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ドラマの当て馬御曹司に生まれ変わったけど、俺の見る目はたしかです

【番外編】ドラマの当て馬御曹司に生まれ変わったけど、俺の見る目はたしかです~慎也視点~

作者: 染舞
掲載日:2026/06/12

ドラマの当て馬御曹司に生まれ変わったけど、俺の見る目はたしかです

https://ncode.syosetu.com/n4054mh/

の、番外編

主人公の親友で本来はヒーローの慎也の場合


 俺はいつも、あいつが羨ましかった。


 皆が言った。俺がすごいと。

 あいつが言った。俺には敵わないと。


 たしかに……客観的には、そうなのかもしれない。

 家格はほぼ同じだったけれど、俺の家――東雲家のほうが総資産では多い。

 学校の成績は、座学も運動も俺が一番であいつが二番だった。


 異性にはどちらもモテたとは思うし、それは競うことでもないと思うが、大学で行われたミスコンならぬ、ミスターコンテストでは俺が勝った。

 勝手に持ち上げられただけで、そのことを自慢したことなど一度もないが。


 客観的なそれぞれを考えると、たしかに俺はあいつに勝ってきた。


 しかしいつも……俺は負けた気になる。


 たとえば遊びに行く時。声をかければ大勢がやってくる。声をかけられることもある。

 けれど……近寄ってくる奴らは、俺にすり寄って甘い汁を吸おうとする輩ばかりだった。


 まぁ、名家のつながりなんてそんなもので。ほんの一部に心から信頼できる人がいたら、幸運だ。

 それが当たり前だ。――当たり前な、はずなんだ。


「拓海! 飲みに行こうぜ」

 声に思わずそちらを見ると、幼馴染の拓海が誰かに親しげに話しかけられていた。


「またですか? ついこの間、もう飲まないと言ったのは誰ですか?」

 呆れた顔をする拓海に、相手の男は「うっ」と唸っていた。

「うるせー! 今日は付き合えよ」

「……また振られましたか」

「だー! うるせぇっ」

 そんな気軽なやり取りに、二人の関係がただのビジネスでないことが分かる。


 拓海は、昔からこうだった。

 自分の周囲には損得勘定してばかりの奴らが集まるのに、拓海の周りにはビジネスなんて関係ない人が集まる。

 男女関係なく。

 名家出身かどうかなんて関係なく。


 もしも自分が御曹司でなくなれば、周囲の人間はごっそり減るだろうが、拓海が御曹司でなくなっても、きっとそんなに友人が減らないだろう。


 柔らかい物腰。飾らない明るい性格。

 何もかもに手を差し伸べるお人好しではないけれど、本当に困っている人には影からそっと助け舟を出している男。

 ありがとうとお礼を言っても、「何のことかわかりません」と笑顔で返す男。


『けどまぁ、感謝してくれてるなら、今日はそっちのおごりでお願いしますよ』

 そんなふうに気まずい空気を軽く流してしまう男。


 だから――百合も彼に惹かれ……俺はいつも負けた気になる。


 いくらテストで勝ったって。

 いくらビジネスで勝ったって。


 本当に欲しい女性の心は手に入らない。


 けど俺は知っている。

 百合は……俺と結ばれるのだ。


 なぜか、なんて分からない。けれど、この世界はそうなっていると理解していた。

 それは酸素がなければ死んでしまうのと同じ、自然の摂理で。


 拳を壁に叩き込む。

「くそがっ」

 いくら悪態をついたって、いくら壁を殴ったって、逆らうことなんて出来やしないのだ。


 本当は恭弥からすぐに離れさせたかったのに、体がまったく動かせなかった。

 守りたいのに指一本動かせず、ただ見るしか出来なかった。

 そして彼女本人もまた、そんな苦しみを抱いているのが目に見えた。だって彼女が昔から愛しているのは拓海だけだ。


 そんな残酷な世界だったが、ついに百合が恭弥と別れた時は、心臓が高鳴った。


 ついに、ついにだ。

 百合が俺のもとにやってくる番が来た。


 ごくりと唾を飲み込んだ。

 彼女の心に拓海が住んでいるのは分かっている。けれど、百合への愛を貫き、彼女を守り抜けば……きっといつか彼女も俺を見てくれる。


 そうしたら、ようやく俺はあいつに勝って、解放される。


「……どうした? 嫌いなものでもあったか?」

 ディナー中。手を止めた百合に声をかける。彼女は体を震わせながら俯いていた。

 こうしてデートを重ねるたびに百合の顔が曇った。誰のことを考えているのか分かる。なのに彼女の口は決められた台本を読み上げるように動く。

「いえ、とても美味しいです」

 作られた笑みを無理やり浮かべる百合は、それでもやはり美しい。作られていようがなんだろうが、俺に向かっての笑顔には違いないから。

 俺もまた台本を読み上げるように、強制されるセリフを……心を込めて口にした。


――百合への愛を、声に出す。


 様々なことが強制される世界の中で、彼女への思いだけが自由だったから。

 好きだ。好きなんだ。心から。


 本当は分かっている。

 百合が俺のところに来ても、彼女は心から幸せにはなれない。


 俺の家族は……俺が言うのも何だが、最悪だ。それは恭弥と彼女が付き合っていた時に証明されている。

 俺は恭弥と違って家族から彼女を守ることは出来る。だが、それがなんだと言うのだろう。百合が俺の家族から愛されることはない……いや、祖父だけは歓迎してくれるだろうが。


 家族から祝福されない婚姻を、百合が喜ぶはずもない。


 対して拓海はどうだ?

 彼の家族というだけあって、みんな心温かい人たちばかりだ。俺が遊びに行った時も、いつだって温かく出迎えてくれて……どうして自分の家族と違うのかと何度も疑問に思ったものだ。


 百合は……この家に嫁げばみんなから祝福され、愛されるだろう。そしてそんな愛を受けた彼女はますます美しくなり、幸せそうに微笑むことが出来るだろう。

 こんな強制された笑顔ではなく、心からの笑顔を浮かべるのだろう。


 分かっている。分かっているんだ。何が最善なのかなんて。


 でもようやくなんだ。ようやく俺は――勝てるのに。




 きっと、そんな風に思ってしまうから、百合は俺を選ばなかったのだろう。

 掴みかけた勝利は消えた。


 百合は去り、二人が抱き合う姿を離れたところから見つめた――ああ、どうしようもないくらいにお似合いの二人じゃないか。

 舌打ちして手で顔を覆い、視線を遮った。

 脳裏に刻まれた光景は、消えてはくれなかった。


 互いに互いの幸せのことを考えている二人。……俺とは、大違いだ。


 結局のところ、自分のことばかり考えて、百合に負担を押し付けようとした俺は……家族や俺に集まってくる奴らと一緒だった。

 自分の損得ばかり考えているのだ。


 類は友を呼ぶとは、本当にそうなのだろう。


 何かを叫びたくなって、けど何を叫ぶべきかは分からなくて。

 手をどけて再び前を見る。


 みんなに笑顔で祝福され、幸せそうに愛を誓い合う二人に、震える手で拍手を贈った。


 その瞬間。


 ふっと肩の重圧が消えた。いつだって俺を世界に縛るようにそこにあった圧が消え、解放されたのを悟る。

 なぜ急に、とは思わなかった。

 顔を上げれば、幼馴染と目があった。


 俺は笑って降参した――お前には、敵わないよ。


 また負けたような気持ちになったのに、なんだかスッキリした。




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