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更なる恐怖と絶望

3月9日改稿しました。

 男の名乗りが轟く。

「俺はワーグ派の戦士、ゼッツリオンだ。くく。雑魚三人は死んだかふがいない」

 と言って男は切り込み三兄弟のダウンした体に火を放ち燃やした。


 うう……

 何て圧だ……

 

 恐怖が俺の額と頬に汗をつたわせる。

 震えも呼んだ。 


 百九十はある巨体と貫禄と凶悪さを併せ持った顔をしたバッハみたいな髪型のその戦士は十人以上の兵を従え森の中に現れた。

 

 俺が男に激しい恐怖を感じるのは体がでかいとか顔が凶悪だからとかじゃない。

 俺は正確に相手の力が分かる熟練者ではない。

 そんな素人の俺にも恐怖を感じさせる「何か」を男は持っているのだ。


 しかもとてつもない感じ。

 真の強者はそう言う何かを着ている。

 

 また男は騎士なのに武器を持ってないのに違和感も。

 肉体だけで戦うのか。


 見るとティルは汗をかなりかいている。

 彼女が非常に危機感を募らせているのがはた目にも分かる。


 ティルはつぶやく

「この男もしや神と人間の混血戦士……」


 ゼッツリオンは言った。

「言わなくても分かると思うが、俺はロベイアンより大分強いぞ」

「…………」


「小僧お前は分からんだろうが娘、お前なら何となく分かるだろう」

 ゼッツリオンはティルに視線を向けた。

 

 彼は彼女なら察知してるみたいだと見抜いている。

「ぐっ!」

 見抜いている事が彼の強さを表している様で一層の恐怖を煽った。


「ところで小僧、貴様は相手の強さを見抜く事は出来なくても実力的にはかなりの力を有しているようだな。よって俺が派遣されたってわけよ。さらに御付の女二人もここで殺させてもらう」


 俺は女二人をかばう様に前に出た。

 そして無駄とは思うが聞いた。


「あんたとは戦いたくない。俺は人を殺したくないんだ」

「はっはっは、どこまでも平和ボケした奴だな。それは無理だ。殺せと言う命令だ」


「父さんは殺されそうになっても話し合いしようとしていた。だから俺もそうしようと思った」


 ティルは前に出た。

「貴方のかなう相手じゃないわ。ここは私が行く」


「はっ!」

 構え、力を溜めるティル。

 ティルにはさっき俺を吹っ飛ばした時より遥かに強い光が集まっていく。


「はああ!」

 力を貯めた彼女は俺が見た物よりはるかに強力な長方形直線放射型光魔法を放った。


 光は一直線にゼッツリオンに向かう。

 俺の今使えるエアショットより遥かに強い威力を感じる。   


 魔法はゼッツリオンにまともに命中した。  

 激しい激突音、皮膚を焼く音が響いた。

 

 ところが、ゼッツリオンは体から煙を出しているが全く堪えず笑みを浮かべている。

「くっ!」

 まさか、一パーセントも効いた様子がない。


 ここまで全く効かない事はティルにも予想外だったようだ。

 さっき子分達を簡単に倒したティルなのに。

 突如、ティルは力なく倒れた。


「どうしたんだ」

「私は地上では大きく力を消耗するの。もう立てない、逃げて」

「しかし!」


 俺は倒れたティルを見て決意を固めた。

 こうなったらやれるだけやってやる。

「うおおお!」


 俺は力の限り、全てを賭けるようにエアショットを放った。

「食らえ!」


 エネルギーも気合いも十分。

 今撃てる最高の一発だ。


 これがゼッツリオンに直撃した。

 しかしゼッツリオンはまるで胸の埃を払うような仕草を見せた。 


 当たってもまるで子供に殴られた程度にしか感じていない。

 いや子供に殴られたどころか蚊が刺したくらいみたいだ。


 俺は修行はじめたばかりだ。

 大した威力はない事も分かってる。


 そもそも部下に勝てないのに上官に勝つわけがない。

 あいつが言う様に俺は戦いが嫌いな平和ボケかも知れない。

 身の程も分かっていない。


 でも今はやるしかないんだ。

 二人を守らないと。


 ロベイアンと怨みで戦った時と違う。

 でも恐怖が邪魔をする。


 エアショットは連続では撃てずかなり力を溜めなければならない。

 その為単発式エアカッターを放った。


 今度はエアカッターがゼッツリオンに向かった。

「ふん」 


 しかし、カッターが頬に当たったが全く動じていない。

 かすめて少し血が出た程度。


「くっ、ならば接近戦で地熱パンチを撃ちこむしか」

「スカーズさん! 接近戦は危険です!」


 効かない事が俺を追い詰めた。

 しかしロミイが止めるのも効かず俺は行った。

 行ってしまった。 

 文字通り突撃した。


 いや特攻だ。

 この前ロベイアンに撃った時より強い力を込めて。


 それは「両親が殺されたから」というより女二人を守らなきゃいけない、そして神族を集めて母さんが命じた目標を達成しなきゃいけない。


 そう言う理由からだ。

 ティルは俺より強いんだけど、俺は男の役割を果たしたいんだ。


 ロミイは戦いに反対したけど、今だけはティルの言う事が正しく聞こえた。

「うおおお!」


 しかし俺の拳はゼッツリオンの頬にヒットしたが反応そのものがない。   

「え?」


 まるで無機質な壁を殴ったみたいに。

 硬いが皮膚はやわらかい


 手応えがない。

 それ以上に彼の表情が動いていない。 


 しかも微動だにしていない。

 俺に恐怖が芽生えた。

 

 攻撃して煽るんじゃなかったと言う認めたくない恐怖。

 ロベイアンに怒ったのが人生最大なら、恐怖は今が最大だ。


 謝れば良かった。

 それほどの恐怖を感じる心の声が出た。

 額から流れる汗。

 

 二人には見せられないけど。

 本当に二人を置いて逃げそうだった。

 また逃げるのか俺は。


 俺の心に太い声が響く。

 死を意味するほど。


「小僧、パンチってのはこう打つんだ」

 ゼッツリオンは俺の腹に重い重いパンチをめり込ませた。

 内臓が飛び出すか破裂しそうな威力で俺は吐血した。


 いや本当に破裂したかも知れない。

 ゼッツリオンはさらに顔も何発も殴った。


 人間の拳と言うより丸太か鉄球を何発も何発もぶつけられている感覚。

 顔が破壊されそうだ。


 最後の賭けだ。

「空圧地熱弾!」


 それは俺が秘密裏に開発した空圧と地熱を合わせた技。エアショットの三倍の威力の技だ。

 ぶっつけだけど。


 しかし、これも全然効かない。

 顔にあたって爆発したけどゼッツリオンはにやりとしてるだけ。

 その表情が俺をさらにどん底に落とした。

 

 何がなんだか分からない。

 人生ここで終わりと思った。


 使命とか頭から既に飛んでいた。

 奇跡なんてない。

 

 最初からない。

 いや今日まで生きれたのが奇跡だったんだ。


「スカーズさん!」

 突如ロミイは泣きながら飛び出した。

 俺が死んだみたいなすさまじい取り乱しだった。

   

 完全に我を忘れ悲痛な叫びと共にロミイは全力でゼッツリオン目掛けて駆け出した。


「よせ!」

 残った意識で顔を青ざめながら必死に俺は止めたが彼女は止まらない。

 

 一体、何をしようと言うのか。

 彼女が来てもどうしょうもない。


 まるでハエでも見るかのようなゼッツリオンはまるで意に介していない。

「何だ女?」


 しかしロミイは絶叫する。

 悲しみだけでなく凄まじい怒りを込めて。


「はああっ!」

 ロミイは俺が怒ったの怖いと言ったけど、俺もロミイがこんな怒ったの見た事はない。


 そしてロミイは何を思ったかゼッツリオンに命を全て賭けるような気迫で抱き付いた。

 ゼッツリオンは舐めていた為隙だらけだった。


「なっ!」   

 ロミイの意外な行動にゼッツリオンは初めて戸惑いと隙が生まれた。


 そしてロミイは顔を真っ赤にし悲壮な覚悟で叫んだ。

 パンク寸前のタイヤみたいだ。

 でも、何をする気なのか俺には全く分からない。


「はああああ!」

 しかし俺の目には完全に命を捨てようとしていると思った。


 そして状況を表す様に地面と空気と木々が揺れた。

 何が起ころうとしているんだ。


 ロミイの体に凄まじいエネルギーが充満する。

 何か突別な技でもあるのか?

 知らなかった。


 そして

 とてつもない大爆発は起きた。

 一瞬の内に。


 森の木々さえ粉みじんになりそうに。

 ゼッツリオンや兵達はどうなったのか分からない。


 俺とロミイはどうなったんだ。

 死んだのか……

 あっという間の出来事だった。


 と思ったら俺とロミイは空中にいた。

 羽根を出したティルに抱きかかえられて。

 最後の力を振り絞った彼女が助けてくれた。


 ティルは言った。

「あまり長距離は飛べないわ。どこかに隠れましょう」


 俺達は洞窟に入った。

 しかし三人とも立つ体力はなかった。


「ありがとう、ティル」

「いいえ、力を使い果たしたのもそうだけどあいつに何のダメージも与えられなかった」


「あいつ滅茶苦茶強いよ。死んだのか知らんけど」

 そして動けないけど俺はティルに言った。


「俺、覚悟を決めたよ。戦う、そして強くなる。さっきはロミイとどっちが正しいのか迷ったけど、もうそうも言ってられない。俺を鍛えてくれ」

「分かったわ」


 それともう一つ気になった事があった。

 ロミイは苦しんでいる。

「体が凄く熱い、はあはあ!」


「高熱を出したんだ。でもロミイにあんな凄い技があったなんて知らなかった。おっと体は大丈夫? あれ魔法なの?」

「爆弾を起動させたんです」


「え?」

 その言葉に思い切り戸惑った。


「私は人間じゃない」

 と言い腹を開けた。


 蓋の下は機械になっている。

「え、え、え?」


「私は機械人形なんです。それをお后様が買ってくれて侍女にしてくださったんです。お后様は『人間と同じ感情がある機械』とおっしゃり分け隔てなく可愛がって下さいました。このご恩に報いようと思ったんです」


「……」

「でもスカーズさんには嫌われるのが怖くてずっと黙ってました。私の事嫌いですよね」

 

「そんな事ないよ。ロミイは大事な友達だよ」

「……」

「これからも一緒にいよう」


 ロミイの目に涙があふれた。

 えっ機械なのに涙を?


 ティルは何故かやっかむような顔で俺達を見ていた。

「ティル、今日から特訓しよう!」

「ええ!」


 体力が回復した俺達は夜特訓を始めた。


 俺は聞いた。

「そのチェンジってどう言う原理なの?」

「このブレスレットの力よ。もう一つあるんだけど」


 とティルが予備のブレスレットを見せるとロミイは興味を示し聞いた。

「それがあれば姿が変わるの? 例えば私でも」


「そうよ。身体能力も大きく上がるわ」

「図々しいけど、わ、私もそれ欲しい。強くなれるんですよね」


「あ、そうね、ただ、今はこれは貴方に渡せないわ」

「え?」


「体を普段から余程鍛えてないとパワーについていけなくなるの。負荷も凄いし」

「そ、そうなんですか」


 ロミイは少し残念そうだった。

 そしてリンゲの町は近づいた。   


「ゼッツリオンは神族と人間の混血よ」

 ティルが不意に言った。


「え? 神族と人間の混血?」

「間違いないわ。こめかみに印があったの」


「何だって? そんな種族が地上にいたんだ」

「うん。実は貴方達のご両親が地上に落ちて来る二十年前に既に神族は貴方のご両親と同じ様に地上で隠れて生活してる人達が結構いたの」


「そ、そうだったんだ!」

「で、今と同じ様にそれを知ったエクスド軍は神族殺害を開始したわ。でも貴方達の先輩にあたる神族は黙っていなかった。勇気を出して結託し神術を武器に軍と戦った。その力の前に一旦は軍も退却したわ。でもそこで悪い事実を知られたの」


「悪い事実?」

「うん、その時大人神族と一緒に戦った子供の神族は大人の神族よりさらに凄い神術を使った。この為『神族の子供は強い、且つ混血は強い』と言う事を軍に知られた。今度はエクスド軍はもっと大勢の軍勢で神族戦士を襲い殺したり捕まえたりした。『人間と神族の混血は強い』と知ったエクスド軍は捕まった男性神族と軍が用意した女性に関係を持たせて混血児を何人も生み出した。彼らを育てて軍の兵士にしたのよ。『選ばれた戦士』として」


 ロミイは言った。

「酷い」


「で軍で訓練を受けさせ突出した能力を持った戦士を育て配下にした。ゼッツリオンが人間なのに異常な能力を持っているのはその為よ。そういう混血戦士は他にも多くいるわ。たぶんまた立ちはだかってくると思う。手強い敵として」俺は聞いた。

「ロミイは誰が造ったの?」

「有名なロッドロン博士です」


「え? 天才と呼ばれながら姿を消した?」

「軍に利用され連れていかれました。私は世話用ロボットプロトタイプです。実は私は外見が人間と同じ様に子供から成長するんです」

「すごい!」


「そして『愛の感情』を持ったロボットとして私は感情を持って生まれ博士に愛情を持って育てられました。ロッドロン博士は結婚してないし娘みたいに。でも博士は天才過ぎて認められずお金がなくなって行きました。そこに悪い人がつけこんで私を売り物にすれば儲かる、と持ちかけ優しかった博士は誘惑に負けました。そして私の素体を元に量産型人間は造られ奴隷市場に送られました。私の兄弟、みたいな感覚じゃなかった。私の身体は乱造され安く売られるみたいな気持ちでした。始めは愛をテーマに開発した博士は金儲けに走るようになりました。私は量産型の元となり金儲けに利用され博士の娘の感覚もなくなって行きました。

しかし悪い人は軍とも繋がり軍はロッドロン博士を利用するため連れていきました。私は町の奴隷売買場に売り出されました。絶望を感じました。ところがそこを町の見回りで偶然来ていたお妃様が買って下さいました」


「でも何で身体にあんな強力な爆弾を?」

「博士は兵器の開発にも熱心で私の自衛の為付けました。その情報が漏れ軍に利用されました。生物兵器の開発に利用されるとか」


「じゃあその生物兵器が今後人を襲うことも?」

「ドラゴンやゴーレムがあると言いました」


「人間になりたいわ」

「ロミイ……」


 ゼッツリオンに敗北した俺達は町を目指しながら一から特訓する事になった。

「ティル、頼む。容赦なく」

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