悟の殺害
悟に水をぶっかけてスタンガンを首筋にあてた。
「うわあああああああ」
黒頭巾を頭に被せられて呼吸も間もない中、悟はうめいている。
「ねぶるように殺してやる。覚悟しておけ」
「……天照廻。俺を殺せば高い代償を支払うことになるぜ」
黒頭巾を強引に取られる。喘鳴。喘鳴。喘鳴。
「どんな代償か。見せてもらおうじゃないか。おい、あれ持ってこい」
そう言われて組員が持ってきたのは手回し発電機に電極スティックが取り付けられているものだった。
悟の顔面が引きつる。
そのスティックを悟の胸部に押し当てる。
絶叫。痙攣。失禁。
そして、絶命――
轟は執拗に電極スティックを押し当てた。
今の彼は殺戮の快楽に飲まれている。
「あっけなかったな」
「はい。これで皆家も動く他ないでしょう」
「死体の処理やっておけ」
「かしこまりました」
轟は葉巻に火を点ける。
重厚な味わいを堪能して一息つく。
いつだって、殺害のあとの一服は最高――。
……最高のはずだ。
しかしなんだ。この胸騒ぎは。
雀荘の窓を開ける。
一羽の鴉が飛んでいた。
「呼び出された場所は?」
「東京歌舞伎町の雀荘だ」
「ちっ、東京か……面倒だな。――一応兄さんにも報告しておくわ」
「……なぁ」
「あっ?」
「そんなに遠藤組に貸し売って大丈夫なのかよ」
「……」
夕闇の空で一瞬豪の顔が見えなくなった。
確かに暴力団は貸し借りの世界。貸しを付ければ付けるほどこちらの身が危うくなる。
皆家は一瞬考えたがそれでも……悟を助けるためだったら自己犠牲はいとわない。
返答の代わりに皆家は遠藤組に連絡をした。
「もしもしこちら遠藤です」
「皆家英雄をよろしくお願いします」
「かしこまりました」
「――はい。なんでしょう」
「兄さん。俺だ。了だ……友人が攫われた。他事務所の関与が推察される。手を助けてもらえないか?」
「――どこの事務所だ?」
「ごめん。それは分からない」
「なら無理だ」
「え?」
受話器の向こうで失笑される。
「暴力団も慈善事業じゃないんだ。警察でもない。今までは家族のよしみで協力してやっていたがそれももう終わりだ。分かったな」
「なんだよそれ」
「当たり前だろ。それとも盃飲むか?」
「飲むわけないだろ!」
「だろ? だったら腹決めて盃飲んでいる奴を利用しちゃいけないよな。それがヤクザの世界の常識だ」
「……」
怒りで頭に血が上っていた。
「じゃあエムドックスの件はいいんだな?」
「それは今までの貸し付けの分での清算だ。しっかりやってもらう。覚悟しておけよ」
「それが兄弟に言うことか!」
「お前ってさ、都合がいいな」
プツン。通話が切れた。
呆然としてしまう。すると豪が早くバイクに乗れと急き立てる。
バイクにまたがり豪の腰に手を回す。
「遠藤組の協力は?」
「得られそうにない」
「そりゃあそうだろうな。今までがおかしかったんだ。……よしっ。行くぞ」
話の内容を気にしていない様子で豪はエンジンを掛けた。
首都高速へと目指す。




