バッサ家の冷たさ
6月10日改稿しました。
俺は言った。
「また子供助けたね数奇な感じ。ラセルとマグーバから助けた子供で二人」
ティルとロミイは言った。
「この子ももしかして神族の子」
「坊や名前は? どっちの町から来たの?」
「エクリ。アンクックの町」
ケビンは颯爽と言った。
「じゃあ僕の誘導で行きましょう」
「おいおい戦闘じゃ怯え切ってたのに道先導だと急に前に出るな」
「いいじゃないですか」
ケビンは偉そうに言った。
「君、道に迷わない様に」
「しっかり者ぶるなよ」
歩きながらロミイは言った。それにエクリは答える。
「この子も神族なのか興味がわくから聞くけど、ご両親は何やってるの?」
「お父さんは貴族、お母さんはそこへ結婚しに来た。でおばあちゃんもいる」
「貴族って事はお父さんは天界の人じゃないのね。じゃあお母さんは」
「どこか知らない国から来たって。言えないって。それをおばあちゃんは気に入らないっていじめるの。お父さんは見てるだけ」
ケビンの誘導で上手く魔物に会わずアンクックに。
屋敷に着いた。
ロミイは地図を見た。
「バッサ家ですね。ここは確かに地図にあります」
「と言う事はこの家系は神族?」
エクリが言った。
「あのね僕とお母さんは人間じゃないっていつもおばあちゃんが言うの。で、お母さんは手首を切った跡や首にロープの跡があるの」
俺とロミイは言った。
「え!」
「手首切りに首吊り⁉️」
ティルが言った。
「何か聞くだけで中が想像できて怖いわ」
「俺も不安だけどこの子届けないとね」
とんとんとバッサ邸の戸を開けた。
「誰ですか」
冷たそうな使用人らしき声だった。
「あのエクリ君を届けに」
「これは失礼しました」
「まあまあ!」
そこに少し気弱そうな父親らしき男と姑らしき顔の大きな女が来た。
エクリは叫んだ。
「おばあちゃん! お父さん!」
エクリは喜んだ後聞いた。
「あれお母さんは?」
男は言いたくなさそうに言った。
「ああ、今落ち込んでるよ喧嘩して」
「え? また?」
俺達は通してもらった。
しかし何か空気が冷たい。
「ありがとうございます! 私はバッサⅡ世。こちらは同居の母です」
図々しそうな女だった。
今はエクリが見つかってたまたま機嫌がいいだけみたいだ。
「いえいえ。ところで……バッサ二世男爵は地上の生まれですか?」
「え?」
「あっ聞き方が悪かったです。お母様はどこの国の方ですか」
「え?」
バッサは戸惑っていた。少し猜疑を込めた。
「妻ハーレルは商人のでですが、初対面で妻の事を聞かれるとは」
俺は思い切って本題に入った。
「あの、信じていただけるか分かりませんが僕たちは各地の神族を助けて集めてるんです」
「え⁉」
まるで財布を落としたかのようにバッサは慌てた。
聞かれたくない核心を突かれた様だ。
しかし俺はあえて畳みかけた。
「もしかして奥様は神族?」
「そ、そんな事」
「ではこちらも証拠を」
ティルは背中から羽根を出し、俺は手から羽根を出した。
「これで信じてもらえますか」
しかし姑は言った。
「何よ一体! そんなのはトリックよ! 家の事知っているなんてあなた達怪しいわ!」
「怪しくないんです!」
「何とか奥様に会わせていただけませんか」
「妻は話す事はないと思います……」
何か隠し事のありそうな雰囲気である。
そこへエクリが助け舟の様に言った。
「この人達は僕を助けてくれたんだ! だからお母さんにも合わせてお礼言ってもらう」
これが殺し文句となりバッサと姑は道を開けてくれた。
しかし二階に上がる時二人のひそひそ声が聞こえた。
「怪しすぎるよ。警察を呼びたい」
「でもエクリの恩人だから」
皆で二階へ上がると妻がいた。
「お母さん」
「エクリ!」
二人は喜びで抱き合った。
しかし妻は顔がそれでも青い。
「ありがとうございます」
「お返しと言っては何ですが少しお話を聞かせていただいて良いですか」
妻は少し不安そうだった。
妻は左手の手首に包帯がある。
「え、それってリストカット」
「訳は後で聞きましょう」
で俺達はいきさつを話した。
「まあ」
話に奥さんは同情してくれた。
いい人そうだ。
「そうですか。 理想郷へ行くため神族を……私の名前や住処をご存じとは」
「母は王女なもので。ハーレルさんですよね」
「え、ええ!」
「貴方は公爵家の人ですよね。でも今のご主人は地上の人間、何故地上に」
「五年前の天界震災で」
「思い出した。天界にも地震があるんですよね」
「私は家でただ一人地震から助かりましたが天界の夫は重症で働く事も出来なくなり家を支える自信を無くしていました。そんな中再度の地震で私一人地上に落ちました」
「え? 何もなしに?」
「はい。生活能力も何もない私が倒れていたのをバッサさん達が助けてくれたのです。そして私は助けてもらう内にこの家の人と親しくなり『結婚しないか』と言われました。お母様もその頃は優しかった。世話になった恩に私は結婚したのです」
「え! 天界にご主人いるんですよね」
「それしか私が生きる術はなかった」
「……」
「でも、エクリが地上に落ちてきて発見され私の子と知りあの人とお母様は冷たくなりました。『子供がいるのに黙ってたんだね!』とか。主人は別れるとは言わずエクリとも住んでいい事になりましたがその日からお母様のいじめが始まりました。私が神族と打ち明けた事も裏目に出ました」
「それで手首に傷を」
「だったらなおの事私達と一緒に行かないと」
「でもあの人達は私を奴隷の様に扱っています」
その時使用人が青い顔で来た。
「外に軍の人が!」
「逃げたいところだけど、やっつけよう!」
「えっ逃げたいって、エクスド軍の奴らを傷つけたくないと思ってるの?」
外が騒がしくなってきた。
恐らくワーグ宰相配下の戦士達だ。
「逃げられなそうだな」
俺達を追って来たのかそれともこの家か。
あまり強い敵の気配はしないな。
呼ばれるように外に出ると兵士が十人いた。
兵士達は余裕綽々だ。
「おいおい小僧と娘だけ出てきたぜそれで戦おうってのか」
「貴様らもそうだがまず生き残りの神族を出してもらおう」
俺とロミイはきっぱり断った。
「やだな!」
「お断りです!」
見た限り、いつもと違いボス格らしき人物がいない。
俺はいけると踏んだ。
「行けるぞ。油断は禁物だけど一気にやろう」
ティルも「大したことなさそうね」と言う余裕を見せていた。
「とはいえ俺はエグイゼルと戦ったとはいえ剣術はまだ騎士や兵士に劣る、ここは魔法中心に行こう」
「私が前衛をやるわ」
ティルが言う。
ロミイも言う。
「私も爆弾で攻撃します」
「いや、あの攻撃は負担がかかるから君は後ろにいるんだ」
兵士達はいきり立った。
「やっちまえ!」
「うおお」
俺はエアカッターシャワーを扇型に多くの兵に当たるように乱射した。力の限り。
「ぐあ!」
すごく疲れる。
でもやっぱり大人数を相手にするのにこれは正解だった。
切られて兵の動きが鈍くなる。
これを素早くティルが片付けて行く。
「ちょっとインターバルするから時間を稼いでくれ」
俺は短時間で呼吸を整えた。
「よし、俺はもう一つの武器地熱伝導だ」
拳で地面を叩くと伝導地熱が兵達を襲い五、六人一気に吹っ飛ばした。
ティルも残った兵士を片付けた。
「今日は割と簡単に勝てたね」
「ボスがいないからかしら。でもスカーズ、貴方の力もあがってるわ」
「そ、そう?」
ティルは感心し認めた。
「気が付かない内に。エグイゼルとの戦いで成長したのかも。いえ進化に近いわ。さすが神様」
そしてロミイも褒めた。
「さすがですスカーズさん」
しかしティルが横から言った。
「貴方は褒めないで」
ロミイがきっとした顔になる。
「おいおい何で二人が揉めるんだ? 意味が分からん」
ティルは何か分からんが疲れていた。
「ふう、敵は倒したし家に戻りましょう」
バッサ家に戻ると姑モーメが迎えてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、でハーレルさんとエクリ君を連れて行っていいですか?」
「え?」
途端にモーメの顔が曇った。
「そ、そんな事」
「お二人がここにいるとまた狙われます。だから連れて行きたいんです」
「駄目よそんな事」
「貴方はハーレルさん好きですか?」
「嫌いよ。あの女は人間じゃないのに身分を隠して嫁いだ。だからエクリちゃんも人間じゃなくなったのよ」
「じゃあ、何故別れちゃいけないんですか?」
「……」
ハーレルが奥から現れた。
「お母様は私をこき使いたくてこの家に置いてるんです」
「何を言い出すの貴方!」
「私が何でも言う事を聞く都合の良い女だからでしょう! こんな生活はもう耐えられない! エクリを連れて行きます!」
「ハーレル!」
バッサは怒鳴った。
「お前と離婚すれば俺の経歴に傷が付く」
さらにモーメも言った。
「そうよ、貴方はこき使われる女なのよ! それにエクリを普通の子供に産まなかった恨みも含めてね!」
ハーレルは悔し涙を流した。
「死んでやるわ! 手首でも飛び降りでも首吊りでも!」
「あんたにそんな事する勇気あるの!」
「二階から飛び降ります!」
「止めてよお母さん!」
俺はこれを見てすさまじい怒りで震えた。
両親が殺された時と同じで。
人の人格を奪い子供にさえ見せるとは!
すると突如空が暗雲に包まれた。
「何だ!」
「うおおお!」
俺が叫ぶと外に雷が本当に落ちた。




