表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

地球。『音楽』ニ侵略サレタリ。

 

 2011年7月13日12時 東京。


「ねえ、タケ。」

「…ん、なんなのさ。」

「この世界に『神』って存在すると思う?」

「さあな。でも、いないと思うぜ。」


 今はもう使われていない、ビルの屋上。望遠鏡で遠くにある巨大な棒のような『落下物』を眺めながら『唐草(からくさ)(たける)』通称:タケが言った。


「だって神がいるんなら、今みたいな世界にはなっていないと思うぜ。」

「…そう、だよね」


 機械をイジりながら彼、『永見(ながみ)(かなで)』通称:カナデは力なく言う。


「あんな、巨大なものが落ちてきて、もう5年も経ってるもんね」

「早いもんだな。あれが落下してもう5年か。そして、一瞬にして東京は侵略。我々人類は人口が減っていくばかり。」

「……。」


 カナデは、機械イジりをやめ空を眺める。ゆっくりと流れる雲を見ながら言った。


「この世界に、神なんてやっぱりいないのかな。」

「存在しないでもう、いいんじゃないか 。」


 タケは呆れ気味に話を終わらせようとする。それに対し「ご、ごめん。」とカナデは謝り、また機械をイジり始めるのだった。


 しばらく無言の時間が続くと、タケが口を開く。


「……なあ、カナデ。」

「ん。何?」


 タケは息を吸い、そして


「俺。『音楽』を一人、捕まえようと思うんだ。」


「へえ。『音楽』をね。……え、今何って言った!?」


 ば、ばか!しーっ!うるさい!『音楽』が近くにいたらどうする!!

 ああ、ごめん!


「…だから。『音楽』を一人、拉致(・・)しようと思うんだ。」

「ねえ、さっき言ってたことと若干違わない!?」

「大差変わらないよ。」


 望遠鏡から目を外し、タケはカナデの隣に背中を向け、立った。


「なあ。カナデ君や。我々はあと何年『音楽』の侵略に怯えないといけないのかね?

 5年?10年?はたまた50年?」

「は、はあ。」


 なんか始まっちゃったぞ。とカナデは思う。


「俺はもう、限界だ!人類がただ『音楽』におびえる日々が!

 だから俺は『音楽』を一人拉致することに決めた!!そうすれば何かが分かるはずなのだ!!我々は『音楽』なんかに屈しない!!反撃の時来たれり!さあ、いざゆかん!!」

「いやいやいやいや、話が全然分からないよ!!」


 いちいちポーズを変えるタケにカナデは理解が追い付いていない模様。カナデはタケが言ったことを口に出して整理した。


「え、えっと…『音楽』に反撃するから、『音楽』の1人攫う?…そんなの無理だよ!バカなの!?」

「ふふふ。バカじゃないぞ、なぜなら!!」


 バン―ッ!!と床に置かれたそれは、手書きで作られた『音楽』の『行進経路』のようだ。

 そこで何をしていたかもびっしりと書かれている。


 それを見て思わずカナデもおお。と口から漏れていた。


 タケが言うには、日々『音楽』の動向を探っていたそうで、


 ―ある日は雨の中。

 ある日は汗ばむ炎天下の中。

 ある日は崖に落っこちたり。

 来る日も来る日も、唐草岳は動向を探っていた。……らしい。


 そして、その集めたデータをもとに直近で明日の『音楽』の行進経路を予測したのだ。場所は住処にしているこの廃ビルの付近とのこと。


「――予測したって。それはいいんだけど……。一体どうやって『音楽』を攫うの?

『音楽』の演奏を聞いちゃったら『楽器』に変えらちゃうんだよ?」


 うんうん。そうだよなーそう思うよなー。

 頷きながら、「待っていました!」と言わんばかりの表情でカナデのことを見るタケ。


 な、なんなのさ。と言ったカナデに対しタケはある仮説を話す。


「しかーし!!『音楽』を観察しているうえで、俺は一つの仮説を立てた。それは、」

「それは?」

「『音楽』の演奏が聞こえなければ、楽器には変形しない。」


 そう言った途端にカナデの表情がはっ。と変わった。


「あっ、そっか!『音楽』は楽器の演奏。つまり『音』によって人間を『楽器』に変えてるってことで……その演奏が聞こえなかったら!」

「そう。俺たちは『楽器にならない』ってことだ。」


 おお――!!!すご―――い!!!!

 タケの言うその仮説は理にかなっているものなので、タケとカナデはテンションが上がる。


「できるな!!」

「うん、これならできる!!」

「やるしかないな!!」

「やるしかないね!!」

「つまり、『耳栓』があれば俺たちは最強ってことだ――!!」

「そうそう!!『耳栓』があれば!!!……え、もしかして『耳栓』で防げると思ってる?」

「おう!防げると思ってるが。」


 真顔で本気な様子でタケは言った。


「……タケはやっぱりバカだよ。」

「なっ!!なにおう!!これでもバカじゃねえんだぞ!!…一応高校生だちくしょ―!!高校なんて行ったことないけど。」


 さっきまでのペースが崩れ、動揺に陥るタケに剣を突き刺すように言うカナデである。


「僕は途中から小学校に行ってない。」

「…それでも!俺は絶対やってやるんだ――!!!」

「………はあ。」


 カナデはため息を吐いた。

 何もかもすべてを吐き出すように深く吐く。

 そしてカナデは口を開いて言う。


「タケ。そう言っても僕達2人じゃ無理だと思う。そりゃあ、タケの観察力、そして計画には素直に驚いたよ。…でもやっぱり、僕らじゃ無理だ。僕なんてまだ小学生だし。だから、さ。この計画は諦めて『助け』を待っ――」

「『助けを待つ』?」


 カナデの言葉を遮るようにタケが強く言う。

 そして、タケは真面目な顔で言い始めた。


「助けを待つ?俺はそれの方が無理だと思う。東京が…。世界が侵略され、次々に楽器に変えられ、今やもう人口なんて5年前の半分以下。もう人なんてカナデ。お前くらいしか見てない。それで2人だから無理。だから諦めて『助けを待つ』?今のこの状況。助けを求める人の方が多いだろう。そうやって、助けを待ってる人たちが次々と楽器に変えられて…。このまま俺達人類は何もせずに『音楽』に侵略され続けられるだけなのか?それは違うだろ!!」


 声を荒げて言うタケに、カナデはあっけにとられていた。

 そして、タケは決意するように言う。


「できるできない。やれるやれないの問題か?行動すべきだ。『俺たちでやるんだ』!!!」

「……!!」

「だからカナデ!!頼む、この通りだ!!お前もついてきてくれ!!」


 タケの言葉を聞いたカナデは息をのむ。タケの演説で、5年前の『あの時』のことを

 思い出していたのだ。


 『あの時』起こってしまった事。目の前で起こったこと。僕がここでやだと言ってもタケは1人だけでも行くだろう。そうしたら、また起こってしまう可能性がある。『あの時』のことが。

 ……そして、カナデは声を振り絞って言った。


「怖いことは、しないでよね。」


「カナデ――!!!」


 タケはカナデを強く抱きしめた。


「カナデ――!!愛してるぜ――!!」

「タケ!や、やめてって!!」


 タケに抱きつかれたカナデは一人こう思う。

『あれだけ言われたらやるしかない』と。


「決まりだ!!じゃあ耳栓作ってくれ!!」

「分かった!……って。耳栓もないのかい。」

「あ痛っ!!」


 カナデのチョップがタケの頭にごちんと当たった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ