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第七章 大学祭前夜

十一月が近づくにつれ、葵の展示の準備は最終段階に入っていた。

「大学の七十年史」という企画タイトルのもと、葵は写真や文書、学生の証言など、大量の資料を集めていた。その中に、蒼たちが見つけた昭和四十年代の記録も含まれる予定だったが、そこで一つの問題が起きた。

学内の展示審査委員会から、文書の内容について確認が求められた。

「個人の医療情報が含まれている可能性があります。一部の資料については、掲示を控えていただく必要があるかもしれません」という文書が来た。署名欄には、永田教授の名前があった。

四人が集まったのは、大学祭の一週間前だった。

「やっぱり、気づかれた」と文乃が言った。

「葵の展示申請に医学部の資料が含まれていたから、永田先生のところに話が行ったんだと思う」と三上は言った。彼の顔は硬かった。「これ以上進めると、正式に止められるかもしれない」

「止められる前に何かできることはある?」と葵が言った。

「展示に含める資料を選ぶことはできる」と蒼は言った。「全部を出す必要はない。被験者名を特定できるものは出さない。ただ、『この大学にはなかったことにされてきた時期がある』という事実は、何らかの形で示せると思う」

「それだと、核心には触れられない」

「今は触れない方がいい」と三上が静かに言った。全員が彼を見た。

「俺はこの件が、感情的な告発になってほしくない。本当に問題があったとすれば、それは学術的に、正式な手続きを踏んで明らかにされるべきだと思う。だから、今の展示では記録の存在を示すにとどめて、それをきっかけに正式な調査を求める方向がいいんじゃないか」

誰も反論しなかった。

蒼は三上を見た。彼はずっと、祖父のことを抱えたまま、ここまで来ていた。それでもこういう言葉が出てくる。

「三上の言う通りだと思う」と蒼は言った。「葵、展示の中で、こういう表現はどうだろう。『この大学の歴史には、未整理のまま残る記録がある。私たちはその存在を記録し、問いを次の世代に引き継ぐ』」

葵はしばらく考えた。

「……それでいいと思います。問いを立てること、それ自体が展示の仕事だと思うから」


前日の夜、蒼は一人で診療所に寄った。バイトの日ではなかったが、橘が来ているかもしれないと思ったのだ。

橘はいた。

桐山と話を終えたところで、外に出ようとしていた。蒼を見ると、老人は少し驚いたような顔をした。

「明日、大学祭があります」と蒼は言った。「展示に来てもらえますか」

橘はしばらく蒼を見た。

「来て欲しいんです。橘ハルコさんのことが、形になっています。全部ではない。でも確かに、何かが残ります」

老人は引き戸の取っ手を握ったまま、しばらく動かなかった。

「……迷惑じゃないか」

「来てほしいと思っています」と蒼は言った。

橘は頷かなかった。ただ、「わかった」と言った。

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