表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デストロイクリミナル!  作者: さよなライオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/20

第17話 デスマッチ

「いけぇぇっダイチ! お前が死んだら、その最強の短剣は俺が形見として大事に使ってやるからな!」


「縁起でもないこと言うな! あと絶対にやらねぇよ!」


「ダイチさーん! 勝ったらボクに焼き肉奢ってね!」


「なんで命がけで戦ってんのに俺が奢る側なんだよ!」


「へへっ、ダイチが死ぬ方に銀貨一枚賭けといたぜ!」


「ザックお前は後で絶対殴る!!」


 商業国家アルカナの裏の顔、『地下闘技場』。

 すり鉢状のコロシアムの底で、俺はたった一人、無銭飲食(金貨四枚不足)の代償としてデスマッチのリングに立たされていた。

 鉄格子の向こうの観客席最前列では、アホ三連星がポップコーンを片手に完全に「見世物」として俺を応援(?)している。


『さぁぁぁぁ! 今夜のメインイベント! 無銭飲食で叩き込まれたヒョロガリの鍛冶師に対するは――!』


 闘技場に響き渡る実況の声。

 反対側の鉄格子が、ギギギと重々しい音を立てて開いた。


『闘技場無敗の絶対女王! 木刀一本で死地の山を築き上げる、冷徹なる銀の刃! クロエェェェェ・フォン・アインツベルンだぁぁぁっ!!』


 歓声が爆発する。

 砂埃の中から現れたのは、見上げるような巨漢のバケモノ――ではなく、目を疑うほど美しい少女だった。


 月光のように輝く銀色の長髪。透き通るような白い肌。

 感情の一切を削ぎ落としたような、氷のように冷たい青い瞳。

 そして彼女の手には、実況の言う通り、古びた『木刀』が一本だけ握られていた。


「……木刀? デスマッチなのに?」


「おいダイチ! 相手は女の子だぞ! しかも木刀! お前、手ぇ抜いたら俺が許さねぇからな!」


 鉄格子の向こうからレオンが大声を上げる。


「抜くわけないだろ! 無敗って言ってたぞ!」

「……ええ。手加減など無用です」


 クロエが、凜とした、だが底冷えするようなクールな声で応じた。


「私はこの試合、絶対に勝たねばならない。昨日購入した『持っているだけで大富豪になれる黄金のタヌキの置物(金貨三百枚)』のローンを返すために」


「……思いっきり詐欺に引っかかってるじゃねぇか!!」


 俺の渾身のツッコミが闘技場に響き渡った。

 コイツ、見た目は氷のクールビューティーなのに、中身は絶望的なカモだ!


「詐欺ではありません。現にこの木刀も、『これを振ればどんな聖剣もへし折れる覇王の木刀(金貨五十枚)』としてセットで買った由緒正しき――」


「それその辺の木を削っただけだよ! 値札のシールまだ裏に貼ってあるぞ!」


「問答無用。いきます」


 クロエがスッと木刀を構え、地を蹴った。

 ――速い!

 冗談抜きで、瞬きする間に距離を詰められた。


「シッ!」


 鋭い呼気と共に振り下ろされた木刀。

 俺は咄嗟に懐から『アンチ・マジック・ダガー』を抜き、横に転がって回避した。


 ――ドゴォォォォォォンッ!!


「はぁ!?」


 木刀が叩きつけられた石畳のリングが、まるで大砲を撃ち込まれたかのようにクレーター状に粉砕された。凄まじい風圧で俺の体が吹き飛びそうになる。


「嘘だろ!? ただの木刀だぞ! どんだけ筋力と身体強化の魔法使ってんだ!」


「うおおおおっ! すげぇ! ダイチ、今のを短剣で受け止めてみろ!」


「腕が粉微塵に吹き飛ぶわバカレオン!!」


 俺がツッコミを入れながら逃げ回る間にも、クロエは無表情のまま、ミサイルのような踏み込みで連続攻撃を仕掛けてくる。

 ブンッ! ドガァン!

 彼女が木刀を振るうたびに、リングが砕け、衝撃波が巻き起こる。圧倒的な手数と、一切の無駄がない完璧な剣術。

 どんな魔法も切り裂く俺のダガーだが、俺自身の動体視力と運動神経が追いついていない!


「くそっ、このままじゃ体力が……!」


 焦る俺の耳に、鉄格子の向こうからザックの声が届いた。


「ダイチ! あのお姉ちゃん、さっきからお腹がキュルキュル鳴ってるぜ! たぶんタヌキの置物買って、ご飯食べるお金ないんだ!」


 ザックの異常な聴力が、クロエの唯一の弱点を看破した。

 見れば、クロエの氷のような表情の奥で、ほんのわずかに脂汗が浮いている。


(……いける!)


 俺は迫り来るクロエに向かって、ダガーを持たない左手をスッと前に突き出した。


「待て! 俺を倒しても金貨一枚にしかならないぞ!」


「……? それがルールです」


「だが! 俺は『黄金のタヌキの置物の効果を百倍にする、伝説の激レアパン』を持っている!」


「……ッ!」


 クロエの動きが、空中でピタリと止まった。

 その氷のようにクールな瞳が、ハシビロコウのように限界まで見開かれている。


「で、伝説の……?」


「そうだ! ザック! 今だ、アレを投げろ!」


「アイアイサー! 厨房からくすねたただの丸パンだ!」


「余計な情報言うな!」


 ザックが鉄格子の隙間から、丸パンをリングの中央へ放り投げた。

 クロエの視線が、宙を舞うパンに完全に釘付けになる。クールな顔つきのまま、口から一筋のヨダレが垂れた。


(今だァァッ!!)


 俺は全速力で踏み込み、クロエの手に握られた『覇王の木刀(大嘘)』に向かって、アンチ・マジック・ダガーを横薙ぎに振り抜いた。


 ――スパーンッ!!


「あっ」


 極限まで鍛え抜かれた無銘の短剣は、クロエの木刀をいとも容易く、まるで豆腐のように真っ二つに切断した。

 パンをキャッチしようとしていたクロエは、手の中で軽くなった木刀の柄を見て、ポカンと口を開けた。


「……私の、金貨五十枚の覇王の木刀が……」


「勝負ありだ! お前の武器はもうない!」


 俺がダガーを突きつけると、クロエはペタンと地面に座り込み、手の中のパンを無表情のまま「もぐもぐもぐ……」と猛スピードで食べ始めた。


「……美味しいです。タヌキの効果が百倍になりそうな味がします」


「だからただのパンだっての!」


『あ、あーっと! 絶対女王クロエ、まさかの武器破壊により戦闘不能! 勝者、ヒョロガリの鍛冶師だぁぁぁっ!』


 実況の声と共に、観客席から大ブーイングと怒号が巻き起こる。

 八百長だ、金返せと暴動寸前の騒ぎになった。


「ヤバい、これ絶対生きて帰れないパターンだ!」


 俺はダガーを一閃し、レオンたちが閉じ込められていた鉄格子の鍵を強引に叩き斬った。


「お前ら! 暴動に乗じて逃げるぞ! 走れ!」


「おう! 焼き肉は逃げ切ってからだな!」


「だから奢らねぇって!」


 俺たちが闘技場の裏口へと猛ダッシュした、その時。


「――お待ちください」


 背後から、パンを完食して口元を拭ったクロエが、クールな表情のまま猛スピードで並走してきた。


「ひぃっ!? なんだお前、まだやる気か!?」


「いえ。私に伝説のパンを恵んでくださったご恩、そして私の木刀を容易く折るその見事な剣さばき(ダガーの性能)。あなたこそが、私の真のマスターです」


「主!?」


「はい。タヌキの置物のローンを肩代わりしてくださるんですよね? 一生ついていきます」


「誰が肩代わりするかバカァァァァッ!!」


 俺の絶叫が地下通路に響き渡る。

 アホでうるさい三連星に、クールな顔して借金まみれの凄腕騎士ポンコツまで追加された。


 ――そして。

 俺たちが裏口の扉を蹴り破って外に飛び出した瞬間。


「あ」


「えっ」


 目の前には、白銀の鎧を着た数十人の集団――『神殿騎士団』が、松明を掲げて完全包囲の陣を敷いていた。


「……見つけたぞ、異端の鍛冶師。さぁ、神の裁きを受けよ」


 氷のような微笑を浮かべる騎士団長。

 闘技場の追手。目の前には神殿騎士団。さらに仲間は全員ポンコツ。

 俺の異世界サバイバルは、かつてない絶望の崖っぷちに立たされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ