喧嘩に向けて
親指の付け根は、依然痛い。
放送室占拠から二日。不良たちの見る目は少し変わったように思えた。
例えば今までなら皆家のことを腫れ物のように話題にもしなかったあいつらが、皆家に話し掛けたのだ。
これには、皆家もかなりおどろいた。
それから体育館裏へと悟に呼び出されたので向かう。
「皆家が来たから集会始めるぞ」
悟の号令が飛ぶといつもの面子は緊張感から少し背が伸びた。
「cbdのLSD混入事件だが……向こうの番長やその取り巻きと喧嘩をすることになった。覚悟しろ」
皆家はつい溜め息を吐いてしまう。すると悟は舌打ちする。こちらを睨みつけて胸倉を掴んでくる。
「てめぇ調子に乗ってんのか?」
「乗ってねぇよ。もう少し頭を使えって思っただけだ」
「んだと?」
「そもそも喧嘩をしたところで解決するかどうかは分からないぞ?」
「あ?」
「LSDなんて入手できる手段は限られている。きっと半グレや暴力団関係と取引して手に入れたんだろう」
「……」
皆家は掴まれていた手を離させた。
「根本から根絶やしにしないと薬物関係は無くならない。それを理解しておけ」
「……分かった」
やけに素直だな。そう訝しんだ皆家。
だがまぁ、話を聞いてくれるのはありがたいことだ。
次にその根本を解消するために思索を凝らす。
「俺は薬物のルートを洗ってみる」
「そんなこと出来るのか?」
「兄がocsに所属しているから。情報は簡単に掴めるだろう」
悟は顎もとに手をやってしばし考えんでいるようだった。
「そうだな……なら頼んだ。確かに何かしっぽが掴めるかもしれない」
それから集会が終わり、皆家は家路についていた。
周囲を見渡し、兄に連絡をかけた。
「もしもし」
「……どうした、了」
皆家了は意を決して兄に訊ねてみた。
「あのさ、学校にLSDが蔓延しているんだ。何か知らないか?」
「……いや、何も知らないな」
「そうか……」
やはり、言えない情報もあるだろうし、兄のような下っ端構成員だとそもそもそこまで情報が回ってこないのかもしれない。
「最近、学校はうまくやれてんのか?」
「おかげさまで」
とか、そんな皮肉を吐いた。
それに兄は苦笑する。低い声で笑う兄を皆家は好きだった。
つい、胸中が温かくなる。
「兄貴。自分の進んだ道をお前が後悔すんなよ」
「分かってるって。さんざん周りに迷惑をかけたからなあ。責任も取るし自分のケツぐらい自分で拭くよ」
格好つけているようだが、本音を言えば至極当然のことを言っているだけなのだ。
「……頼んだぞ」
連絡を切って夜空を見上げた。半月が皆家了を見下ろしていた。




