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デストロイクリミナル!  作者: さよなライオン


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第15話 揺れる国境の攻防戦

「腹減ったぁぁぁ……! 俺の胃袋が悲鳴を上げてるゥゥゥッ!」


「お頭、静かにしてよぉ。余計にお腹すくじゃないか……」


「ダイチぃ〜、あのキノコ食えねぇかな? すっげぇ綺麗なピンク色してるけど」


 神殿騎士団から逃亡して三日。

 俺たちポンコツ四人組は、隣国へと続く薄暗い森の中を、ゾンビのようにフラフラと歩いていた。


「ザック、その『いかにも』な猛毒キノコを今すぐ捨てろ。触った手で目をこするなよ、最悪失明するぞ」


「ヒィィッ!?」


 慌ててキノコを放り投げるザックに、俺は深い深いため息をついた。


「お前らなぁ、少しはサバイバル能力ってもんを持てよ。なんで冒険者やってんだ」


「ふはは! 俺たちは常に街を拠点とするシティ派冒険者だからな! 野宿なんて管轄外だ!」


「宿代払えなくて物置部屋に住んでたホームレスがどの口で言ってんだよ!」


 俺がレオンのツンツン頭にチョップを入れると、「いってぇ!」と情けない声が森に響いた。


 俺の手配書が回っている以上、堂々と街道を歩くわけにはいかない。そのため、獣道を抜けて隣国『商業国家アルカナ』を目指しているのだが、この三人の足手まといっぷりは想像を絶していた。

 レオンは無駄に素振りをして体力を消費し、モグは小太りのくせに体力がなく五分おきに休憩を要求し、ザックは光る虫や変な植物に手を出しては奇声を上げている。

 しかも俺は俺で、へし折れた肋骨が治っていないため、走ることすらままならない満身創痍状態だ。


「……あ、光が見えた! 森の出口だ!」


 先頭を歩いていたモグが、杖を放り出して駆け出した。

 木々を抜けた先、そこは切り立った崖だった。崖と崖の間には、下を激流が流れる巨大な『嘆きの渓谷』が口を開けており、向こう岸へと渡る古びた吊り橋が一本だけ架かっていた。


「よっしゃぁぁっ! あの橋を渡れば隣国だ! 俺たちの勝利だぜ!」


 レオンが両手を突き上げて歓喜の雄叫びを上げる。


「よーし、そうと決まればさっさと渡るぞ! あっちの国に行けば美味い飯が待って――」


 レオンが吊り橋に足を踏み入れようとした、その瞬間。


「――おっと。そこから先は通行止めだぜ、お尋ね者さんよ」


 吊り橋の向こう岸から、ガラガラのダミ声が響いた。

 現れたのは、全身を返り血で汚したような物騒な革鎧を着た、三人の男たち。

 先頭に立つのは、レオンの倍はありそうなガチムチの巨漢。その手には、牛でも一刀両断できそうな巨大なバトルアクスが握られている。


「ヒッ……賞金稼ぎの『血塗られた牙』だ!」


 ザックが顔面を蒼白にして後ずさった。


「知ってるのかザック!?」


「ああっ、同業者(同業者)殺しで有名なヤバい奴らだ! 懸賞金のかかった獲物なら、どんな汚い手を使っても狩るって噂だぜ!」


 巨漢の男が、ニチャリと嫌な笑みを浮かべてこちらを指差した。


「教会の手配書を見たぜ。黒髪に奇妙な服……大当たりだ。そこの鍛冶師の首、金貨百枚で頂くぞ!」


「ひゃ、百枚!? 俺の首ってそんなに高いのかよ!」


 俺がツッコミを入れる間もなく、レオンが大剣を抜いて前に出た。


「なめるな! 俺は将来魔王を倒す『奇跡の三連星』リーダー、レオンだ! ダイチの首は俺のダチの首だ! 指一本触れさせねぇ!」


「おうおう、威勢がいいねぇ。だがな、小僧――」


 巨漢がバトルアクスを肩に担ぎ、吊り橋の上をドスドスと歩いてくる。


「強さってのは、筋肉と暴力が全てなんだよォッ!!」


 巨漢が咆哮と共に、大斧を振り下ろしてきた。

 レオンも「うおおおっ!」と大剣を横薙ぎに振るう。

 だが。


「必殺、ライトニング・ハリケーン……あ、ヤベッ」

 

 ドガァァァンッ!!


「……お約束すぎるだろッ!!」


 レオンの大振りの剣はまたしても狙いを外し、あろうことか『吊り橋の極太のワイヤーロープ』にガッツリと挟まって抜けなくなってしまった。

 完全に無防備になったレオンの頭上に、巨漢の大斧が迫る!


「死ねェッ!」


「お頭ぁぁっ!!」


 俺は咄嗟に動いた。

 肋骨の痛みを気力で無視し、懐から『アンチ・マジック・ダガー』を抜いて滑り込む。


 ――キィンッ!!


 無銘の短剣が、大斧の刃を下からカチ上げた。

 魔法を一切通さず、極限まで鍛え抜かれた鉄の塊。

 斧の軌道がわずかに逸れ、レオンの鼻先数ミリをかすめて橋の板を叩き割る。


「なんだァ!? この俺のフルスイングを、そんなオモチャみたいな短剣で弾いただと!?」


「……痛ぇぇぇ!! 腕ちぎれるぅぅぅ!!」


 短剣の性能は最強でも、俺の腕力は村人Aだ。衝撃を殺しきれず、右腕が痺れて完全に感覚を失ってしまった。

 一撃防ぐのが限界だ。このまま正面から殴り合えば、間違いなくミンチにされる。


「お前ら! ボーッとしてる暇はないぞ! 俺の指示通りに動け!」


 俺の怒声に、硬直していた三人がハッと我に返った。

 ここはグラグラ揺れる細い吊り橋の上だ。まともに動けないのは敵も同じ。なら、この足場の悪さを最大限に利用してやる!


「ザック! 橋の下(裏側)に潜り込め! 敵の足元から『あるモノ』を狙え!」


「あ、あるモノ!? わ、わかった、アイアイサー!」


 ザックが猿のような身軽さで橋の欄干を乗り越え、板の裏側へと張り付いた。


「モグ! 敵の後ろにいる二人の賞金稼ぎを狙え! お前のチャッカマン魔法で、あいつらの『足元の板』に火をつけろ!」


「ええっ!? 板を燃やしたら橋が落ちちゃうよぉ!」


「お前の火力じゃ板なんて燃え尽きねぇよ! ただ熱くしてビビらせろ!」


「なるほど! 我が右手に封じられし炎よ……ええい、燃えろぉっ!」


 モグの杖から放たれた小さな火球が、後方に控えていた賞金稼ぎの足元に着弾し、チロチロと燃え始めた。


「うおっ!? なんだこれ、熱っ! 火だ!」


「おいバカ、踏んで消せ! 靴が焦げるだろ!」


「踏んだら靴底が熱いんだよ!!」


 敵の増援二人が、足元の小さな火を消そうとタップダンスのように暴れ始めた。

 その結果。


 グラッグラッグラッ!!


 ただでさえ古い吊り橋が、大人二人の激しいステップによって、まるでブランコのように大揺れし始めたのだ。


「うおぉぉっ!? おいお前ら、揺らすな! バカヤロウ!」


 巨漢が斧を杖代わりにしてバランスを崩す。

 その隙を、俺は見逃さなかった。


「ザック! 今だァァッ!」


「お宝、頂戴いたしまぁぁぁす!!」


 橋の板の隙間から、ザックの手がスッと伸びた。

 その手には、先ほどまで持っていたナイフ――ではなく、巨漢のズボンを留めていた『革のベルト』がしっかりと握られていた。


「は?」


 巨漢がマヌケな声を上げた瞬間。

 重い革鎧のズボンが、重力に従ってスポンッと足首まで落ちた。


「なっ!? 俺のズボンが! スースーするゥゥッ!?」


 男の尊厳(真っ赤なパンツ)が渓谷の風に晒される。

 慌ててズボンを引き上げようと、巨漢が両手で斧を手放した。


「レオン! トドメだ!!」


「おうよォォッ!!」


 大剣がワイヤーに挟まって動けないレオンが取った行動。

 それは、剣の柄を握ったまま、全体重をかけて橋をさらに激しく『上下』に揺らすことだった。


「いななけ俺の筋肉ゥゥゥ!! 神馬・大暴れスタンプゥゥッ!!」


 バンッ! バンッ! バンッ!


「ぎゃあああっ!? やめろ、ズボンが、ズボンがぁぁ!」


 激しい縦揺れと、足首を拘束するズボンのコンボ。

 たまらず巨漢はスッテンコロリンと橋の板に仰向けに転倒した。


「よし、チェックメイトだ」


 俺は痛む体を引きずり、転倒した巨漢の横に落ちていた『巨大なバトルアクス』を拾い上げた。

 いや、重すぎて持ち上がらないので、柄の部分をダガーで切断した。スッパリと、まるでバターを切るように。


「あ……俺の、金貨二十枚の大斧が……」


「大人しく帰れ。それとも、パンツ一丁で橋からダイブするか?」


 俺がダガーの切先を突きつけると、巨漢は涙目で首を横に振った。

 後ろでタップダンスを踊っていた二人も、武器を捨てて完全に戦意を喪失している。


「俺たちの……完全勝利だぜぇぇっ!!」


 レオンがワイヤーから大剣を引き抜き、高らかに宣言した。

 ザックが橋の下から這い上がり、モグが安堵のため息をつく。

 物理特化の武器と、ポンコツだが噛み合った謎の連携。俺たちは見事、賞金稼ぎのガチ勢を撃退したのだ。


          ***


「ハァ……ハァ……ついに、着いたぞ……!」


 吊り橋を渡り切り、俺たちはついに隣国『商業国家アルカナ』の領地へと足を踏み入れた。

 目の前には、巨大な石造りの関所と、行き交う商人たちの活気ある声。

 逃亡生活からの解放。美味い飯。ふかふかのベッド。


「よぉーし! さっそく街に入って、肉と酒だぁぁっ!」


「ボク、甘いお菓子が食べたい!」


 はしゃぐレオンたちと共に、俺も自然と笑みを浮かべて関所の門へと向かった。

 だが。


「止まれ。入国審査だ」


 鉄の槍を持った、厳つい門番が俺たちの前に立ちはだかった。


「お前ら、身分証はあるか? なければ、入国税として一人につき『銀貨五枚』、四人で『金貨二枚』だ」


「…………え?」


 門番の言葉に、俺たち四人の動きが完全にフリーズした。

 銀貨五枚。

 金貨二枚。


 俺は、そっと自分のポケットを探った。空っぽだ。

 レオンを見た。目を逸らされた。

 モグを見た。泣きそうになっている。

 ザックを見た。「さっきのオッサンのベルトならあるぜ!」と親指を立てている(売れるかそんなもん)。


「あの……その。分割払いとか、労働で返すとかは……」


「金がないなら帰れ! ここは商業国家だ、貧乏人に用はない!」


 門番の冷酷な宣告が、無情にも響き渡る。


「…………」


「…………終わったぁぁぁぁぁっ!!」


 命がけで国境を越えた先で待っていたのは、神の追手でも凶悪な魔物でもなく、「圧倒的資金不足」という名の資本主義の壁だった。

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