嫌疑
ICで降りて猛スピードで雀荘へと向かう。
その雀荘は時代に取り残されているような場所だった。
バイクから降りて雀荘へと入る。
一歩一歩確かめるように歩いていると硝煙がたかれた。
「伏せろ」
豪の言われたとおりに中腰の姿勢になる。だがやはりむせ込む。
「ちっ。視界が確保できない……どうすれば……」
ごろんとポケットからマルボロが落ちた。
一瞬で頭を回す。
カチンと煙草に火を点けて松明代わりにする。
パンパンパン。銃声がとどろいた。緊張が全身を駆け抜ける。鳥肌が立つ。
全速力で走る。ただひたすらに地面を蹴った。蹴り続けた。
「舐めやがって。遊びじゃねぇんだよ」
そう吐き捨て、周囲を見渡す。
人影が三つ。こちらに向かってくる。
油断するな。
速力は緩めず四十五度方向転換する。
――その時だった。
足に何かがぶつかった。咥えていた煙草が落ちる。
「悟?」
そう、悟だ。なぜか悟が息絶えた状態で床に転がっている。
プチン。皆家の中で何かが切れた。
迫ってきた人の首を絞め、そのままのぼさせる。
豪も同じく、的確に戦ってくれている。
もうなりふり構ってられなかった。
すると彼方からサイレンの音が聞こえだした。
もう時間がない。警察が介入すればこいつらに復讐は出来ない。
一閃。ナイフの一振りが頬をかすめ取った。
「よぉ。皆家。調子はどうだ?」
「よくも悟を……!」
轟が嘲笑を浮かべながら立っている。
そのことが何とも忌々しい。
こいつのせいで。こいつのせいで!
「お前ら。動くんじゃない!」
警察機動隊が小型拳銃を装備しながら侵入してくる。
手形ライトの光が右往左往する。
その瞬間道化師のような笑みを見せて裏口から逃げて行った轟。
「逃げんじゃねぇ!」
追いかけようとしたところを警官に組み伏せられてしまう。
「動くな」
どんどん視界がかすんでいく。
視界がかすんでいく……
目覚めると消毒液の匂いが鼻腔を刺激した。
遅れてここがベッドの中であることが分かる。
――病院か。
傍にいたのは背広姿の男だった。
「……あんたは?」
「刑事の津村だ。今回の歌舞伎町雀荘殺害事件について話を伺ってもいいかな?」
「ああ」
「お前には川田悟殺害の嫌疑が掛けられている。お前は言動一つとっても不利になるかもしれないから気を付けろ」
「病院で事情聴取だけは勘弁してもらいたいな」
「……続けるぞ。川田悟はどうやって死んだと思う?」
「さぁな。俺は別にあんたとクイズをしたいわけじゃない」
「いいから答えろクソガキ!」
「ナイフによる殺傷じゃないのか?」
「どうしてそう思う?」
「……あの現場にいた轟という男はナイフの使い手だった。だからだと思うのだが」
「そうか。あくまでお前はその轟という男のせいにしたいんだな?」
「なに?」
「警察は現場にいた人間を疑うのは必然だ。逆に言えば現場にいなかった人間を疑う必要性が無かったら警察は動かない」
「ということは……」
「もう一度繰り返す。お前には嫌疑が掛けられている。川田悟殺害の被疑者としてな」
「だから言動に気を付けろってことか」
この津村という刑事の精一杯の配慮だったのだろう。言動に気を付けろという言葉は。
何も配慮せず身柄を引っ張ることも出来ただろうに。
「天照廻という半グレグループが関わっている。そいつらを調べれば轟忍の情報が出てくる」
「……分かった。調べてやろう」
津村は病室から出て行った。
「轟……お前だけは絶対に許さない」




