『オンガク』で反撃すんだヨ
「桐原…流子。」
「ソ。それが私の名前。ま、気軽にキリュ―って呼んでネ。」
壊れた壁の前で女が『桐原流子』、そしてキリュ―と名乗った。カナデは焼け焦げ、倒れている。
「そうか…分かった。よろしくキリュ―。俺は唐草岳だ。タケって呼んでくれ。」
「へェ………。よろしク、次元。」
「だからタケって呼んでくれっつったじゃねえか!」
耳をほじりながら聞き流すキリュ―。カナデのところへ行き、耳をほじった手で頬をつつく。「あチ。」と小声で言い、手を払った。
せっかく私のおかげデ生き返ったのニ…。でもキリュ―のせいだからね?こうなったのは。
『音楽』はやり取りをしているタケとキリュ―を交互に見た。
「―さて、ト。自己紹介が終わったんダ。本題に入らせてもらうゼ。」
夕日が差し込むビルの一室。
カナデを部屋の隅にあるベッドの上に寝かした。『音楽』はカナデの横にちょこんと座り様子をじ―っと見ている。そしてキリュ―とタケは壁に寄りかかり、キリュ―が『ダブルネックギタ―』のチューニングをしながら話し始める。
「あそこにいる『白鍵』は…というカ、何故いるんダ?」
「あぁすまん。質問に質問を返すようで悪いんだが、その『白鍵』…てのはなんだ?」
「……エ?知らなイ?」
「知らない。俺が知ってるのは『音楽』っていうのだけだ。」
「そなんカ。えっとナ、その『白鍵』てのハ5年前に来た侵略者『音楽』、その中でモ白いマーチング衣装デ、白い瞳。そしテ白い肌。何から何まで全テ真っ白。その姿がまるでピアノの『白鍵』に似ているからそう言われたル。てカ私が名付けタ。」
「へぇ。だからこの子のことを『白鍵』て言うんだな。…ん、てか今キリュ―。お前が付けたって言った?」
「言っタ。」
「じゃ俺絶対知らんじゃん。」
「ア、…そうじゃんかヨ!あっはっはっハ!!」
「ん?ぬあっはっはっはっは!!」
なんかもうどうでもよくなり、2人は笑い始めた。めちゃくちゃ笑った。過呼吸になるまで。そして、ひとしきり笑ったところで呼吸を整えた。
「はァ――…デ。話を戻すガどうしテここに『白鍵』がいるんダ?」
「ああ。そうだったな…『白鍵』は俺が捕まえた。」
「ナ゛!?」
キリュ―は驚きを体全体で表現した。まじデ?と聞くキリュ―。タケはうなずいた。
「このまま『音楽』に侵略されっぱなしじゃ気が済まないんで、誰か一人だけでも捕まえて『音楽』の情報が欲しかったんだ。」
「なるほどネ。でもよくそんナ一か八かの行動できたナ――。演奏を聴いたラ、『楽器』になっちまうんだゼ?」
腕を組みながら言うキリュ―に対しタケはこう答える。
「耳栓で演奏を聴こえなくした。」
「なナ゛!?」
キリューはまたもや驚きを体全体で表現した。まじデ?と聞くキリュ―。タケは先程と同様にうなずいた。
「……バカじゃんかヨ?」
「あ!キリュ―も言った!!」
「そりゃそうでしョ―。耳栓で防げるなんて思わないよふツ―。カナデクンもよくそんな作戦に乗ったネ。」
そう言いながらキリュ―はカナデの方を見た。「ふっふっふ。何を隠そう、カナデは機械いじりが大の得意でね。ノイズキャンセリング機能を――…」とタケがカナデのことを熱弁しているのを無視して。
そして、何か疑問を思ったのかキリュ―はタケに聞く。
「なア。なんであの『白鍵』はカナデクンの近くにいるノ?」
「カナデに懐いたんだよ。あの『白鍵』が。」
「ななナ゛!?!?」
「いやその動きはもういいよ!!」
いや~分かってなイ。分かってないナ~次元クン。繰り返すギャグってもんがあんだヨ。と、言い。もう一度カナデと『白鍵』を見た。
「……へエ。」
すー。すー。と眠るカナデの隣に『白鍵』が無表情で様子を見ている。キリュ―は目を細くした。
「私は、"選ばれなかった"のか。」
「なんか言ったか?」
「エ?…ううン。何も言ってないヨ。それよりモ!」
キリュ―は話を変え、立ち上がった。
「そろそロ、カナデクンには起きてもらうカ。」
「え」
にっひっひっヒ。とキリュ―の目が何か良からぬことをするときの悪い目に変わっていた。ま、まさか。タケは思う。
すると、(以下略
――そして『ダブルネックギター』を構え。
「起きロ――――――!!!!!」
◇◆◇
「―てな訳デ。」
体育座りをしているタケ、『白鍵』。そして焼け焦げたカナデはキリューの提案を聞いていた。
「私の家に来なヨ。」
「え?」
「あ?キリュ―の家に?」
『白鍵』は首を傾げ、反応した。
「今まで会ってきた生き残りの人達の中デ、心が死んでない奴らを見るのは久しぶりでネ。私、カナデクン達の事気に入ったのサ。」
「俺たち以外の生き残り!?」
「マ、全員死んでるようなもんだっタ。現にまだ都心部にいるなんてナ。」
そう言いながら、自分自身を抱いてわざと身震いをする。
「…ちなみに一軒家サ。」
「へえ。一軒家なのか。でもそれはどうして?」
「ふっふっフ。それはネ~~。」
カツカツとブ―ツを鳴らし、立ち止まったと思ったら次の瞬間。ポーズをとった。
「『音楽に対抗できるもの』があるからダ!!……ポーズかっこよく決まっタ――(小声)」
「あぁ!?」
「『音楽』に対抗できる…?」
「ど?」
『白鍵』は言葉を理解しているのか、自分を指さす。
それを見たキリューが「おォ~~。『白鍵』は言葉も理解してるのかァ~~。なるほどねェ~~。」どこぞの黄色の猿みたく反応し、『白鍵』の頭を撫でようとしたが。嫌そうに体を動かして抵抗され仕方なく撫でるのをやめた。
「ソ。君たちにとってウマウマな話じゃなイ?どウ、来るかイ?」
キリューはカナデ達に手を差し伸べた。
「ここよりずっト安全だシ、ちゃんと人数分の部屋もあるヨ。どうすル?」
「…………。」
差し伸べる手を見たカナデは思いつめたような顔をした。が。
「えっと。僕は――」
「いいじゃねえか!行こうキリュ―の家に!!」
「オ。話が速いじゃんかヨ、じゃカナデクンもそ―いう事デ。」
カナデが何か言いかけたが。それを遮り、タケが乗り気で言いキリューの手を掴む。それに対し、キリューもノリノリで返答した。かくしてキリュ―宅へ行くことが決まった。
「…で、ここから近いのか?」
「ここからは少し遠いナ。だかラ……ま、とにかクこのビルからおさらばしナ~~。」
タケはキリューの手を掴みながら立ち上がった。お尻を手で払い、タケはカナデの手を掴む。私は下で待ってル。もうここに来ることはないと思うかラ、しっかリ準備しなヨ~~。と言い、キリューは先にビルを降りた。タケはキリューに言われた通り、準備を始めた。
「……。」
「どうしたよカナデ。」
「え、な。なんでもないよ。」
カナデもせかせかと準備をはじめた。
「――オ、準備できたカ―?」
「おう!」
「い、一応。」
カナデとタケは各々自分用のリュックサックに荷物を入れ、肩にかけている。
「完璧じゃんかヨ。じゃ。ここから私の家に行く為に、『コレ』に乗っていくのサ!!」
「乗っていくって、え…ええええええ!?」
「あ。もしかしてこれって『フィアット500』?」
「しかも旧車じゃねえか!!!!」
「タケうるさいよ!」
「オ――そだヨ、よく知ってるナ。……ア。もしかしてアレだナ?緑ジャケのアレだナ?アレで見たんだナこれヲ。…うン。私もそれで見タ。憧れて買っちゃっタ。」
キリューの『コレ』はフィアット500で、しかも旧車。
黄色のフォルムで、ル―フは開放可能。そしてナンバ―には『9-RY』と書かれている。
タケはめちゃくちゃ泣いていた。
「やっぱりこれはハッチバックが開いてそこから『アレ』が出てきちゃう感じだよな!?」
「いヤ――それはまだヒ・ミ・ツ・♡」
ひゃ―!最高じゃねえか!!と言うタケ。カナデと『白鍵』は手をつなぎながらきょとんとしていた。
「とにかク乗りナ!ぐズぐズしてっトおいてくゾ~~」
「おうっ!!」
「う、うん。」
タケはノリノリで。カナデは『白鍵』と一緒にフィアット500に乗り込んだ。助手席にタケ、後部座席にカナデと『白鍵』がいる。運転席はもちろんキリュー。免許を持っているのはキリューだけ。
ただ、「運転免許なんテ、この時代じゃそんなもノ意味ないけどネ。」と言っていたが。
「全員乗ったナ?行くゼ―――!!」
車のキーをかけるとともに、シフトレバーを引く。
「おリャ!」
勢いよくキリューはアクセルを踏むと、エンジンがドゥルンと音を鳴らす。タイヤは回転し、カナデ達の住んでいたマンションを背に、進んでいく。
マンションにフィアットのエンジン音を残して。
2011年7月14日17時。
所要時間およそ20分。キリューの家に着いた。ブレーキを踏み、家の前で車を止めた。
「おぉ!ここがキリューの家か」
「そだヨ。どう?結構でかいでショ。」
キリューの家は3階建ての一軒家。
家の周りにはなぜか巨大な『スピーカー』が置いてある。バタンと車の扉を閉め、キリュー、カナデ、タケ、そして『白鍵』は家の中へ入った。
「おお!2階の床がぶち抜かれてる!!」
「ソ。この家は1階から2階までは吹き抜け建築なのサ。1階はリビング、2階はキッチンや書庫。そして3階がプライベートルームっテ訳。屋上もあるけド、それは後のお楽しみってことデ。」
早速、カナデクン達の部屋を見せたいと思っていたんだガ。キリューが言う。
「ここに連れてきた一番の理由を先に見せておかないとナ。」
「あ、『音楽』に対抗できる手段。」
「おう!そりゃ一体何なんだよ!!」
そわそわするタケ。
「それはナ……。こっちだヨ、ついてきナ。」
キリューに言われた通りついていく。すると、リビングの電気をつけるスイッチがある壁の前に来た。
しかし、よく見る電気をつけるスイッチではなく、まるでコントローラーのボタンのような配置だった。
「?ここでなにすんだ――」
「『上』!『上』!『下』!『下』!」
「「な!?」」
『左』!『右』!『左』!『右』!
キリューが言いながらボタンを押していくと、4つのスイッチが囲む真ん中に空いていた何もない場所からボタンが2つ出てきた。1つは『A』、もう1つは『B』と書かれている。
「そしテ~~『B』!『A』!!」
何かのコマンドかのように押されたスイッチからぴこーん!と電子音が流れた。すると、スイッチ横の壁がガガガガガ、と音を立てて開いていく。
やがて壁が完全に開くと、下へと続く階段が現れた。
「地下!?」
「ふぃ~~~っト。そう、地下室だヨ。」
「そんなものまで…。」
キリュー、そしてカナデ達は地下へと下がっていく。進む先に、扉が見えてきた。
「この先にあルのが、対抗手段サ。」
キリューが振り返ると、親指を扉の方へ向けて言った。カナデとタケは息をのむ。『白鍵』はきょとんとしている。そして扉が開く。
「これが『音楽』に対抗できるものダ!!」
「……これが…。」
「『音楽』に対抗できる手段……!!」
地下室にあったものは。
『トランペット』『トロンボーン』
『チューバ』に『クラリネット』
そして『サックス』。そのほかにもいろいろな『楽器』が壁一面に置かれていた。
「そウ。これが対抗できるもの、楽器。名を『オンガク』ダ!!!!」
「オン…」
「ガク…」
キリューは『オンガク』が飾られる壁を背中に仁王立ちになった。
そして、キリューが言った。
「私たちハ、この楽器を使って対抗ス……。つまり。」
「『オンガク』で反撃すんだヨ!!!!」
少しだけ修正しました。