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異世界に転生したはいいもののLv上限は22だった。

作者: 小雨川蛙

 

「「「「先生!!! おはようございます!!!!!」」」


 まだ眠気の残る頭に耳を通して十数人分のとんでもない声量の言葉が響く。

 勘弁してくれよ、まったく……。


「はいはい。おはよう」


 適当に挨拶をしながら僕は集まった生徒達を見つめる。

 他の人には分からないが、僕の目はこの世界の人間なら誰もが持っているレベルがはっきり見える。


 エイミーはLv8か……。

 中々優秀だね。


 ……ってレオはLv11?

 あいつ、昨日はまだLv2とかじゃなかった?

 まったく、流石は騎士様の嫡男だよ。


 で、ブランはLv6。

 ディジーはLv7。

 カナンは……Lv18!?


 思わず口をあんぐりと開けてしまいそうになる。

 子供達のレベルは昨日までLv2~Lv4くらいだったってのに……。

 Lv18なんて言ったら、もう中級冒険者の入口に入りそうじゃないか。

 あーあ、もう。

 才能ってのは残酷だね、まったく。


「先生? どうしました?」


 子供達の声に僕はハッと気を取り直す。

 いかんいかん。

 あんまりLvばっかり見ていたら余計な感情が混じってしまう。


「いや。なんでもない。それじゃ、皆。昨日した『宿題』の成果を見せてくれるかな? 勿論、自分の得意分野で構わない。剣術でも炎魔法でも雷魔法でも治癒魔法でも……」


 僕の言葉を聞いて生徒達は我先にと前に出ようとする。

 やっぱり皆まだまだ子供だ。


「はい! 一人ずつね! 先生、ちゃんと皆のを見るから安心して!」



 ***



 僕がこの世界に転生したのはもう十年も前のことだ。

 前世でどんな死に方をしたのかもう覚えていない。

 はっきりと覚えている事と言えば……。


「転生はさせてあげます。しかし、一般人ですからね」


 なんて言う残酷な言葉だけだ。

 実際、転生後の僕は特別強かったわけでも賢かったわけでもない。

 それどころかLv22で頭打ちになってしまった。


 参考までに下級冒険者がLv10~20くらいで、中級冒険者がLv20~40、上級冒険者はLv40~……。

 勇者だとか魔王だとか言われる連中はそれこそLv80とか90だ。

 僕なんて中級冒険者に毛の生えた程度の強さしかない。

 それも入口の……。


 まぁ、いずれにせよ、僕はこの世界で成り上がるのは早々に諦めた。

 日々を平和に生きていければいい。

 そんな気持ちで過ごす内に、ふと周りの人達が実に『非効率的な』修行をしていることに気が付いたのだ。


「ねえ。少し聞いてほしいんだけど……」


 そんな感じでとある落第生の少女に声をかけて、効率的な修行の方法を教えてあげたところ――その子は見る見るうちに力をつけてしまい、今ではなんと大陸有数の上級冒険者だ。


「先生はなんでこんな修行方法を知っているの!?」

「んー。なんでかな?」


 目を輝かせて問う少女に僕は肩を竦めて言葉を濁す。

 まさか暇つぶしに前世で延々とやっていたレベル上げ作業や経験値稼ぎの知識や発想がこんなところで役に立つなんて思ってもみなかった。


「先生のおかげで私、もう誰にも馬鹿にされないの!」

「そりゃよかったよ」


 その子が様々な場所で僕の指導方法について吹聴してくれたおかげで僕の下には『修行』をつけてもらいにたくさんの子供が集まってきた。

 僕も僕で自分のレベルが頭打ちだったからか、教えるのも成長を見守るのも楽しくなってきて……気づけばこんな立ち位置に居る。



 ***



「先生!」


 不意に教室の中に大きな声が響く。

 振り返ると『一番始めの』僕の生徒がニコニコ顔で駆けてくる。

 Lvは今や77。

 勇者や魔王にこそ及ばないけれど、逆に言えばそんな輩でもない限り決して負けはしない。


「え!? あの人は!?」


 教室の中が俄かに騒がしくなる。

 当然か。

 あの子はもう偉大な英雄で子供達の憧れの的なんだから。


「サインください!!」

「握手を!」

「ねえねえ! 剣術を教えて!!」


 子供達ってのは残酷だ。

 いくら教え方が上手くてもLv22の教師なんかより、Lv77の英雄様の方がよっぽど気になって仕方ない。


「ちょっ……皆、私は先生に会いに来たんだけど……」


 困る彼女に僕は笑う。


「アポなしでね。罰としてその子達の相手をしてあげなさい」

「ええー!? 先生、私あんまり時間無いんですけど……」

「時間無い人はこんなところまでわざわざ来ないでしょ」


 僕の言葉に彼女は渋々といった様子で子供達の輪の中に沈んでいく。


「まったく」


 群がる子供達のレベルをちらりと見つめながら思う。

 あの中から何人の子が『英雄』になるのだろうか。

 そして『英雄』達は一体どのような物語の主人公となるのだろうか。

 ――なんて、そんな事を考えながら今や慰めの意味さえも混じっていない言葉をぽつりと漏らす。


「案外、チュートリアル役ってのも悪かないね」



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