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庭師の俺がなぜかお嬢様に誘われて領地に現れたダンジョンを探索しに行くことになった  作者: けろよん


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第13話 お嬢様の豹変

 ダンジョン攻略の目的を果たした俺たちは、しばらくの間、安堵と達成感に包まれていた。

 お嬢様も無事だったし、何よりも初めてのダンジョン攻略を失敗せずに終えられたことで、俺は心よりの安堵をしていた。


「ふぅ……これで一件落着ですね、お嬢様」


 とは言ってもまだ油断はできない。ダンジョンの主は倒したが、その力はまだ残っている。

 それもマリアが力を制御する事で収まるだろうが、念のために周囲の警戒はおこたらない。

 不意に植物のざわつきを感じたが、それは俺に対する敵意ではなかった。


「お前たちはグレインフィールド家を気に入らないのかもしれないが、もうあの時代の者たちはいないんだ。もう許して眠りについてくれ……」


 俺は深く息をつきながら、心よりそう願った。

 今の時代を生きるお嬢様がゆっくりと振り返って声をかけてくる。


「本当に、カナデさんがいてくれたからこそ、ここまで来られました。ダンジョン攻略も一発で成し遂げられるなんて、あなたは本当に失敗しない人なんですね」

「はい、無事に済んで良かったです」


 その柔らかな声に、俺は心から安堵を感じ、少し肩の力を抜いた。

 だが、その瞬間、突然、空気が変わった。


「カナデさん……まだ気付かないんですか? 私はあなたに失敗して欲しかったんです」


 マリアの声が不意に冷たくなった。

 その変化に俺は一瞬、違和感を覚えた。


「……お嬢様?」


 振り向こうとしたその時だった。


「ぐっ……!」


 鋭い痛みが、背中から体を貫いた。

 息が止まるかと思った。俺の体は勝手に倒れ、地面に落ちる。

 何が起こったか分からない。いや、状況は分かる。マリアに魔法で攻撃されたのだ。だが、理由が分からなかった。


「どうして……? 俺に何かいたらない点がありましたか……?」

「その完璧に仕事をこなす優秀さですよ」


 顔を上げると、そこに立っていたのは微笑むお嬢様の姿。だが、その目は冷徹で、まるで別人のようだった。


「カナデさん……あなたはこのダンジョンでよく私を守って戦ってくださいました。完璧に罠を見抜くあなたに、わざと罠を発動させてみてもなんなく突破してみせて、私がわざと敵の前に飛び出しても守ってくださいましたね。私の努力をこんなにも無駄にしてくださって、ありがとうございます」

「え……?」


 俺には彼女の言っている意味が分からない。杖を向けられると彼女からもらったお守りの指輪から何かが封じられていくのが分かった。


「あなたの魔力を封じました。これであの植物を操る魔法も使えませんよね? さっきのダメージで動く事もできないはずです」

「どうして…… どうしてこんなことを……」


 心の中で叫ぶが、声が出ない。彼女の言った通り深刻なダメージを受けている。植物がざわつくが、彼女には聞こえていないようだった。

 目の前で守り続けてきたお嬢様が、淡々とした口調で言葉を続ける。


「あなたが失敗しないからですよ、カナデさん。戦いに行けなくて退屈している私にとって、失敗した使用人を詰って怒るのが一番の娯楽だったのに……あなたはいつも完璧にこなして、私に一度も怒って叱って慰める機会を与えてくれなかった。無謀なダンジョン攻略ならあなたが怯えて逃げる姿を見られると思ったのに……だから……もう、必要ないんです」


 その言葉に俺は驚愕した。

 マリアがこんなにも冷徹で、そして計算高い人物だなんて……思いもしなかった。

 いや、彼女は隣国と戦争している領主の娘で領地の経営をきちんとこなしている。最初からただの無邪気な好奇心ではない目的がある事に気付いておくべきだったのだ。


「お嬢様……」


 言葉がやっと出た。

 俺はその顔を見つめ、少しずつ理解していく。


 マリアは最初から、俺の力を見込んでダンジョンを攻略したいと思っていたのではなく、俺の失敗を見ることが目的だった。

 当然だろう。本当にダンジョンを攻略したいのなら俺ではなく、ちゃんとした兵士や冒険者を連れていけばいいのだから。

 分かっていた事なのに、そこをそれとなく誤魔化されてここまで来てしまった。

 俺の完璧さが、彼女の神経を逆なで、不満を爆発させてしまった。


「あの優しさや微笑みも、すべて嘘だったんですか……?」

「人に優しくしたいと思っているのは本当ですよ。だからその機会を奪うあなたは敵なんです。あなたのせいで他の使用人たちまで真面目で綺麗な仕事を心掛けるようになったのですから。私はいったい誰を叱ればいいんですか……!?」


 お嬢様の言葉が胸に刺さる。

 そして、その冷徹な目に、少しずつ優しさではない笑みがこみ上げてくる。


「カナデさん、あなたはここで殺します。完璧に仕事をしていた庭師が無謀にもダンジョンに入って死んでしまうなんて、いい気味ですよね? 使用人のみんなもさぞ驚くだろうと思います。そこに私が優しくできる隙ができます」 

「お嬢様……でも、そんな……」

「もう遅いんですよ、カナデさん。私はずっと、あなたが完璧であればあるほど、失敗する姿を望んでいた。でも、とうとう失敗せずにここまで来てしまった。私をいらつかせた責任を取ってくださいね」


 その瞬間、俺はすべてを理解した。

 彼女の目的は個人的な不満であり、そこに国の利害はいっさい関係がないのだと。

 ならば俺もこの問題に個人で立ち向かわなければならない。


「こうなる事はあなたのお父様は……」

「言うわけがないでしょう? あなたは何も悪くないのに、私が悪いみたいに見られるじゃないですか!」


 その言葉を最後に、お嬢様は俺に近づく。

 彼女の表情は、すべての感情を閉じ込めた冷徹なものに変わっていた。


「もううんざりなんですよ、あなたの良い人面には。全部めちゃくちゃにしてあげますから覚悟してくださいね」


 杖を持ち上げて冷たい足音が近づく。だが、俺はまだ諦めたくはなかった。

 そして、薄々気づいていた。

 マリアがこのダンジョンで、ほんの少しだけでも、わざと俺を失敗させようと動いていたことに。


「お嬢様……分かりました。責任を負うべきはあなたと俺だ!」


 俺は声を振り絞って最後の一言を吐く。


「あなたが本当に欲しかったのは、完璧な俺じゃなくて……ただ、失敗する俺だったんですね」

「何をいまさら……」

「ならばこれから俺は失敗するかもしれません。ですが、許してください。そう望んだのはお嬢様なのですから」


 その言葉に、マリアの表情が一瞬だけ変わった。

 だが、すぐにまた冷徹さを取り戻し、言葉を吐き捨てた。


「何を生意気な! この期に及んでまだ泣きつきもしないなんて! あなたはもう、動く事もできないは……ず……?」

「植物に元気を分けてもらいました。時間をかけましたね」

「なんで……」


 驚愕するお嬢様の前で、俺はただ冷静に立ち上がった。

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