高鳴った。
ついに、ついにだ。
百合が俺のもとにやってくる番が来た。
ごくりと唾を飲み込んだ。
彼女の心に拓海が住んでいるのは分かっている。けれど、百合への愛を貫き、彼女を守り抜けば……きっといつか彼女も俺を見てくれる。
そうしたら、ようやく俺はあいつに勝って、解放される。
「……どうした? 嫌いなものでもあったか?」
ディナー中。手を止めた百合に声をかける。彼女は体を震わせながら俯いていた。
こうしてデートを重ねるたびに百合の顔が曇った。誰のことを考えているのか分かる。なのに彼女の口は決められた台本を読み上げるように動く。
「いえ、とても美味しいです」
作られた笑みを無理やり浮かべる百合は、それでもやはり美しい。作られていようがなんだろうが、俺に向かっての笑顔には違いないから。
俺もまた台本を読み上げるように、強制されるセリフを……心を込めて口にした。
――百合への愛を、声に出す。
様々なことが強制される世界の中で、彼女への思いだけが自由だったから。
好きだ。好きなんだ。心から。
本当は分かっている。
百合が俺のところに来ても、彼女は心から幸せにはなれない。
俺の家族は……俺が言うのも何だが、最悪だ。それは恭弥と彼女が付き合っていた時に証明されている。
俺は恭弥と違って家族から彼女を守ることは出来る。だが、それがなんだと言うのだろう。百合が俺の家族から愛されることはない……いや、祖父だけは歓迎してくれるだろうが。
家族から祝福されない婚姻を、百合が喜ぶはずもない。
対して拓海はどうだ?
彼の家族というだけあって、みんな心温かい人たちばかりだ。俺が遊びに行った時も、いつだって温かく出迎えてくれて……どうして自分の家族と違うのかと何度も疑問に思ったものだ。
百合は……この家に嫁げばみんなから祝福され、愛されるだろう。そしてそんな愛を受けた彼女はますます美しくなり、幸せそうに微笑むことが出来るだろう。
こんな強制された笑顔ではなく、心からの笑顔を浮かべるのだろう。
分かっている。分かっているんだ。何が最善なのかなんて。
でもようやくなんだ。ようやく俺は――勝てるのに。
きっと、そんな風に思ってしまうから、百合は俺を選ばなかったのだろう。
掴みかけた勝利は消えた。
百合は去り、二人が抱き合う姿を離れたところから見つめた――ああ、どうしようもないくらいにお似合いの二人じゃないか。
舌打ちして手で顔を覆い、視線を遮った。
脳裏に刻まれた光景は、消えてはくれなかった。
互いに互いの幸せのことを考えている二人。……俺とは、大違いだ。
結局のところ、自分のことばかり考えて、百合に負担を押し付けようとした俺は……家族や俺に集まってくる奴らと一緒だった。
自分の損得ばかり考えているのだ。
類は友を呼ぶとは、本当にそうなのだろう。
何かを叫びたくなって、けど何を叫ぶべきかは分からなくて。
手をどけて再び前を見る。
みんなに笑顔で祝福され、幸せそうに愛を誓い合う二人に、震える手で拍手を贈った。
その瞬間。
ふっと肩の重圧が消えた。いつだって俺を世界に縛るようにそこにあった圧が消え、解放されたのを悟る。
なぜ急に、とは思わなかった。
顔を上げれば、幼馴染と目があった。
俺は笑って降参した――お前には、敵わないよ。
また負けたような気持ちになったのに、なんだかスッキリした。




