はじめに/登場人物
男の顔から笑顔が消えた。
胸から、鋭い刃物のようなものが引き抜かれる。
背中が壁を擦り、体がずるりと沈む。
尻もちをつき、狭い四角い箱の中で、俯く顔。
――静寂。
白いシャツの胸には赤が咲き、床に線を描くように流れた。
エレベーターが一階へ到達する。
――チン。
ドアが開く。
「キャァァァ!」
女の悲鳴が響いた。
その声だけが、無機質なエレベーターホールを突き抜けていく。
駆け込んでくる警備員。その顔から、一瞬で血の気が引いた。
そして誰も、**“エレベーターが十一階から一階に着くまでの間”**に、
何が起きたのかを知らなかった。
――◇――
<登場人物>
■主要人物
・安由雷 時明
28歳/警視庁捜査一課・警部補。
普段は飄々としてつかみどころがないが、事件の前では誰よりも鋭い。
これまで24件の難事件を24時間以内に解決してきたが――
今回の「25件目」は、彼にとって初めての“密室殺人”となる。
・岡本 悠真
23歳/警視庁捜査一課・新米刑事。
長身で純朴、正義感が強く真っすぐな性格。
安由雷の相棒として彼の奇行に振り回されながらも、
時折の一言が事件の突破口を開く。
オンラインゲームでのハンドルネームは「レティーシャ」。
■神奈川県警
・辰巳 文造
当該事件の現場責任者。
53歳/神奈川県警・警部。叩き上げの現場主義者。
安由雷の能力を認めつつも、その型破りな捜査方法に眉をひそめる。
・玄武 小鉄
29歳/神奈川県警・警部補。
警視長の息子で、いわゆる“七光り刑事”。
太い眉と小柄な体格がトレードマーク。
自分こそ本庁昇進組だと信じ、安由雷を密かに敵視している。
・坂下 奈々花
22歳/神奈川県警・新米刑事。
悠真の同期で明るく前向きな努力家。
安由雷に、密かに憧れと尊敬を抱いている。
■事件関係者(碧星総研株式会社勤務)
・本郷 健次郎
31歳/碧星総研株式会社・正社員。
被害者・馬場雷太と金銭トラブルを抱える。
・馬場 雷太 ※被害者
30歳/東部コンピュータ社から出向。
優柔不断で、終わった愛を手放さない女々しい男。
高層オフィスビルのエレベーター内で殺害される。
・吉川 志季
25歳/東部コンピュータ社から出向。
事件の第一発見者。
被害者と恋愛関係にあったが、別れてもらえずに困っていた。
・三木塚 瑛太
27歳/日本三松川システム開発会社より出向。
吉川志季に好意を寄せている。
■謎の人物
・大黒柱 権造(通称:ゴンゾー)
年齢・性別:不詳
オンラインゲームで悠真が出会った謎のプレイヤー。
ゲーム内では「Good luck!」「I'm professional」が口癖。




