あれから
帰宅する皆家。すると母が微笑みを浮かべていた。
「どうしたの? 母さん」
「お父さんが今日久し振りに帰ってくるんだって」
少し、苛立ってしまった。母にではない。父親にだ。
皆家の兄のことがあってから家に寄り付かなくなった父親。
……何のために家に帰ってくるんだよ。
「お兄ちゃんの好きなカレーを家族みんなで食べましょ」
皆家は悔しくて下唇を噛んだ。こんな現状になってしまって。でも、母だけは昔の暖かい家庭を望んでいる。
――兄と父を恨んだ。
いや、恨む。そんな言葉だけでは言い表せないほどの感情が静かに皆家の心を毒する。
「なあ、母さん。楽になりたいか?」
「どういうこと?」
母はまた笑う。だが、笑いながらも一筋の涙が溢れた。
「あれ? ごめんなさい。泣いちゃった。ほんと、ごめんね…………」
皆家は膝を付いた。自分が悪いんだ。母さんは悪くない。
「母さん。カレー、俺のはチーズ入れてよ」
そう言うしか無かった。
父親が帰宅した。飯は要らないと吐き捨て、皆家の自室で相談をしたいと、母に話した。
「で、何だよ」
「父さん。再婚することにしたんだよ。原澤財閥グループのお嬢さんなんだがな」
「年齢の人?」
「28歳」
――小さく舌打ちした。このロリコンが。
「で、俺や母さんを捨てて再婚したいんだろ。だったら勝手にしろよ!」
「…………お前を迎えようと思っている」
扉の外でグラスが割れる音が響いた。
「鮎子?」
「あんたは座ってろ。母さん! 大丈夫か?」
扉をゆっくり開けると母は動悸しながら座り込んでいた。目の焦点は合わず、ずっと「家族を返してください。お願いします」と呟いていた。
呟いていた。
母をベッドに横にならせたあと父を帰らせる。それから気持ちの整理をするためにコンビニへと向かった。小腹が空いていたので何か食べたら複雑な心境が紛れるかもしれない。
コンビニで適当に商品をカゴに入れてレジに行くと驚いてしまった。
「昴さん!」
「下の名前で呼ばないでよ」
やけに優しい声音で反論したのは悟の仲間のギャル――田中 昴だった。
「あっ、皆家。これ私の連絡先。あと一時間でバイトが終わるからそしたら一緒にあそぼ」
「…………俺の名前、覚えてくれていたんだな」
「うん?」
「いや、分かった」
コンビニから出る。
月は雲で隠れていた。




