HOFNER
「『オンガク』で反撃…。」
「なんか…すごい……!!」
キリュ―宅。
その地下室でのこと。
「さテ。早速だガ、」
周りに『オンガク』が並んだ部屋で。
「『オンガク』選びと行こうカ。」
キリューの髪がふわりと舞った時だった。
◇◆◇
「これが『オンガク』…。」
「見た目はフツ―の楽器。でもそれから発せられる音の力は『音楽』さえもしのグ。」
「これは、キリューさんが作ったんですか?」
「ソ。私お手製の『オンガク』ちゃん達だヨ。」
「すごいな…これ全部。」
「とは言ってモ、『音楽』の持ってる楽器をちょ――っト。だけいじっテ、私たち人間でも扱えるように改良しただけサ。」
「キリューさんって一体何者…?」
地下室で、色々な『オンガク』を手にしているカナデとタケ。
『白鍵』はカナデから貰ったパンが入っている袋からひとつ、大事に食べていた。
「ここジャ試し弾きはできないかラ、場所を移そウ。」
「場所を?」
そう言って、シャッタ―がある壁の側面のレバ―を下げる。
すると、ガコンッ!と音を立ててシャッタ―が開いた。
「ここなラ思う存分使えるかラ。試しに鳴らしてみナ」
「おお、こんなとこで使わないといけないくらい、音の力があるのか。」
「すごい広いね。」
シャッタ―が開いた先。そこは洞窟のように岩肌の広い空間が広がっていた。凸凹とした岩肌の天井には所々にライトがはめ込まれ、遠くを見るとなにやらパイプのようなものが見える。
「とりあえず、この『オンガク』を使ってみたいんだが。」
タケが持っていたのはトランぺットの『オンガク』。するとキリュ―が説明をする。
「あア。吹き方は普通のトランペットと同じデ、唇を震わせる感じ、ブーッて豚みたいな口にしてナ。そして、力強く吹ク!そうだナ…。試しにあのデッパっタ岩に向かって吹いてみなヨ。」
「おう、分かった。……すぅ――――っ」
タケが息を思い切り吸い込――「マ、実際はそのトランぺットで殴ればオッケエエエエエッ!!!!」
パアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!
「えええええええええ!?」
タケが吹こうとした瞬間にキリューがトランペットをタケの手から素早く奪い取り、岩に向かってトランペットで殴った。トランペットの金属の激しい音と電撃が岩に走り、岩は砕けた。
砕けた石片が宙に舞う。
「…これは。」
「なんつー威力。」
「こうやっテ。物理的にもで扱うことができル。ただシ、演奏しないと本領を発揮できない『オンガク』もあるかラ、そこらへんハ要注意。」
「へえ。…というか、今思ったんだが今の『オンガク』の能力って。」
「オ。もしかしテ分かっちゃっタ?」
「ああ。キリューがカナデをイき返らせた時の電撃。それと同じだった。つまり、今キリュ―が背負ってるそのギターも『オンガク』ってことだよな?」
「ぴんぽ―ン!次元クンせいか~~イ。」
そう言って、キリューは背中にかけている『ダブルネックギター』を持った。
「これは『ダブルネックギター』デ、上のネックが爆撃。下のネックが電撃なのサ。」
「だから、カナデを起こすときは下のネックの弦をはじいたのか。」
そゆこト~~。とキリューが言った。あの時、結局分からずじまいだったカナデはようやく理解した様子。『白鍵』は袋からパンを新しく一個取り出した。
「こいつモ弦をはじいても、そのまま殴ってモ音の力として生み出せル。ほかの『オンガク』でも同じっテ訳。」
「へえ。」
「そしテ、この『オンガク』と『音楽』の持つ楽器との一番の違いハ」
キリューは足に付いたポケットからシールドケーブルを取り出し、トランペットにあるジャックに片方を挿しこんだ。もう片方はと言うと。
「もう片方ハ、次元。お前の胸に挿しこメ。」
「え!?」
タケはキリューからトランペットを受け取り、シールドケーブルを持つ。
すると、タケの胸に突如としてジャックが現れた。
「うわっ!これってあの時カナデに出てきた…」
「それト、同じもノ。私はこれヲ『ボディジャック』と呼んでル。」
(あ、これ本当にボディジャックだったんだ…。)俺はそう思った。
「それを次元の胸に挿しこめば、『オンガク』の音の力を最大限まで引き出すことが出来ル。」
「『オンガク』の力を…。」
「さア、挿しこメ。」
タケは、手に持つケーブルを強く握りしめ、覚悟を決める。
そして、胸に挿しこんだ。
「――っ!!!!」
「え!?タケが光出した!!」
「きタ…。きたきたきたきタァ!!!!」
叫ぶキリュー。
みるみるうちに青白い光に包まれるタケは、手に握る『オンガク』もより、光る。
光が鎮まる。すると、『オンガク』だけがかすかに輝いていた。
「これは…」
「っやア――!成功だヨ次元クン!!」
「どういう意味?」
キリューがタケの肩をばしばしと叩いた。
カナデは聞く。すると、キリューはタケの肩を叩くのをやめ、『ダブルネックギター』の弦を軽くはじいた。ぽろろん。と、心地よい和音が響く。
「そのケ―ブルデ、『オンガク』と次元との間に共鳴、つまリ"オンキョウ共鳴"を起こしていル。今の『オンガク』とのオンキョウ共鳴ハ、50%ってとこかナ。」
「オンキョウ共鳴…。」
「『オンガク』と、それを吹く『奏者』。どっちにモ『音の波』が存在すル。その波が『オンガク』と共鳴するこト。要ハ、そのことをオンキョウ共鳴っていウ。『オンガク』との相性がいいってことになル。これがそのまま『オンガク』との相性に直結すル。」
「質問いいか?」
「ッは~~イ!次元クンどうゾ」
タケが手を挙げて言うと、元気よくキリューが反応した。
「そのオンキョウ共鳴てのは、たとえ『オンガク』との相性が悪くても、練習すれば上がるもんなのか?」
「…へエ。気になっちゃウ?答えは『〇』。相性が悪くてモ練習さエすれば『オンガク』とオンキョウ共鳴ができる。だけド君たちどうセ、すぐ『音楽』に殴り込みするでショ?多分それまでには間に合わないんじゃないかナー。そこは才能次第。」
「才能…か。じゃキリューはここにある『オンガク』とは全て、高いオンキョウ共鳴を起こせるのか?」
「……そうだヨ。たくさん練習したからネ。」
「なるほど…ね。」
タケはそう言うと、片手に持っているトランペットを見た。
「ア、ちなみにジャックを付けてる状態は『オンガク』の能力を強化するけド、ずっと付けてると体力めちゃくちゃ消耗するかラ気を付けてネ」
「おい!それを早く言え!」
タケがすぐツッコミを入れ、ボディジャックからケーブルを引き抜いた。
『オンガク』はすっと輝きが収まった。
「…あれ、そういえばさっきの光の色……。」
カナデはあることに気づき、ポケットの中に入れておいたマウスピースを取り出した。薄く光り輝くマウスピースは、どことなく奇妙な雰囲気が漂っている。
…これ、さっきの光の色と全く同じ色に輝いてる……。何かあるのかな。
そう考えていると、
「とにかくキリュー!俺と相性がいい『オンガク』を選ぼうぜ!」
「あ。ぼ、僕も…。」
「ニッ!あア任せロ。私ガお前たちと相性がいい『オンガク』を見てやル!」
カナデはマウスピースをまたポケットの中に入れ、タケと共に『オンガク』を選び始めるのだった。
「―これは?」
「それハ、トロンボーンだネ。ただ殴るとトランペットと同じ電撃。吹くとビームを出すことが出来ル。」
ボオォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
ピキュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!
「うわすげえほんとにビームが出た!!」
「スライド菅を伸ばすともっと正確ニ、狙ったところへビームを出すことが出来るヨ。」
きゃっきゃうふふで楽しく『オンガク』を選んでいるカナデ御一行。
カナデが別の『オンガク』を持ってきた。
チューバ
「それハ大砲」
「「な゛!?」」
クラリネット
「矢みたいナ鋭い音が鳴ル」
「「矢!?」」
サックス
「相手を凍らせル」
「「凍らせる!?」」
大太鼓
「爆発」
「「爆発率高くないか!?」」
「そんなもんだにゃア~」
持ってきた『オンガク』をタケとカナデは片っ端から吹いては吹いている。しかし
「どれもこれもオンキョウ共鳴微妙だニャー。」
猫の真似をしながら言うキリュー。
「そうだよなどれもこれも違う。俺にも分かるんだが………あれなんだ」
「ニャ?…あれは『ベースギター』だヨ。」
タケの目線の先にはギターが壁にかかっていた。
キリュー曰く『ベースギター』のこと。黒色のカラ―をしている。
タケはベ―スギタ―を手に取った。
「『HOFNERバイオリンベ―ス』。なかなかの代物だヨ。これを『オンガク』にするのは結構難しかったナー。」
「……へえ。」
両手でベ―スギタ―を持ち、眺めるタケ。
どこか目が輝いているように見える。
「…どウ、試し引きしてみル?」
キリューは微笑むように優しく言った。
「…お、おう!」
「ふフ。じャケーブルつけてナ。」
シールドケーブルをベースギターと胸のジャックに挿す。
そして、構える。
「いいカ?力強く弦を弾くんダ」
「了解、……っオラ!!」
タケはキリューから言われた通り、ベースギターの弦を右手で力強く弾いた。
ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
広い空間にベースギターの重低音が地響きと共に鳴り響く。
「わっわわわわ!何この振動!?」
遠くで『オンガク』選びをしていたカナデが叫んだ。
「…………ほォ。オンキョウ共鳴80%、今までで一番高イ」
キリューはタケに説明をした。
「そいつハ弾くとあたり一帯を振動させテ、態勢を崩ス。いわばサポ―ト系の『オンガク』なん…だが。」
「………。」
――今のタケに、説明など聞こえないとキリューは感じた。
新しい世界に触れる。ドクンドクンと胸が昂る。
振動で揺れる空間。パラパラと天井から砂埃が舞う。そのすべてがタケには輝いて見えた。
右手がひりひりと痛む。でも、そんな感覚よりも
タケには弾いたときの振動がまだ指一本一本に残っていた。
自分に足りないピースがはまる音が聞こえるような気がした。
きっと、これがそうなんだ。
タケはオンキョウ共鳴など教えなくても気づいた。
キリューは黙ってタケの後ろ姿を眺めている。
「……すげぇ。」
彼の口からそうこぼれた。
「……気に入っタ?」
「ああ。決めた。」
キリューの方へ振り向き、言った。
「俺はこれにする。」
黒色に輝く、『HOFNER』を構えて。
「―ねえ、キリュ―さん。」
「ん?カナデか。」
カナデが『オンガク』を持ちながら、キリューのところへ来た。
「うィ――。どした………ノ………!?」
「これってどうやって使うの?」
「…………ナ…」
キリューはカナデを見て、驚いている。
その様子にカナデははて?と思う。
「えっと…何かあった?」
すると、キリューはこう言うのだった。
「…オンキョウ共鳴……………100%!?」