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アウトロー・ザ・ビースト  作者: 彼方夢
第二章 新興勢力

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策士

 皆家はあくびを噛み殺しながらリビングに入ると真っ先に鼻腔をくすぐってきたのは甘辛い醤油の焼けた匂いだった。


「あっ、いま目玉焼き作ってるから」


 昴が慣れた手つきで料理をしている。

 それを微笑ましく見ている母親。


「これは了ちゃんの将来も大丈夫ね」


「はい。任せてください」


 つい皆家は苦笑いしてしまう。


「皆家君。よそ行きの服だけどどこか行くの?」

「ああ。ちょっとね」


 シャツの上からジャケットを羽織っている皆家に、少しいぶかしんだ様子でそんなことを言う昴。

 目玉焼きを完食しバッグを肩にかけて玄関を出た。

 バスと電車を乗り継ぎ、とあるカフェに着いた。

 そこには茶髪ロングの美女が席で優雅に雑誌を読んでいた。


「いまどき電子じゃないんすね」

「よく言われる。君、古いタイプの人間だね、って」

 皆家はカプチーノを注文する。


「では、初めまして。英雄さんの付添人である坂島 透子と申します」


「坂島さんって、あの遠藤組若頭の?」


「はい。坂島の妻です」


「ふーん。で、俺を呼び出したわけは?」


「君、いま何年生だっけ?」


「……高校二年生、ですけど」


「偏差値40程度ならFランも怪しいよね」


 つい舌打ちしそうになった。


「何が言いたいんすか。俺も盃飲めってか?」


 透子は首を振った。


「ううん。君には国家公務員になってほしいの」


「は?」


「M・D・O・✕(エム、ドックス)という、新たに官庁独立組織が作られることになったの」


「はい?」


「別班って知っているでしょ? 国家警察の時からの日本のスパイ部隊。

 MDOXが今度のIR事業の際に海外のカジノを徹底的に調べる任務を預かって中国や台湾に派遣されるのよ。その実行部隊の指揮官を任せたい。もちろん、高校を卒業したらね」


「そんなの俺には無理ですよ」


 ――ピッ。


 は?


「いま、ここにICレコーダーがある。あなたが否定した声も録音されている。これがあなたに仕事を依頼した北川組に回ればあなたのお兄さんはもちろん、あなたも殺されるでしょうね」


 皆家はたまらず立ち上がってしまった。


「そんなの脅しじゃないか!」


「ええ。脅しよ。でもこれが任侠の世界なのよ」


「無茶苦茶だ」


「無茶苦茶で結構。この世界にかつてあった道理とか、筋というのはもうとっくに消えてしまったのよ。今いるのは金に貪欲な朝鮮人だけ」


「……」


 透子は立ち上がり、伝票を持って立ち去って行った。

 届けられたカプチーノ。

 味はほとんどしなかった。

 

 カフェからの帰り道。皆家は気落ちしていた。

 自分に関わる大人は碌な人間がいない。

 するとラインの着信が届いた。

 相手は昴からだった。


「明日一緒に買い物に行かない?」


 つい微笑んでしまって、ここが電車の中だと気付いて表情を引き締める。


「いいよ」


 そうメッセージを送るとものの数十秒で大好きとキャラクターが言っているスタンプが送られてきた。やっぱりあいつは可愛いな。

 自宅の最寄り駅で降りてしばらく歩いていると横柄な態度の学生たちが煙草の煙を昇らせていた。


「お前、悟んところの」


 少し、気を引き締める。


「まあそう気張るなって」


 そう言いながら眼鏡の男が近づいてきた。手には収納ナイフが収められている。


「ちょっとお話がしたいんだよね」


「なんだよ」


「お前ってさ。北川組とどういう関係なの?」


「曖昧なことすら答えられない関係だな」


 眼鏡の男のこめかみが反応した。


「おい。今度はちゃんと答えろよ。北川組は《《どこまで狙ってる》》?」


「ん? 狙ってるってどういうことだ?」


「こっちが質問してんだよコラ」


 皆家が腹を殴られ、そして髪を掴まれて目玉にナイフを向けてくる。


「一生光拝めねぇようにしてやろうか」


「……」


「ちっ、舐めやがって。ヅラかろうぜ」


 不良らは立ち去ろうとしたとき、最後に捨て台詞を吐いた。

「一応名乗っておくか。俺たちは天照廻アマテラスカイだ。覚えておけ」


 けたけたと笑いあいながら今度こそ去っていく。

 皆家は透子に連絡を掛けた。


「もしもし。俺です」


「ああ。了くん。どした」


「天照廻って知ってますか?」


「いいえ」


「連中、そっちのこと嗅ぎまわってますよ」


「フフッ」


「なに笑ってるんすか」



「これじゃあまさしく北川組の飼い犬ね。君」


 全身に鳥肌が立った。気持ち悪くて吐き気を催した。

 通話を切った後、電柱の傍で実際に嘔吐した。

 吐しゃ物を見ながら、涙をも流してしまった。

 一線踏み越えることだけはしたくなかった。

 どこか自分は善人でいたかったからだ。

 上流階級にいたときは下層人間のことを見下していた。

 それがいま、立場が転落してツケを払わされている。

 辛い。辛い。辛い。



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