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デストロイクリミナル!  作者: さよなライオン


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第5話 地獄の将軍とエプロン

 レオの足を治してから数日。  俺、杉田大智の村での扱いは、劇的に変化していた。


「ダイチ様!朝採れのトマトです! ぜひ召し上がってください!」


「賢者様! うちの牛が産気づいたのですが、名前をつけていただけませんか!」


「ダイチ様、私の腰痛を『圧迫』して治してください!」


 村を歩けば、貢物が届き、相談が舞い込む。完全に「村の守り神」扱いだ。


「……これ、バレた時が一番怖いな」


 俺はボロ小屋(現在は『賢者の庵』と呼ばれている)のリビングで、大量の野菜に囲まれながら冷や汗を拭った。俺ができるのは、簡単な応急処置と、ネットで見た雑学の披露だけ。魔法も剣技もゼロだ。だが、隣にいる天然聖女アテナは、今日も目を輝かせている。


「さすがダイチさん! 人徳ですね! 私も鼻が高いです!」


「あ、うん。……ありがとう(胃が痛い)」


 そんな平和な午後。恒例行事となりつつある「村長の全力疾走」が、静寂を破った。


「た、た、大変じゃあぁぁぁっ!!」


 バンッ!と扉が開く。村長ハンスが、前回の倍の形相で飛び込んできた。


「ハンスさん、落ち着いて。また誰か怪我を?」


「違う! 魔物じゃ! 森の奥に、とんでもない化け物が現れたんじゃ!」


 魔物。その単語を聞いた瞬間、俺の心臓がキュッと縮んだ。この村は平和じゃなかったのか。


「目撃した狩人によると……身長は二メートル越え! 全身筋肉の鎧!顔には歴戦の傷跡!あれは間違いなく『オーク・ジェネラル(豚鬼将軍)』……いや、『オーク・キング』かもしれん!」 「……キング」


 終わった。  オークといえば、ファンタジーの定番にして、初心者殺しの筆頭。しかもジェネラルとかキングとか、明らかにラスボスクラスの称号がついている。


「村の若者たちで討伐隊を組みましたが、震えて動けません! どうか賢者様、そして聖女様! あのような魔物を野放しにすれば、村は全滅です! お助けください!」


 村長が土下座する。無理だ。勝てるわけがない。俺は断ろうと、丁寧に土下座の構えをとった。 だが、アテナが立ち上がり、キリッとした顔(でも足は震えている)で言った。


「わ、わかりました! 私たちが……いえ、ダイチさんがなんとかします!」


「えっ」


「だってダイチさんは、あの時『俺がずっとそばにいる』って言ってくれましたもんね! 村の平和も、私のことも、守ってくれるんですよね?」


 純真無垢な瞳で見つめられる。……逃げられない。ここで逃げたら、俺はこの世界での居場所を失う。それは即ち、再びあの「死にゲー」へのリターンを意味する。


「……あ、ああ。任せておけ」


          ***


 村外れの森。俺とアテナは、茂みに隠れてその「化け物」を観察していた。


 いた。焚き火の前に、そいつは座っていた。


 デカい。岩山のような巨体。緑色の皮膚は鋼鉄のように硬そうで、口からは鋭利な牙が飛び出している。  手には身の丈ほどもある巨大な棍棒……いや、あれは――。


「……お玉?」


 俺は目をこすった。オーク・ジェネラルらしき巨漢は、巨大な鉄鍋を前に、丸太のようなお玉を握りしめていた。そして、何やら涙を流しながら唸っている。


「ブモォ……ブモォォ……」


「ひっ……!だ、ダイチさん、あいつ殺る気満々ですよ!鍋で人間を煮込むつもりです!」


「ま、待てアテナ。様子がおかしい」


 アテナが聖なる光をチャージし始めたのを慌てて止める。俺の「現代っ子センサー」が、微かな違和感を捉えていた。


 あの鍋から漂ってくる匂い。あれは、腐肉の悪臭ではない。むしろ、煮込まれた根菜の甘い香りだ。だが、オークはひどく落ち込んでいる。お玉で味見をしては、首を振り、地面を叩いて嘆いている。


(もしかして……料理に失敗したのか?)


 俺の中に、ある仮説が浮かんだ。もし外れたら死ぬ。即死だ。だが、このままアテナが攻撃魔法をぶっ放せば、反撃されて確実に全滅する。ならば、賭けるしかない。


「アテナ、待機だ。俺が交渉してくる」


「ええっ!? 危険ですよ!?」


「大丈夫。……奴からは『殺気』を感じない。『食気』だけだ」


 俺は震える膝を叩き、茂みから姿を現した。


「そこの御仁。何やらお困りかな?」


 できるだけ低い声で、威厳たっぷりに声をかける。  オークがギロリとこちらを向いた。


「ブモッ!?(人間!?)」


 怖い。顔が怖すぎる。傷だらけの顔面が至近距離に迫る。俺は失禁しそうになるのを堪え、鍋を指差した。


「いい香りだ。だが……何かが足りない。そう嘆いているように見えたが?」


 オークが目を見開いた。図星だったらしい。

 彼はコクコクと激しく頷き、お玉でスープをすくって俺に差し出した。

 「飲んでみろ」ということか。毒見か? いや、これを拒否したら棍棒(お玉)で殴殺される。俺は覚悟を決めて、スープを一口飲んだ。


「……なるほど」


 味は悪くない。猪肉と香草、根菜が煮込まれている。だが、雑味がすごい。血抜きが不十分な肉の臭みと、野菜のエグみが喧嘩をしている。


「素材は一級品だ。だが、お前は詰め込みすぎた」


 俺は賢者モード(ハッタリ)で解説を始めた。


「愛が重いんだよ。全ての食材を主役にしようとして、結果として調和が崩れている。……これを貸せ」


 俺はオークからお玉を奪い取った。  そして、鍋の表面に浮いている灰色の泡――「アク」を、丁寧にすくい取り、捨てた。


「ブモッ!?(何をするんだ貴様!?)」


「黙って見てろ。これは『魂の浄化』だ」


 適当なことを言いながら、ひたすらアクを取る。  この世界に「アク取り」という概念があるかは知らないが、料理の基本だ。そして、懐から出した(朝食の残りの)岩塩を少々振りかける。


「……飲んでみな」


 俺はお玉をオークに返した。オークは半信半疑でスープを口に運び――。


 カッ!!


 オークが目を見開いた。次の瞬間、その凶悪な目から滝のような涙が溢れ出した。


「ブ、ブモォォォォォォ!!(う、美味いぃぃぃぃ!!)」


 雑味が消え、素材の旨味が透き通るように喉を通る。ただアクを取って塩を入れただけだが、原始的な調理しか知らないオークにとっては、魔法のような変化だったらしい。


 オークはその場に平伏し、地面に頭を擦り付けた。


「ブモ! ブモモ! ガロン、オマエ、シショウ、ツイテイク!(我が名はガロン! 貴方様を師匠と呼び、一生ついていきます!)」


「……え? 喋れるの?」 「ブモ(片言ですが)」


 どうやら、胃袋を完全に掴んでしまったらしい。


 そこへ、アテナが杖を構えて飛び出してきた。


「ダイチさん! 無事ですか! 今すぐその化け物を浄化し……え?」


 アテナが見たのは、土下座する巨大なオークと、腕を組んで頷く大智の姿。


「……あ、アテナ。紹介するよ。新しい仲間のガロンだ」 「な、仲間……?」


「ああ。彼もまた、料理という迷宮に迷い込んだ子羊だったのさ。……少し顔は怖いが、悪い奴じゃない」


 ガロンはアテナに向かって、ニカッと笑った。 そして懐から、小汚い布切れを取り出し、腰に巻いた。……エプロンのつもりらしい。


「す、すごいですダイチさん! 言葉も通じない魔物を、拳一つ交えず、威圧感だけで屈服させるなんて……! 『魂の浄化』って聞こえましたけど、邪悪な気をスープごと消し去ったんですね!?」


「ま、まあね(アク取っただけだけど)」


 こうして。俺たちのパーティに、最強の前衛にして、心優しき料理番「豚鬼将軍ガロン」が加わった。


 彼が作る料理は絶品で、彼が薪を割ると一撃で森が揺れる。村人たちは最初は悲鳴を上げて逃げ惑ったが、ガロンが作った特製シチューを一口食べると、あっという間に彼を受け入れた。


 賢者、聖女ポンコツ、そしてエプロン姿のオーク将軍。カオスな食卓を囲みながら、俺は思った。


 これだ。この賑やかで、温かい場所。俺は今、人生で一番幸せかもしれない。

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