二人の少女の友情と犠牲
2月12日改稿しました。
次はオザーロの町だ。
次も女の子らしい。
地図によると助けるべき神族は後三人だ。
後三人。
・スカーズ達のいる場所から別の場所に視点は移ります。
オザーロの町の十六歳の二人の女学生は元気なく学校の帰り道にいた。
二人とも大きな悩みがありそうな神妙な顔をしている。何か言いたいが切り出せない雰囲気だ。
人通りの少ない道でほとんど二人で緊張感と気まずさが増す。
「ねえ」
「……」
悩みがありそうな片方の少女はもう片方に聞かれても下を向き返答がない。
「大丈夫?」
聞いた方の少女、チャッカは体調も悪そうで悩む少女ミーモルに聞いた。
「貴方は何かに怯えてるように見えるんだけど、何かそれが普通じゃない怯え方みたいで。良ければ私に話して」
「……」
ミーモルから明確な返答はないが無視ではなく話は聞いている。
答えられないのが辛そうだ。
チャッカははつらつとした明朗なイメージ。
あまり弱さを見せなさそうで人の悩みとか聞くタイプに見える。社会性が高そうだ
逆にミーモルは大人しい。地味な髪型である。
しかし瞳に芯の強さが感じられ怒ったら言いたい事も言いそうだ。
チャッカはミーモルに自分が味方であることを優しく強調した。
「いつでも、気がむいたらで良いから。あなたは一人で悩みそうだから」
ミーモルはもじもじしながらはっと前を向き、意を決して言った。
「わ、私、人間じゃない! 神族の末裔なんです!」
チャッカは言葉を失った。
ミーモルはふるえながら続ける。
「怖かった。いじめられたりするんじゃないかって。でもここまで親身になってくれた貴方に嘘は付けない」
「ありがとう。打ち明けてくれて」
チャッカは最大限に安心を与えかつ頼もしく見える笑顔で答えた。
チャッカの笑顔に少し意外さを感じたミーモルは同時に不安を出し言った。
「皆に言うの?」
「とんでもない。私達二人の秘密にしましょう。それとね、私はネブル人の末裔なの」
人の痛みが分かりかつさわやかな言い方だった。
ある意味こんな雰囲気はチャッカでないと出せない。
「え? あの差別迫害された?」
「私も同じよ。言うのが怖かったの」
ところが安心したのもつかの間だった事をミーモルは思い知る。
ミーモルは次の日教室に行き衝撃を受けた。
「殴られてる!」
チャッカが生徒達に殴られている。
何と男子生徒も含めてだ。
何が何だか分からないミーモルに生徒は説明した。
「あの子ネブル人の末裔だったのよ」
ミーモルは聞いた。
「誰が言ったの?」
「自分で」
「やめてえ!」
喧嘩の輪の中にミーモルは割って入った。
そこから何とかチャッカを助けだし抱いた。
しかし傷ついたチャッカはあざを耐えながら作り笑顔で言った。
「私が自分で言ったのよ。その方がすっきりすると思って」
ミーモルは思わず言った。
「私も神族だって言うわ……」
「駄目よ! 貴方もすごくいじめられるわ!」
チャッカは決死の覚悟で言った。
「いじめられるのは、私一人でいい」
「そ、そんな、じゃあ貴方は皆の注意を自分に向けさせる為に⁉」
しかし翌日、チャッカは学校に来なくなった。
ミーモルは家に行くと母が出た。
「誰とも会いたくないって言ってるんです。でもミーモルさんにだけは手紙を渡してくれって」
チャッカは何とか答えた。
「私が目立って差別を受ければ貴方は受けなくて済む。だから安心して」
「ぐっ!」
そして家の近くを歩いていたミーモルにスカーズ達は神族ではないかと聞いた。
ミーモルは悩みの真っただ中で初対面のスカーズ達にいろいろ言えた。
自分でも不思議なくらい。
吐き出しすがるように。
スカーズは答えた。
「そうだったのか」
ミーモルは言った。
「私は理想郷までついて行きたいです。でもチャッカを置いていくなんて私には出来ない。彼女の方が行くべきなんです!」
ロミイは言った。
「分かった。じゃあ、二人で行ける様に頼むわ」
「無理だったとしても何としても通すよ」
ところがその日ミーモルにとんでもない報が届いた。
「チャッカが自殺未遂を!」
「え?」
「自宅で手首を切ったが命は取りとめた」
その夜ミーモルは自室で一人で寝ていた。
「う、うう、可哀そうだ。私が悪いんだ。でもいじめた人達も許せない。復讐をしたい」
そこに突如エクスド軍の魔法使いが現れた。
「誰⁉」
魔法使いは言った。
「チャッカを追い詰めた奴らに復讐する力を与えよう」
「貴方みたいな怪しい人を信じられないわ!」
「もう遅い。お前の心には憎しみが生まれている。それに入り込めばいいだけだ」
ミーモルは魔法で心を乗っ取られた。
次の日異様な雰囲気でミーモルは登校しいじめた生徒を睨みつけた。
「ぐあああ!」
別の少年を睨み光を放った。
「うわあ、頭がおかしくなる!」
低いトーンでミーモルは言う。
そこに情けはない
「チャッカは私をかばって傷ついた。元はと言えば全て私のせい。分かってるけど。でもいじめた奴らも絶対に許せない。差別やいじめをしていい理由なんてない。だったら苦しみを味あわせてあげるわ」
そこへスカーズ達は現れた。
「やめろ!」
「放して!」
「放すかよ!」
「貴方も餌食にするわ」
「ぐわあ!」
「よすんだ」
「俺は操られないぜ」
「私も」
ミーモルは言った。
「な、何で? 貴方達には憎しみがないの?」
「あるさ、でも俺はそれと戦ってるんだ」
「!」
「俺もだよ。許せない事もあるけどそれでも許さなければいけない事もあるんだ」
「どうして? そんなの分からないわ!」
「俺も上手く説明出来ない。でも悪人を全て感情のまま憎んじゃいけないんだ」
「外へ出ましょう」
「何で、貴方達は深い関係じゃないのに」
「これからは仲間だからだ!」
「!」
ロミイは言った。
「スカーズさんやスカーズさんのお母様は私が機械でも分け隔てなく扱ってくれた。だから私はここにいられた! もし憎しみを抑えられなかったとしてもせめて私達だけでも信じて!」
「そうしなければ貴方もチャッカさんも二人揃って不幸になってしまうわ!」
悪霊はささやいた。
「娘! 何をやっている! 暴れろ!」
「お前が復讐したいと言うから力を与えたんだぞ。裏切る気か?」
ミーモルは負けなかった。
「私、他の人が憎かった。でもこの人達のおかげで自分の全部は正しくないって思えた! 葛藤しているのよ!」
「裏切者め!」
「耳を貸すな! そいつらは君を利用しようとしているだけで同情してるわけじゃないんだ!」
「もっと呪いの力を強くしろ!」
「ああう!」
「ミーモルさんの体に負担がかかりすぎてしまうわ!」
「何でこんな事をするんだ! 自分でやりゃいいだろ!」
「その娘が暴れて殺人でも犯せば世間の神族を見る目はもっと厳しくなる。迫害に意を唱えなくなるだろう。喜べ娘、役に立てる事に!」
スカーズ視点に戻ります。
俺は渾身の力でなぐった。
「おのれ!」
俺の背中に矢が何本も刺さったが痛みは感じない。
弓兵も殴った。
圧し掛かって何度も何度も。
その時俺は蹴られた。
「負けてしまったのか」
「その娘はもう手を汚した。後戻りは出来ん」
「手なんか汚れちゃいない! 自分を信じるんだ! 君を止める為なら命だって捨てる!」
「な、何でそこまで」
「使命もある。でも純粋に助けたいんだ」
「うあああ」
ミーモルは頭を抱えた。
「ええい、何をしている!」
「わ、私は操られたりしない。初めて会ったのにこんなに私にしてくれる人もいるんだもの。皆を不幸にする事なんてできない!」
「じゃあ死ね」
「あっ!」
矢がミーモル向けて放たれた。
しかしミーモルには当たらなかった。
突如飛び出したチャッカが受けた。
「‼」
「ああ」
「よ、良かった。かばえて」
「いやよチャッカ!」
「死んでも生まれ変わっても友達」
「あああ!」
俺は嘆いた。
「怒りよりも、何も出来ずチャッカさんを救えなかった。う、うおおお!」
その時建物を突き破り雷が何発も落ちてきた。
兵達を直撃した。
まだ何発も落ちた。
俺は自我を失い、意識と比例し勝手に稲妻が落ちた。
当然食らった兵士は黒焦げだ。
勿論俺はそこまでする気はない。
いやもとはと言えば俺が悪いんだ。
俺は自分の胸を刺し貫こうとした。
ミーモルは俺に抱きついた。
「!」
「駄目! 自分を見失っちゃ!」
この子は自分が辛いのに身を挺して俺を。
俺は皆を救わなきゃいけないのに彼女に教えられた。
そうだ、辛くても自我を失ったら。
例え憎しみじゃなく自分への怒りであっても。
「大丈夫、後は俺達に任せてくれ」




