兄の愚行
時々、どうしても混乱することがある。
あの優しかった兄が反社会的勢力に加担することになったことが、どうしても理解できない。皆家はそんな現実と認識のギャップに感覚が混濁するようになっていた。だからこそ、自暴自棄になり自身も兄を真似た短絡的な行動を取ってしまったのかも知れない。
暗い感情も、ある意味では自傷的な行動も、すべて引っくるめて自分の招いた贖いだろう。
翌日、高校に登校するとある巨漢に因縁を付けられた。
「お前、悟のところの奴か?」
皆家は少し怯えを感じながらも虚勢を張った。
――だが、判断ミスだった。
巨漢は咥えていた煙草を捨て、振り上げた拳で皆家を殴った。
痛い。痛い――!!
足はガクブルと震え、膝が付く。
「みっともねえなぁ。顔上げろ。ライターで目ん玉炙ってやるから」
ヤバい。ヤバい。殺される。
「おい、何してんだ」
巨漢が舌打ちをする。「坂城か。面倒いな」そして、そう言い放ったあとにその男はズボンのポケットに手を入れて去っていった。
「大丈夫か?」
坂城は皆家をゆっくりと立ち上がらせた。
「どうして……」
皆家の疑問に、坂城は複雑な表情をさせながら、
「お前が理解出来ないのも分かる。この学校を取り仕切る悟の門下に入ったのに、危害を加えられたことが分からないんだろう?」
皆家は頷いた。
坂城は顎元をさすりながら、
「逆に言えば、取り仕切る長を気に入らない奴もいるんだよ。そういう奴らが結集して出来た複数の派閥もある。だから気をつけろ」
「クソっ」
「そんなに甘くないんだよ。この学校は」
「…………」
「言っておくが別の派閥に甘い顔を見せるなよ。どっちつかずな態度をすると悟の面子が潰れて、お前、悟から殺されるぞ」
皆家の思考を先回りして釘を差してきた。
「じゃあ、どうすれば……」
「喧嘩慣れしろ」
皆家は首を振った。それだけは出来ない。自分は勉強だけしてきた人間だ。ペンは握るが、拳は握れない。
「何も喧嘩に勝てというわけじゃない。お前には明晰な頭脳がある。それを使って勝負に負けるな。頑張れ」
坂城はそう言い残し、立ち去っていった。
皆家はポケットをまさぐり煙草を取り出す。
「どうしろって言うんだよ……」




