デート
深夜十一時。
田中 昴は袋一杯の肉まんを両手に持って公園に現れた。
ブランコの片方に座り、皆家に一つ渡してくる。
「君、バイトしてたんだな」
「うん。両親がいなくてさ。生活費のために。それ、いわゆるヤングケアラーってやつでさ。3歳の弟と半身不随の父親を介護しないといけないんだ」
「大変なんだな」
「気持ちが入ってないねえ」
言葉とは裏腹に彼女は機嫌よく笑っていた。
「こんな弱音、あんたにしか吐けないからさ。ごめんね……」
「もう、辞めたいとか思わないのか?」
すると強い意志の籠った瞳でこちらを見据えてきた。
「あんただってそうでしょ? 入りたくもない学校に入って。でもそこでみんなと打ち解けようとしている。凄いと思う」
「……」
「でも、ひとつだけ言えることは私たちとあんたは明確に違う。あんたはまだやり直せる。だけどもう私たちはこの世界でしか生きていけない」
昴が少し涙ぐんでいるように見えた。
彼女も、あの高校に通う学生も覚悟を持って生きているんだ。
不幸自慢じゃない。ただ一握りの幸せを仲間と共有するために。
「なあ、他にも君と同じような奴はいるのか?」
「例えば悟くんとかはお爺さんの土方の仕事を手伝っているはずだけど」
「そっか…………皆、目の前にある出来ることを少しずつ頑張っているんだな」
「彼は猪突猛進タイプだからさ。目の前にあることしか頭に無くて。今回のLSD事件だってやりすぎてる感じがある。誰かが止めてくれたら良いんだけど……」
皆家は立ち上がり、昴に別れを告げようとしたが――
「ねえ、私に何かあったら弟のことよろしくね」
「は?」
その言葉の意味は直ぐには分からなかった。
決戦当日。廃工場にて。
時間になっても昴は現れなかった。
豪は何度も昴に連絡を入れていたが繋がらない。
悟は目の前の巨漢にメンチを切っていた。
「いいか。俺が勝てばうちの高校の生徒にLSDは渡すなよ」
「ああ。いいぜ。勝てばな」
巨漢の笑い声が響く。すると廃工場の今いる広場を取り囲むようにしてバイクや集団が現れた。
悟は舌打ちした。
「今どきタイマンなんて古くせえことすっかよ」
悟の圧倒的劣勢。
昴の所在不明。
皆家は頭を回し、仕方なくある人物に連絡を掛けた。
「おい、坂城。昴を探してくれ」
「そっちにいないのか?」
「ああ。頼む」
「…………お前もらしくなってきたな」
通話を切って、皆家は鉄パイプを握った。




