「常時賢者タイム」というパッシブスキルを得たことについて
僕は突然アイデアが降ってくるタイプなんですが、急にこんなくだらないことが降ってきたので作品にしました。
設定はざるです。ご容赦ください。
やあみんな。僕の名前は黒鉄勝治。実年齢は17歳。精神年齢は32歳のアラサーだ。
どうして32歳?って思うかもしれないけど、僕は17歳の時に神に選ばれてミーガンディアという異世界の救世主として召喚されて世界を救うのに15年かかったからなんだ。
それで世界を救い終わった僕は元の場所に戻ることになったから実年齢は17歳。それと神様からご褒美としてスキルを一つだけもらえることになった。
それが『常時賢者タイム』というパッシブスキルだった。
「賢者タイム」は聞いたことがある人もいるだろうけど、ある行為を行った後にくる数分間の冷静かつ脱力感かつ虚無感を伴う状態になる時間のことだ。
僕はもっと現代社会を無双できるような強力なスキルをもらえると期待していたんだ。ところがもらったスキルは『常時賢者タイム』というなんでそれ?と言いたくなるスキル。しかも自分で使うものでなくパッシブスキルだから自分の意志に関係なく発動している。
だから今の僕は何の欲も起こらないし、感情の起伏もない。周りを俯瞰して他人事のように見ているような感覚でこっちの世界に戻ってから2カ月ほど過ごしている。
元々の僕はどちらかというと熱くなるタイプで周りからも「熱血漢」という感じで見られてたけど、常時賢者タイムになってからは落ち着いたからか周りからおかしくなったと言われることもしばしばあったけど、今はもう受け入れられている。
常時賢者タイムになったことで助かったことが一つある。それは僕の幼馴染二人が寝取られたというのにそれに対して傷ついたとかそういうことも感じることがなったことだ。
※
僕には二人の幼馴染がいる。大野真悠子と宮田聡美という女の子だ。真悠子は家のお隣さん、聡美は家のお向かいさんで、年も同じだから小さい頃から三人の家のどこかで遊んだり泊まったりとか、とにかく三人で一緒にいた。高校も同じ高校に進み、今年は同じクラスにもなった。
真悠子も聡美も身内贔屓抜きでめちゃくちゃカワイイ。だから小さい時から男子からちょっかいをかけられることが多々あった。子供の頃の男子によくあるでしょ?好意の裏返しってやつさ。
そして段々成長していくにつれてちょっかいがなくなってカワイイ二人の周りに男子も女子も集まるようになった。もちろん告白なんかもされるようになって17歳の今ではもう週に1回は告白されてたんじゃないかな。
そんな小さい頃からのちょっかいやセクハラに近いような行為から二人を守る役目が僕。二人からはいつも感謝されていたし、僕に対して好意すらあると感じていた。僕も二人に対して特別な感情は抱いていた。
まあでもそれは結局勘違いだったんだけどね。寝取られたわけだから。
「勝治じゃもう満足できないの」
なんて真悠子からは言われたんだけど、僕たちまだそういう体の関係になってないよね?何に満足できないんだろう?
「カツ君では感じられなかった守られてるって感覚が彼からは感じるの」
なんて聡美からは言われたんだけど、いや、男子のちょっかいとかから守ってましたよ?あれが守ってるじゃないなら何が守るになるんだろう?
僕がこっちの世界に戻ってたったの2カ月の間で、これまでの17年間の絆を切ったわけだからその男共は大したもんだ。二人とも大学生らしく、真悠子と聡美の二人で遊んだ先でナンパされてそのままホテルに直行したんだとさ。
ミーガンディアで15年生きたけど、二人のことを忘れたことはなかった。むしろ彼女達のために早く世界を救って帰りたいという気持ちまであった。だからミーガンディアでは女性からのアプローチは悉く断っていたし、ハニートラップなんかにも細心の注意を払っていた。
それだけ彼女達のことを想ってたってわけさ。でも今もそうだけど賢者タイム中だから彼女達への熱い想いとか欲望なんかを語る気も起きない。本当に好きだったの?ってくらい心は凪いでいる。多分これを読んでるみんなからするとすごい淡々としているって思うかもしれないけど、賢者タイムのせいなんだ。
ただ虚無感はある。何か虚しさは感じている。だけど二人が寝取られたことに対してものすごいショックを受けたとかそういうのはない。だから真悠子と聡美が彼氏になった大学生の二人を連れて僕の前で「付き合うことになった」とか「体の関係はもうすでにある」と言われた時も
「おめでとう。感じの良さそうな彼氏さんじゃない。お幸せにね」
と平然として祝福できた。その時の二人の驚いた顔はとても不思議だったけど、多分もっと悔しがるとかそういった感情を見たかったんだろうなって思う。だって普通「付き合うことになった」だけでいいじゃん。なのに「体の関係まである」なんて言わないよね。
それって僕に対して何かダメージを与えたかったってことなんだと思うんだ。ただ申し訳ないけど賢者タイム中の僕にはノーダメージだよ。
※
そういうわけでこっちの世界に戻るというモチベーションにもなった真悠子と聡美がいなくなったことでぼっちになってしまった。二人といる時は周りに人がいるから話し相手とかそういうのにはなっていたけど、今はもう二人とも彼氏がいるって周りも分かっているから集まっているのは女子だけ。
女子だけのところにいるわけにはいかないし、そもそも付き合っている彼氏がいるのに一緒にいるのもおかしな話だ。
何か打ち込めるものを作った方がいいなと思ったわけで刀鍛冶でもやろうと考えた。というのもミーガンディアで使えていた魔法やスキルはこっちの世界では使えないけど、剣術や体術など体得したものや知識については残っている。だから自分専用の武器でも作ろうかなと思ったわけさ。
実際にミーガンディアで自分専用の武器を作るために鍛冶は体験している。問題なく最高の武器をこっちの世界でも作れると思う。ミーガンディアでは剣だったけど、やっぱり日本人なら刀だよね。早速刀鍛冶職人のところへ赴いた。
「すみませーん、自分用の刀を作りたいんでこちらで働かせてもらえませんか?」
「おお、うちは今跡継ぎがいなくて困っていたんだ。ぜひともうちで働いてくれ!」
速攻で採用が決まったので学校終わりに鍛冶場へ行って刀を作るという生活が始まった。剣とは少し違ったけど、要領は似たようなもんだからすぐに覚えることができた。
「お前、素人じゃないだろう?飲み込みが尋常じゃないほど早い」
「ええ、とある事情で鍛冶はやったことがあるんで」
「やはりか。それに加えて普通ならもっと焦ったり雑念が混じったりするもんだがお前の打ち込みには迷いがない。かなりいいものができている」
それも賢者タイムのおかげですね。何気に常時賢者タイムって役に立ってる?今のところ性欲が湧かないことを除けば僕に良い影響を与えてくれている。このまま刀鍛冶職人になってひっそりと隠居生活みたいな感じで過ごすのが一番いいかもしれない。
仕事も終わって帰ろうと駅に向かった時、真悠子と聡美が四人組の男に絡まれているのを見つけた。彼氏とデートで待ち合わせでもしているのかな?それにしてもこんな遅い時間まで遊ぶようになったんだな。
「だから!私達彼氏を待ってるんで行きません!」
「いいじゃん、彼氏なんかほっといてさ!俺達と気持ちいいことしようよ!」
彼女達はカワイイからナンパはガンガンくるよね。それを今までは僕が追い払っていたけど、どうしようか。彼氏もそんな展開分かるはずなんだから待たせちゃいけないでしょ。まあ仕方ない。今回は助けてあげるか。
「ほらほら、彼女達困ってるじゃないですか。あまりしつこいとモテませんよ?」
「あ、カツ君……」
「ああ!?お前誰だよ?ガキがふざけてんじゃねえよ!」
言うや否やいきなり殴りかかってきた。二人に断られまくってイラついてたんだな。にしてもいきなり暴力なんて沸点どんだけ低いんだろうか。
殴りかかってきた相手の拳をスッと避けて足払い。盛大に転んだ男を見て残りの三人も僕に殴りかかってくる。普通これ見たら引くんじゃないの?
ミーガンディアで最弱のゴブリンでももっと速いパンチ打ってくるよ。遅すぎるパンチの連打を全部避け、三人も全力だったんだろう、ハアハアと肩で息をしている。
「ガッツは認めますが、これ以上やるならこっちも正当防衛で攻撃しますよ?いいんですか?」
「くそっ!帰るぞ!今日はついてねえ!」
今までよっぽどついてたんですね。絶対そんなことないと思うんだけどな。何にせよ四人組はすごすごと帰っていった。周りからはパチパチと拍手が起きている。
そこへ二人の彼氏がやってきた。流石に遅くない?もしかして四人組に絡まれてるのをどっかで見ていてビビってた?
真悠子と聡美が彼氏の腕に絡まる。まるで僕に見せつけてくるかのように。
でも僕は賢者タイム中だから何とも思わない。助けた礼くらいあってもいいとは思うけど。
「彼氏が来てよかったね。じゃああとは楽しんで」
「「えっ!?」」
踵を返して改札口へ向かう。早く帰って明日に備えよう。
※
こうして学校から鍛冶場へという生活をして1ヵ月が過ぎた。世間ではクリスマスだなんだと言っているけど僕には全く関係がない。
この1ヵ月は仕事を終えて駅へ向かうと真悠子と聡美が彼氏と待ち合わせをしている、腕を組んで歩いている、なんてところを何度も見かけた。そんな頻繁に夜遅くまで遊んでてテストとか大丈夫なのかなとは思った。
また学校にいる時は僕にも聞こえる声量で彼氏との惚気話をしていた。声に出してよくもまあそんな恥ずかしいこと言えるなとは思った。
二人は彼氏とはうまくやっていけているようだったから別にそれはそれで「はいそうですか」という感情しかなかった。二人は何か焦っているような感じではあったけどさ。
一方で僕の方は刀を量産しまくって親方の売上に貢献していた。それで正式に跡継ぎとして認められた。これで大学には進まずに刀鍛冶職人として食っていける。
「勝治、お前の打った刀に銘を入れていいぞ。お前の刀は後世に残る一級品だ」
なんて言われたから黒鉄の名字から「斬鉄」なんて中二病っぽい銘を入れることになった。そして自分の中で最高の出来だと思える一振りができた。ミーガンディアみたいな世界じゃないからずっと装備することはできないけど、命を預けられる相棒もできた。
いつものように仕事を終え、電車に乗って帰ったところで家の前に真悠子と聡美が立っていた。
「こんばんは、寒いから早く家に入った方がいいよ」
「勝治、あんたに用があって来たのよ」
「ん?僕に何の用があるんだい?」
「どうして!どうして嫉妬してくれないのよ!」
「ん?」
「私達、そんなに魅力的じゃなくなった?他に女でもできたの!?」
「え?」
何を言ってるのかさっぱり分からなかった。嫉妬?魅力的でない?
「聡美、絶対女だよ。あの駅近くで女ができたんだよ。くそーっ!」
「ちょっとごめん。近所迷惑になるから僕の部屋で話さない?」
大声でこんな夜に叫ばれたら近所迷惑極まりない。
「こっちはこんなに感情的になってるのになんでそんな平然としてられるの!ふざけないでよ!」
いやいや、こっちからしたらなんでそんなに感情的になってるんですか?って話ですよ。平然なのはただ単に賢者タイム中だからだよ。
これ以上ヒステリックになって叫ばれたら本当に怒られるから強引に僕の部屋に連れて行った。なぜか分からないけど強引に連れて行ったことに悦んでいたけどさ。
※
「なるほど、そういうことだったのか。でもそれでもそんなことしたらだめだよ」
「「はい、申し訳ありませんでした!」」
土下座をする二人。ようやく事情が分かった。
僕がこっちの世界に戻ってきてから賢者タイムになったことによって僕が別人のように変わったことに二人は戸惑ったらしい。
元々の僕は熱いタイプだと思ってたんだけど、二人からするとただただエロい目で見られてるって感じだったんだとさ。でもそのエロい目で見られることに悦を感じてたって言うんだからとんだ変態だよね。
そんなエロい目で見ていた僕が常時賢者タイムになったことによってエロい目で見なくなった。だから振り向いてもらいたくて従妹の大学生を使って付き合っていると嘘をついたってわけ。それで嫉妬心を煽ろうとしていたけど一向に嫉妬もしないし、追及もしてこない。
そこで僕のあとをつけたら刀鍛冶場のある駅で毎日降りていることが分かり(跡は追えなかったみたい)、仕事が終わって駅にくる時間を見計らってアピールをしていたらしい。
それでも一向に何もアクションを起こさないのと毎日あの駅を使っていることから女がいると勘違いして先ほどに至ると。
これ、僕みたいに賢者タイムじゃなかったら相当精神的におかしくなるよね?好きな人が別の人と付き合ってるとか体の関係を持ってるとか、仕事終わりにイチャイチャをアピールするとか。
もしかしたら賢者タイム中であっても精神的に参っていたかもしれないね。僕の精神年齢が上がっていたからまだ大丈夫だったというのも考えられる。
そういうのもあってちゃんと叱っておいた。分かってくれたみたいで土下座までするとは思ってみなかったからちゃんと反省はしているみたいだね。
「それで今後どうするつもりなんだい?僕はこのようにもう欲望が湧くようなことない状態になっているんだけどさ」
「それってもう性欲が湧くこともないってことなの?」
「少なくともこの3ヵ月で全く湧いてこないからね。どうなるかは正直分からない」
「じゃあさ、これから試してみない?」
ごくり。二人からの提案に賢者タイム中だというのに胸にざわつくものを感じる。これはもしや……。
「そ、それは僕と真悠子と聡美でってことなのかい?」
「そうだよ。もちろんだけど初めてだから優しくしてね」
聡美が耳元で囁く。その艶めかしい声に僕の眠っていた性欲が爆発した。これ以上は言わなくてもいいよね?
どうやら常時賢者タイムといっても誘惑されれば問題はないみたいだ。ということで僕は真悠子と聡美とそういう関係になったのでありましたとさ。
お読みいただきありがとうございました。
感想をいただけると次作に向けての改善点として参考になりますのでいただけると幸いです。




